最新記事

中東

観光大国を目指せ──サウジアラビアの熱き挑戦

The Other Magic Kingdom

2019年2月13日(水)16時15分
アダム・バロン (ヨーロッパ外交評議会客員フェロー)

巨費を投じた取り組みの成果は、早くも各地で表れている。主要都市では看板やチラシでイベントを告知。これまでわざわざ周辺国に出掛けてエンターテインメントを楽しんでいた国民を引き付けるのが狙いだ。

18年秋にはオンラインでのビザ申請も導入された。こちらは12月にディルイーヤで開催された電気自動車のプロレース「フォーミュラE」開幕戦などの観戦に来る外国人が対象だ。

アラビア半島最大のサウジ文化の祭典「ジャナドリア祭」など歴史ある祭典も、外国人観光客の誘致に乗り出し、それが性差別的な規制の緩和につながっている(今年、ジャナドリア祭は史上初めて独身者と家族連れの日を別にすることをやめた)。

国民の間では早くも観光客の増加による悪影響への不満も聞かれるが、政府はサウジ社会の保守派を挑発しないよう対策を講じている。政府の目下の目標が自国民による国内観光の振興であることを考えれば、社会的混乱は最小限で済みそうだ。

この意味で、政府による観光推進は経済だけでなく国家の威信の問題でもあると、専門家は指摘する。「サウジアラビアとその自然の驚異、考古学史、(イスラム時代以前も含めた)宗教史を探ることが、皇太子が権力強化の一環として培おうとしてきた愛国主義の大きな部分を占める」と、ヤングは言う。「国のアイデンティティーの世代交代であり、観光市場の最大の参加者であるサウジの若者を利用しようという取り組みだ」

政治への懸念は残るが

その中核となるのが、聖地メディナに近い歴史ある町アウルラだ。17年7月に勅令で創設された王立アルウラ地区委員会(RCU)は、この地域の観光インフラ向上を図り、最終的には年間最大200万人の観光客を受け入れることを目指している。「アルウラは実験場だ」と、サウジ人政治アナリストで米イースト・ウェスト研究所の研究員であるサイード・アル・ワハビは言う。

アルウラは確かに注目に値する。切り立つ砂岩の崖は絶景であると同時に、ここを発祥地とするさまざまな文明の碑文や彫刻などの宝庫だ。近郊のマダイン・サーレハの壮大な遺跡は古代ナバテアの遺跡としては隣国ヨルダンのペトラ遺跡に次ぐ規模で、しかも物売りや人混みに悩まされる心配はない。何より、この冬初めて開催された「タントラの冬」祭りでは、住民が男女の別なく、外国人観光客を心から歓迎し、地元の歴史的財産を誇りにしているのが伝わってくる。

今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ワールド

インドネシア中銀、3会合連続金利据え置き ルピア支

ワールド

戦略的互恵関係を推進、国会発言は粘り強く説明=日中

ビジネス

アングル:米株式取引24時間化、ウォール街では期待

ビジネス

英CPI、11月+3.2%に鈍化 市場は18日の利
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:教養としてのBL入門
特集:教養としてのBL入門
2025年12月23日号(12/16発売)

実写ドラマのヒットで高まるBL(ボーイズラブ)人気。長きにわたるその歴史と深い背景をひもとく

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    【実話】学校の管理教育を批判し、生徒のため校則を変えた校長は「教員免許なし」県庁職員
  • 4
    ミトコンドリア刷新で細胞が若返る可能性...老化関連…
  • 5
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入と…
  • 6
    「住民が消えた...」LA国際空港に隠された「幽霊都市…
  • 7
    【人手不足の真相】データが示す「女性・高齢者の労…
  • 8
    空中でバラバラに...ロシア軍の大型輸送機「An-22」…
  • 9
    FRBパウエル議長が格差拡大に警鐘..米国で鮮明になる…
  • 10
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出を睨み建設急ピッチ
  • 4
    デンマーク国防情報局、初めて米国を「安全保障上の…
  • 5
    【実話】学校の管理教育を批判し、生徒のため校則を…
  • 6
    ミトコンドリア刷新で細胞が若返る可能性...老化関連…
  • 7
    【銘柄】資生堂が巨額赤字に転落...その要因と今後の…
  • 8
    【クイズ】「100名の最も偉大な英国人」に唯一選ばれ…
  • 9
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入と…
  • 10
    香港大火災の本当の原因と、世界が目撃した「アジア…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 3
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 4
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸…
  • 5
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした…
  • 6
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 7
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 8
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 9
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 10
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中