最新記事

英国の悪夢

ブレグジットの勝者はEU その明るい未来像

EUROPE’S FINEST HOUR

2019年3月27日(水)11時25分
マイケル・ハーシュ

イギリスの屈辱は、EU内の最も先鋭的なポピュリストやナショナリストにも無視できない教訓になっている。もはやEUからの完全離脱はあり得ない選択肢で、政治的な自滅の道だ。

EUにとって大きな勝利に違いない今回の流れは、お決まりのパターンでもある。2010年のギリシャ財政危機以来、EUという核は大方の予想に反して持ちこたえ、EUに反抗した加盟国の政治家のほうが姿勢を修正してきた。

「一般的パターンとして、ヨーロッパは急進派政党さえも磁石のように中心に引き付け続ける」と、ジョージタウン大学のチャールズ・カプチャン教授(国際情勢)は語る。「なぜか。その市場、ルールに基づく秩序、政治的・地政学的影響力、安定感、開かれた国境のおかげだ」

経済面の理由もある。カプチャンら専門家は、ギリシャの与党・急進左派連合(SYRIZA)の変貌ぶりを例に挙げる。同党を率いるアレクシス・ツィプラスは2015年の首相就任後、反緊縮を掲げる左派のポピュリストから、あるジャーナリストいわく「財政危機以降のギリシャでEUの財政規律を最もよく守る指導者」へと変身した。

5月23~26日に予定される欧州議会選は親EU派とEU懐疑派の決戦になると予想されているが、懐疑派の間でも、完全離脱を主張する声はほとんど聞かれない。フランスの極右のリーダー、マリーヌ・ルペンは2017年の仏大統領選ではEU離脱を訴えたが、最近ではEUの内側からの改革が持論。イタリアの副首相兼内相で、極右政党「同盟」党首マッテオ・サルビニもEU懐疑を掲げつつ、離脱ではなく改革を目指している。

スペインのシンクタンク、エルカノ王立研究所のチャールズ・パウエル所長に言わせれば、離脱交渉でのイギリスの不手際とEUが見せた意外な団結力は、二流国になったイギリスとより強力で一体化したヨーロッパというイメージを固めた。ハンガリーやポーランドで強まる反発、南北の分断など域内に多くの問題を抱えるとはいえ、「ブレグジットはEUを団結させて(移民問題などの争点で)合意に達する可能性を高めた」と言う。

懐疑派の動きが懸念されるが

もっとも、懸念材料は相変わらず多い。ドイツでは、2021年に迫るアンゲラ・メルケル首相の退任で政治の行方が見通せず、ナショナリズム傾向はスペインでも強まっている。

EU懐疑派は「離脱を目指すのは完全に逆効果」と学び、「(欧州)議会で多数派、少なくとも議決を左右できるだけの議席の獲得を狙っている」と、プリンストン大学のジェームズは警告する。カプチャンも「改選後の欧州議会ではEU懐疑派のポピュリストが一定の割合を占めるだろう。この問題は早期には解決できない」と指摘した。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

米雇用4月17.7万人増、失業率横ばい4.2% 労

ワールド

カナダ首相、トランプ氏と6日に初対面 「困難だが建

ビジネス

デギンドスECB副総裁、利下げ継続に楽観的

ワールド

OPECプラス8カ国が3日会合、前倒しで開催 6月
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
2025年5月 6日/2025年5月13日号(4/30発売)

「ゼロから分かる」各国・地域情勢の超解説と時事英語

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「2025年7月5日に隕石落下で大災害」は本当にあり得る? JAXA宇宙研・藤本正樹所長にとことん聞いてみた
  • 2
    日本の未婚男性の「不幸感」は他国と比べて特異的に高く、女性では反対に既婚の方が高い
  • 3
    インドとパキスタンの戦力比と核使用の危険度
  • 4
    日々、「幸せを実感する」生活は、実はこんなに簡単…
  • 5
    目を「飛ばす特技」でギネス世界記録に...ウルグアイ…
  • 6
    宇宙からしか見えない日食、NASAの観測衛星が撮影に…
  • 7
    インド北部の「虐殺」が全面「核戦争」に発展するか…
  • 8
    タイタニック生存者が残した「不気味な手紙」...何が…
  • 9
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 10
    金を爆買いする中国のアメリカ離れ
  • 1
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 2
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 3
    MRI検査で体内に「有害金属」が残留する可能性【最新研究】
  • 4
    ロシア国内エラブガの軍事工場にウクライナが「ドロ…
  • 5
    中国で「ネズミ人間」が増殖中...その驚きの正体とは…
  • 6
    日本の未婚男性の「不幸感」は他国と比べて特異的に…
  • 7
    マリフアナを合法化した末路とは? 「バラ色の未来…
  • 8
    タイタニック生存者が残した「不気味な手紙」...何が…
  • 9
    インド北部の「虐殺」が全面「核戦争」に発展するか…
  • 10
    私の「舌」を見た医師は、すぐ「癌」を疑った...「口…
  • 1
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 2
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 3
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 4
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった.…
  • 5
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 6
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜…
  • 7
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止する…
  • 8
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ…
  • 9
    クレオパトラの墓をついに発見? 発掘調査を率いた…
  • 10
    MRI検査で体内に「有害金属」が残留する可能性【最新…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中