最新記事

航空機

エアバスA380生産終了へ 「欧州産業界の夢」はなぜ失速したか

2019年2月19日(火)16時00分

転落

内部関係者によると、A380の転落の芽は、2005年の披露式典の時にすでにあったという。

公の場では統一が強調されたが、A380製造という大仕事は、やがて独仏の協力関係に入ったヒビを露呈させ、同機の生産体制を揺るがした。

納入が遅れ、ようやく2007年に就航したが、その時すでに世界金融危機の前兆が出始めていた。規模や上質さはもはや必要とされず、売り上げが減速した。

それと並行し、A380の巨大エンジンを開発し、その後10年は効率性でこれを上回るエンジンは造れないと約束していたエンジン製造会社が、次世代の双発機用により効率の良いエンジンの開発を進め、A380と競合するようになった。

さらに、A380が新たな投資と販売のテコ入れを必要としていたまさにそのタイミングで、不安になったエアバス経営陣が、価格を上げ利益を出すよう要求し始めたと、複数の内部関係者は明かす。

「3重の打撃だった」と、社内の議論を知る人物は語る。

需要が安定しない中、マーケティング戦略も迷走した。最初はシャワーを備えた高級路線で売り出し、その後、「A380で、地球を救う」という救世主的なスローガンで環境への負荷が少ないことをアピールしたかと思えば、最後には座席数を増やしてコストを削減する路線に切り替えた。

一方のボーイングは、やはり根深い問題を内部に抱えつつも、新中型機「787ドリームライナー」で競争を制しつつあった。A380が就航するハブ空港を通り越して、比較的中規模の都市間を結ぶ「ポイント・トゥ・ポイント」路線を推奨する戦略に沿って開発された機種だ。

エアバス側は、それでもメガ都市間の路線が主流になるとして反撃した。

だが経済成長は、エアバスが予期せぬ形で「分散」した。 経済協力開発機構(OECD)の2018年の調査によると、中規模都市が巨大都市の倍近い成長を遂げていた。

これは、ボーイング787や777、またエアバスのA350といった双発機には追い風となる。A350は、A380の3倍売れている。

もともとA380を熱心に支持していなかったとされるエアバスのトム・エンダース最高経営責任者(CEO)は、2年ほど前に生産中止を考えたが、最後のチャンスを与えるよう説得された。

だが、生命線となっていたエミレーツからの最新の受注が、エンジンに関する交渉がまとまらず、時間切れとなった。

「エアバスはA380のことを旗艦機として見がちだが、エンダースCEOには受注不足しか目に入らない」と、ドイツ出身で、4月に退任するエンダース氏に近い人物は語る。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

インドとパキスタン、即時の完全停戦で合意 米などが

ワールド

ウクライナと欧州、12日から30日の対ロ停戦で合意

ワールド

グリーンランドと自由連合協定、米政権が検討

ワールド

パキスタン、国防相が核管理会議の招集否定 インドに
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
2025年5月 6日/2025年5月13日号(4/30発売)

「ゼロから分かる」各国・地域情勢の超解説と時事英語

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    心臓専門医が「絶対に食べない」と断言する「10の食品」とは?...理想は「1825年の食事」
  • 2
    SNSにはトップレス姿も...ヘイリー・ビーバー、ノーパンツルックで美脚解放も「普段着」「手抜き」と酷評
  • 3
    ロシア機「Su-30」が一瞬で塵に...海上ドローンで戦闘機を撃墜する「世界初」の映像をウクライナが公開
  • 4
    5月の満月が「フラワームーン」と呼ばれる理由とは?
  • 5
    指に痛みが...皮膚を破って「異物」が出てきた様子を…
  • 6
    脂肪は自宅で燃やせる...理学療法士が勧める「3つの…
  • 7
    健康は「何を食べないか」次第...寿命を延ばす「5つ…
  • 8
    「股間に顔」BLACKPINKリサ、ノーパンツルックで妖艶…
  • 9
    使うほど脱炭素に貢献?...日建ハウジングシステムが…
  • 10
    インドとパキスタンの戦力比と核使用の危険度
  • 1
    脂肪は自宅で燃やせる...理学療法士が勧める「3つの運動」とは?
  • 2
    心臓専門医が「絶対に食べない」と断言する「10の食品」とは?...理想は「1825年の食事」
  • 3
    健康は「何を食べないか」次第...寿命を延ばす「5つの指針」とは?
  • 4
    部下に助言した時、返事が「分かりました」なら失敗…
  • 5
    【クイズ】世界で2番目に「軍事費」が高い国は?...1…
  • 6
    5月の満月が「フラワームーン」と呼ばれる理由とは?
  • 7
    「2025年7月5日に隕石落下で大災害」は本当にあり得…
  • 8
    SNSにはトップレス姿も...ヘイリー・ビーバー、ノー…
  • 9
    シャーロット王女とスペイン・レオノール王女は「どち…
  • 10
    ついに発見! シルクロードを結んだ「天空の都市」..…
  • 1
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 2
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 3
    脂肪は自宅で燃やせる...理学療法士が勧める「3つの運動」とは?
  • 4
    心臓専門医が「絶対に食べない」と断言する「10の食…
  • 5
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜…
  • 6
    健康は「何を食べないか」次第...寿命を延ばす「5つ…
  • 7
    「2025年7月5日に隕石落下で大災害」は本当にあり得…
  • 8
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止する…
  • 9
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ…
  • 10
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中