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ドゥテルテ、政権批判のメディアに圧力 元CNN著名記者のニュースサイトを脱税、名誉棄損で起訴

2019年2月8日(金)17時35分
大塚智彦(PanAsiaNews)

政権批判の報道でドゥテルテ大統領から圧力を受けるマリア・レッサ氏。写真は昨年11月脱税容疑で起訴された際のもの。 Eloisa Lopez - REUTERS

<フィリピンのドゥテルテ大統領は、麻薬やテロに対して厳罰主義で臨んでいるが、その強硬な姿勢は報道機関にも向けられている>

フィリピンのドゥテルテ政権が国民の高い支持率を背景に、政策に異を唱えたり、大統領自身への批判を強めたりしているメディアに対してこのところ「圧力」を強めている。

フィリピンの新しい形態のメディアとして2012年に誕生したニュースウェッブサイトの「Rappler(ラップラー)」の創業者で同社最高経営責任者(CEO)、編集長でもあるマリア・レッサさんに対し、司法省検察当局は2月6日に名誉棄損容疑で起訴する方針を明らかにした。同容疑で有罪となれば最高で禁固12年の刑となる。

レッサさんは2018年には企業認可取り消し命令を受けたり、脱税容疑で起訴されたり、さらに大統領府「マラカニアン宮殿」での記者会見への出席を拒否されるなどの「圧力」を受けている。そこへきて今回は名誉棄損容疑と立て続けの受難に見舞われており、一連の動きの背景には「政治的意向」の存在を指摘する見方が強まっている。

「ラップラー」は2016年6月のドゥテルテ政権誕生直後から大統領が進める強硬な麻薬対策に強い反対を表明してきた。特に治安当局者を中心にした麻薬関連犯罪容疑者に対する「超法規的殺人」を黙認するような方針に対して「容疑者の人権を著しく侵害するものであり、容認できるものではない」との立場から強い反対論を展開してきた。

元CNNの東南アジア専門ベテラン記者

レッサさんは米CNNのマニラ支局長、ジャカルタ支局長などを歴任し、25年間東南アジアの報道に携わったベテラン記者だ。特にインドネシアに関する報道ではCNNジャカルタ支局の初代支局長として、1998年のスハルト長期独裁政権の崩壊につながる民主化の過程を精力的に取材して、CNNの東南アジア報道の評価を高めたといわれている。

CNNからフィリピンのケーブルテレビに移籍してニュースキャスターを務めながらフィリピン大学や米プリンストン大学でジャーナリズムや東南アジア政治を講義するなど活躍。その経験を活かして「これからのジャーナリズムは視聴者参加型になる」との信念から、視聴者も投稿で参加ができる「ラップラー」を2012年に立ち上げた。

「ラップラー」は「おしゃべりという意味のrap」と「波紋を意味するripple」を合わせた造語で、自由なおしゃべりで国民の感情に波紋を呼び起こす、とのメディアとしての願いを込めたという。

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