最新記事

中国

習近平が仕掛ける「清朝」歴史戦争

Streamrolling Its own History

2019年2月16日(土)16時00分
パメラ・カイル・クロスリー(ダートマス大学教授)

清朝時代の新年を祝う行事を再現した北京・地壇公園でのイベント(18年2月16日) Thomas Peter-REUTERS

<最後の中華帝国・清の位置付けをめぐり、共産党は外国人歴史家への攻撃を強めている>

政治、文化、道徳、経済、外交......。中国の習近平(シー・チンピン)国家主席は、実にさまざまな分野でイデオロギー戦争を指揮している。

なかでも最大の火種は歴史、特に最後の中華帝国・清(1636~1912年)の歴史だ。習のイデオロギーに合わせて過去を書き換えようとする動きに抵抗する歴史家は、繰り返しプロパガンダ機関による攻撃の標的にされてきた。

習には強力な武器がある。03年に共産党が立ち上げた清代の歴史編纂プロジェクト(清史工程)だ。この野心的な国家事業には、3つの使命が与えられた。

第1に、伝統の継承。中国の歴代王朝は、前王朝の「正史」を完成させることで政権の正統性を誇示してきた。だが1912年の清滅亡後、後継の新王朝は現れなかった。中華民国時代には王朝支持派が正史形式の未定稿『清史稿』を編んだが、民国政府は出版を禁止。21世紀に入り、共産党が清史の編纂と出版を決定した。その編纂事業は間もなく完了するとされている。

第2に、清史関連のあらゆる史料のデジタル化。14年までにデジタル化された文書の画像ファイルは計150万件と言われ、最近の発表によれば200万件に近づいている。

第3に、清代に関する外国の研究成果を全て翻訳することだ。ただし、この作業は清代の評価をめぐる激しい闘争の舞台ともなっている。習は清史工程を、自身の歴史解釈に対する中国の伝統的マルクス主義史観と、外国の清朝研究者の挑戦を打破するための道具にした。

清史の基礎部分については、半世紀前から世界中の研究者の見解が一致している。中華帝国としての清朝の始まりは、北方から侵入した満州族(女真族)が、滅亡した明の都・北京に入城した1644年(前身の後金が国号を清に改めたのは満州時代の1636年)。清はその後、中国全土に支配を確立した。

清朝は明の統治モデルを踏襲し、17世紀後半に台湾、モンゴル、チベット、現在の新疆ウイグル自治区に勢力を広げ始めた。18世紀には最盛期を迎え、世界最大の経済大国に成長。建築、哲学、芸術分野の成果はイエズス会宣教師を通じて西欧に伝わり、国際的に高く評価された。

だが19世紀半ば、史上最も血なまぐさい内乱、太平天国の乱が勃発。清は西欧列強の砲艦外交に押され、経済と拠点都市の支配権を一部奪われた。やがて近代化を成し遂げた新興の日本の侵入により、軍事的・経済的に壊滅的な打撃を受けた――。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

12月利下げ支持できず、インフレは高止まり=米ダラ

ビジネス

米経済指標「ハト派寄り」、利下げの根拠強まる=ミラ

ビジネス

米、対スイス関税15%に引き下げ 2000億ドルの

ワールド

トランプ氏、司法省にエプスタイン氏と民主党関係者の
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界最高の投手
特集:世界最高の投手
2025年11月18日号(11/11発売)

日本最高の投手がMLB最高の投手に──。全米が驚愕した山本由伸の投球と大谷・佐々木の活躍

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 2
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披露目会で「情けない大失態」...「衝撃映像」がSNSで拡散
  • 3
    「死ぬかと思った...」寿司を喉につまらせた女性を前に、男性が取った「まさかの行動」にSNS爆笑
  • 4
    『トイ・ストーリー4』は「無かったコト」に?...新…
  • 5
    文化の「魔改造」が得意な日本人は、外国人問題を乗…
  • 6
    「不衛生すぎる」...「ありえない服装」でスタバ休憩…
  • 7
    「イケメンすぎる」...飲酒運転で捕まった男性の「逮…
  • 8
    「水爆弾」の恐怖...規模は「三峡ダムの3倍」、中国…
  • 9
    中国が進める「巨大ダム計画」の矛盾...グリーンでも…
  • 10
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 1
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 2
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披露目会で「情けない大失態」...「衝撃映像」がSNSで拡散
  • 3
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 4
    『プレデター: バッドランド』は良作?駄作?...批評…
  • 5
    「死ぬかと思った...」寿司を喉につまらせた女性を前…
  • 6
    「座席に体が収まらない...」飛行機で嘆く「身長216c…
  • 7
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 8
    ドジャースの「救世主」となったロハスの「渾身の一…
  • 9
    筋肉を鍛えるのは「食事法」ではなく「規則」だった.…
  • 10
    「イケメンすぎる」...飲酒運転で捕まった男性の「逮…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 3
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 4
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 5
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 6
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 7
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号…
  • 8
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 9
    【クイズ】日本でツキノワグマの出没件数が「最も多…
  • 10
    今年、記録的な数の「中国の飲食店」が進出した国
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中