最新記事

日本経済

食品業界値上げ続々、それでも上がらぬインフレへの期待 将来不安の影大きく

2019年3月5日(火)19時15分

食品業界を中心に値上げの動きが相次いでいる。大型ペットボトルや即席麺、サバ缶、冷凍食品、アイスクリーム、スナック菓子、コーヒーなど幅広い範囲で価格上昇が始まった。写真は都内で2014年2月撮影(2019年 ロイター/Yuya Shino)

食品業界を中心に値上げの動きが相次いでいる。大型ペットボトルや即席麺、サバ缶、冷凍食品、アイスクリーム、スナック菓子、コーヒーなど幅広い範囲で価格上昇が始まった。ただ、専門家からは今回の値上げが人々のインフレ期待に火をつける可能性は低いとの見方が出ている。

企業経営者からも、将来にわたって社会保障制度が安定しているという「安心感」がない現状では、消費を手控えて将来に備える動きが継続し、物価が上がりづらい状況が続くとの見通しが出ている。

物流費の上昇に悲鳴

「人件費・物流費の上昇を吸収したいが、吸収しきれない」(味の素の西井孝明社長)、「われわれは耐えて耐えてここまできたが、コスト削減ではまかなえない」(コカ・コーラ ボトラーズジャパンホールディングスの吉松民雄社長)──。昨年後半から今年にかけて、値上げを発表した企業経営者の口から飛び出したのは、物流費・人件費の上昇に対する悲鳴にも近い声だった。

今回の値上げはこれまでと違い、原材料価格の上昇よりも、人手不足による人件費や物流費の上昇を転嫁するケースが多いのが特徴だ。

実際、日銀の「企業向けサービス価格指数」によると、宅配便やトラック運送など道路貨物輸送の価格は、2010年から1割超上昇している。

サントリーホールディングスの新浪剛史社長は、2月15日の会見で「猛暑で(量が出るのに)収益が上げられないというのは考えづらい」と、現下の収益構造を嘆いた。同社は人工知能(AI)やロボットの活用などを通じ、サプライチェーンコストを下げていく方針だ。

身近な商品の影響受ける物価観

日銀が物価上昇2%を目標に掲げて「量的・質的金融緩和」を導入してから、4月で丸6年となる。この間、全国消費者物価指数(除く生鮮食品、コアCPI)の前年比は一時1.5%(消費増税の影響除く)まで上昇したが、その後、原油価格の下落や消費増税による需要の弱さが足を引っ張り失速。現在も2%には届いていない。

日銀は、1)2%の物価目標に強くコミットすることで、予想物価上昇率(インフレ期待)を引き上げる、2)大量の国債を購入することで名目金利を引き下げる──の合わせ技で、実質金利を押し下げようとした。

その結果、前向きの循環メカニズムが働き出し、最終的に需給の引き締まりによる物価上昇を目指してきたが、物価の動きは鈍いままだ。

インフレ期待、すなわち物価観は人々の主観に基づくため、多様でばらつきが大きい。先行研究では、1)実際の物価上昇率よりも上振れて推移している、2)5の倍数などきりの良い数字が多い──などの性質があることがわかっている。

また、短期的には食料品やガソリンなど購入頻度の高い財・サービスの影響を受けやすく、内閣府の消費動向調査をみると、年齢や性別、年収、地域によっても異なる傾向がある。

日銀が「生活意識に関するアンケート調査」(13年9月調査)で5年後の物価予想の根拠を聞いたところ「ガソリン価格の動向をみて」との回答がもっとも多かった。

以下、「頻繁に購入する品目(食料品など)の価格の動向から」、「商品・サービスの価格や物価に関するマスコミ報道を通じて」と続いており、一部の先行研究と整合的な結果となっている。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

英小売売上高、3月は前月比横ばい インフレ鈍化でも

ビジネス

日産、24年3月期業績予想を下方修正 中国低迷など

ビジネス

TSMC株が6.7%急落、半導体市場の見通し引き下

ワールド

イスラエルがイラン攻撃と関係筋、イスファハン上空に
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:老人極貧社会 韓国
特集:老人極貧社会 韓国
2024年4月23日号(4/16発売)

地下鉄宅配に古紙回収......繁栄から取り残され、韓国のシニア層は貧困にあえいでいる

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 2

    止まらぬ金価格の史上最高値の裏側に「中国のドル離れ」外貨準備のうち、金が約4%を占める

  • 3

    「毛むくじゃら乳首ブラ」「縫った女性器パンツ」の衝撃...米女優の過激衣装に「冗談でもあり得ない」と怒りの声

  • 4

    中国のロシア専門家が「それでも最後はロシアが負け…

  • 5

    価値は疑わしくコストは膨大...偉大なるリニア計画っ…

  • 6

    中ロ「無限の協力関係」のウラで、中国の密かな侵略…

  • 7

    ハーバード大学で150年以上教えられる作文術「オレオ…

  • 8

    休日に全く食事を取らない(取れない)人が過去25年…

  • 9

    「イスラエルに300発撃って戦果はほぼゼロ」をイラン…

  • 10

    日本の護衛艦「かが」空母化は「本来の役割を変える…

  • 1

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 2

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 3

    NASAが月面を横切るUFOのような写真を公開、その正体は

  • 4

    犬に覚せい剤を打って捨てた飼い主に怒りが広がる...…

  • 5

    攻撃と迎撃の区別もつかない?──イランの数百の無人…

  • 6

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 7

    アインシュタインはオッペンハイマーを「愚か者」と…

  • 8

    天才・大谷翔平の足を引っ張った、ダメダメ過ぎる「無…

  • 9

    帰宅した女性が目撃したのは、ヘビが「愛猫」の首を…

  • 10

    ハリー・ポッター原作者ローリング、「許すとは限ら…

  • 1

    人から褒められた時、どう返事してますか? ブッダが説いた「どんどん伸びる人の返し文句」

  • 2

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 3

    88歳の現役医師が健康のために「絶対にしない3つのこと」目からうろこの健康法

  • 4

    ロシアの迫撃砲RBU6000「スメルチ2」、爆発・炎上の…

  • 5

    バルチック艦隊、自国の船をミサイル「誤爆」で撃沈…

  • 6

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 7

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 8

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 9

    1500年前の中国の皇帝・武帝の「顔」、DNAから復元に…

  • 10

    浴室で虫を発見、よく見てみると...男性が思わず悲鳴…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中