ニュース速報
ワールド

アングル:大火災後でも立法会選挙を強行する香港政府

2025年12月04日(木)17時16分

写真は12月2日、香港の高層住宅火災現場近くに掲示された選挙のポスター。REUTERS/Lam Yik

Laurie Chen Jessie Pang Joyce Zhou

[香港 3日 ロイター] - 香港は中国統治下で数十年ぶりの甚大な被害が生じた火災に見舞われ、少なくとも156人が死亡し市民が悲しみに暮れているにもかかわらず、政府当局が7日に予定される「愛国者だけの」立法会選挙を強行しようとしている。

香港政府は国家安全保障上の取り締まりを続けている状況で火災を巡る市民の怒りをなだめようとしており、一部の専門家や住民は今回の選挙が政府の正当性にとって試金石になるとみなしている。

専門家は7日の選挙で警察の厳重な警備と低い投票率を予想している。この選挙は2019年に香港を席巻した民主化デモ後の21年に導入された広範な選挙制度改革に基づいており、親中派の「愛国者」だけが立候補できる仕組みだ。

「長期的な視点を持ち、断固として前進し、社会の正常な機能を着実に発展させなければならない」と香港政府トップの李家超行政長官は2日に語った。「前進すれば悲しみを力に変えることができる」

李氏は選挙を実施すれば新たに選ばれた議員が火災後の復興や改革を迅速に支援できると述べた。

政府主催の選挙フォーラムは先週の火災発生後に中断されていたが3日から再開された。これは候補者が政策を議論し市民と交流できる数少ない場だ。政治活動は依然として停止されている。

「伝統的な色とりどりで華やかな様式の選挙活動はやめて、控えめにすることに決めた。のぼりも片付けた」と新民党の主席で知名度の高い葉劉淑儀議員は語った。新民党は8人の候補者を擁立している。

「投票率は低くなるでしょう。人々はとても傷ついている」

火災現場の北部・新界地区大埔にとって、7日の投票は政府対応に依然として憤る弔問客や地元住民の関心事から遠い状況だった。

市当局は被災住民が投票できるようにシャトルバスを手配すると発表した。親中派の最大政党、民主建港協進連盟(民建連)の選挙ののぼりが焼け焦げた高層住宅群「宏福苑」の外に掲げられていた。

「正直言って腹立たしい。敬意が欠けていると思う」と、仕事前に花を手向けに訪れた37歳の弔問客トレント・ヒューン氏は語った。

「だれもがまだ喪に服していて、全ての犠牲者や被災者を気遣う以外に優先すべきことはないと思う」

50歳のジョイス・フォン氏は政府の明らかな監督不行き届きに対する地元住民の怒りが残っていると述べた。当局は火災現場で基準を満たさない可燃性素材が使用されていたと発表し、刑事事件と汚職事件の両面で捜査を開始している。

「システム全体が警告サインと失敗だらけだ。それなのにまだ選挙を実施するのか。何のためなのか」とフォン氏は語った。

元民主派の地区評議会議員ケネス・チャン氏や火災の独立調査を求める公開請願を開始した学生など少なくとも3人が11月29日以降、警察に拘束されその後保釈されたと関係筋2人がロイターに語った。

<選挙制度改革>

香港の立法会はかつて、1997年の中国返還後に民主的自由を維持するために設けられた枠組みの「一国二制度」の象徴だった。

しかし、97年以来で初めて香港の政治制度を大幅に再編した結果、2021年の抜本的な選挙制度改革が実施され、直接選挙枠は35議席から20議席に減り、候補者に対して国家安全保障審査が導入された。

残りの70議席は少人数の候補者の選挙で選ばれるため、野党の主張は立法会から事実上排除された。

香港大学の政治学名誉教授のジョン・バーンズ氏によると、伝統的に有権者の約60%を占める民主派の支持者は選挙をボイコットするようになった。

投票率は16年の58.3%から21年に過去最低の30.2%に急落した。

7日の選挙の有権者登録数は413万人で、これもまた21年の447万人から4年連続で減少している。

「投票率は前回を大きく上回らないだろう。もし低ければ、人々の怒りと不満を反映しているだろう」とバーンズ氏はロイターに語り、親中派の有権者が動員されるかどうか予測が難しいと付け加えた。

「(北京の)中央政府の視点からすれば(選挙を通じて)正当性を得たいのだ…投票率が高くなればその一つの方法にできる」

選挙ボイコットの呼びかけも中国が20年に導入した香港国家安全維持法(国安法)後の改革の一環として犯罪となった。

<控えめな選挙活動>

多くの候補者は悲惨な火災や政府の責任追及を選挙活動の焦点としないようにしている。

大埔を含む選挙区や建設関連業界を代表する7人の候補者は火災に関するロイターの取材要請に応じなかった。

「選挙期間中に火災について話すためにインタビューを受けると選挙規則違反になる恐れがある」と建築業界代表の候補者ジュリア・ラウ・マン・クワン氏はメールで回答した。

民建連のゲイリー・チャン・ハクカン立法会議員は党声明を引用して、立法会の現行任期が12月31日に終了するため、香港は「空白期間が生じないように新しい立法会を適時に選出する憲法上の責任がある」と述べた。

ロイター
Copyright (C) 2025 トムソンロイター・ジャパン(株) 記事の無断転用を禁じます。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

アングル:大火災後でも立法会選挙を強行する香港政府

ビジネス

リオ・ティント、コスト削減・生産性向上計画の概要を

ワールド

中国、東アジアの海域に多数の艦船集結 海上戦力を誇

ワールド

ロシアの凍結資産、EUが押収なら開戦事由に相当も=
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:日本時代劇の挑戦
特集:日本時代劇の挑戦
2025年12月 9日号(12/ 2発売)

『七人の侍』『座頭市』『SHOGUN』......世界が愛した名作とメイド・イン・ジャパンの新時代劇『イクサガミ』の大志

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    戦争中に青年期を過ごした世代の男性は、終戦時56%しか生き残れなかった
  • 2
    人生の忙しさの9割はムダ...ひろゆきが語る「休む勇気」
  • 3
    日本酒の蔵元として初の快挙...スコッチの改革に寄与し、名誉ある「キーパー」に任命された日本人
  • 4
    【クイズ】17年連続でトップ...世界で1番「平和な国…
  • 5
    イスラエル軍幹部が人生を賭けた内部告発...沈黙させ…
  • 6
    【クイズ】日本で2番目に「ホタテの漁獲量」が多い県…
  • 7
    7歳の息子に何が? 学校で描いた「自画像」が奇妙す…
  • 8
    台湾に最も近い在日米軍嘉手納基地で滑走路の迅速復…
  • 9
    高市首相「台湾有事」発言の重大さを分かってほしい
  • 10
    見えないと思った? ウィリアム皇太子夫妻、「車内の…
  • 1
    7歳の息子に何が? 学校で描いた「自画像」が奇妙すぎた...「心配すべき?」と母親がネットで相談
  • 2
    100年以上宇宙最大の謎だった「ダークマター」の正体を東大教授が解明? 「人類が見るのは初めて」
  • 3
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで墜落事故、浮き彫りになるインド空軍の課題
  • 4
    【最先端戦闘機】ミラージュ、F16、グリペン、ラファ…
  • 5
    128人死亡、200人以上行方不明...香港最悪の火災現場…
  • 6
    【寝耳に水】ヘンリー王子&メーガン妃が「大焦り」…
  • 7
    【クイズ】次のうち、マウスウォッシュと同じ効果の…
  • 8
    【クイズ】世界遺産が「最も多い国」はどこ?
  • 9
    【銘柄】関電工、きんでんが上昇トレンド一直線...業…
  • 10
    人生の忙しさの9割はムダ...ひろゆきが語る「休む勇…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 3
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎の存在」がSNSで話題に、その正体とは?
  • 4
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 5
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸…
  • 6
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 7
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 8
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」は…
  • 9
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 10
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中