最新記事

中国

「習近平は最も危険な敵」米投資家ソロス氏も中国のハイテク脅威認識

2019年1月29日(火)17時24分
遠藤誉(東京福祉大学国際交流センター長)

実はソロスは大のトランプ嫌い。

2016年の大統領選ではドナルド・トランプの対立候補だったヒラリー・クリントンを支援し、「トランプは独裁者になるかもしれない」などと発言したこともある。中米を出発した数千人の移民キャラバンが米南部国境を目指して北上したときには、ソロス氏の団体が移民を支援し現金を渡していると噂され、トランプ大統領も「移民に大金を配っている者がいる」などと発言していた。

だというのに、今般のダボス会議発言ではトランプの対中攻撃を褒め、まだ足りないとさえ言っている。

「中国製造2025」の野心には、まだに気づいていない

これは取りも直さず、ソロスもまた、習近平政権のハイテク戦略に気づき始めた何よりの証拠と解釈することができる。ただ原文'UNPRECEDENTED DANGER': Billionaire investor George Soros just went scorched earth on China during his annual Davos speechを読むと、ソロスは習近平政権が進める「社会信用システム」(ビッグデータを用いて作成した中国人民全てに対する監視システム)にフォーカスを当てており、それを助長する結果を招くフェイスブックやグーグルを批判している。

たしかに昨年12月27日付けのコラム「GAFAの内2社は習近平のお膝元」に書いたように、フェイスブックのザッカーバーグCEOは習近平に取り込まれている。その意味でソロスの警告は正しいが、しかし講演の締め括りにおける件(くだり)が甘い。

ソロスはトランプに対して貿易制裁を中国一国に絞れと忠告はしているものの、結局、「アメリカは、第二次世界大戦後の国連条約に似た国際協調(を夢見ること)によって米中両国の対立の連鎖を終わらせ、国際協調を取り戻して開かれた社会を繁栄させるべきだ」という趣旨の内容で講演を結んでいる。

これは非常に拍子抜けというか、がっかりさせる結論だ。

そんな話ではないだろう。

習近平政権は一党支配体制を維持させるために、何としても国家戦略「中国製造2015」を断行する。その一環が「社会信用システム」であり、ソロスが講演の前半で言っている「抑圧的な政権とIT独占企業が組み合わさることで、独裁政権の強化につながる」という指摘こそが重要だ。

筆者が『「中国製造2025」の衝撃 習近平はいま何を目論んでいるのか』で警鐘を鳴らしたいのも、まさにその点なのである。

習近平は一党支配体制を維持するために、絶対に「中国製造2025」を放棄したりはしない。ソロスのような世界に影響力をもたらす投資家には、「中国製造2025」の真髄を掌握し、もう一歩踏み込んだ発信を望みたいものだ。


endo2025.jpg[執筆者]遠藤 誉
1941年中国生まれ。中国革命戦を経験し1953年に日本帰国。東京福祉大学国際交流センター長、筑波大学名誉教授、理学博士。中国社会科学院社会学研究所客員研究員・教授などを歴任。著書に『「中国製造2025」の衝撃 習近平はいま何を目論んでいるのか』(2018年12月22日出版)、『習近平vs.トランプ 世界を制するのは誰か』、『毛沢東 日本軍と共謀した男』、『卡子(チャーズ) 中国建国の残火』(中英文版も)、『チャイナ・セブン <紅い皇帝>習近平』、『ネット大国中国 言論をめぐる攻防』、『チャイナ・ジャッジ 毛沢東になれなかった男』、『中国動漫新人類 日本のアニメと漫画が中国を動かす』など多数。

※当記事はYahoo!ニュース 個人からの転載です。

この筆者の記事一覧はこちら≫

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

中国で「南京大虐殺」の追悼式典、習主席は出席せず

ワールド

トランプ氏、次期FRB議長にウォーシュ氏かハセット

ビジネス

アングル:トランプ関税が生んだ新潮流、中国企業がベ

ワールド

アングル:米国などからトップ研究者誘致へ、カナダが
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:ジョン・レノン暗殺の真実
特集:ジョン・レノン暗殺の真実
2025年12月16日号(12/ 9発売)

45年前、「20世紀のアイコン」に銃弾を浴びせた男が日本人ジャーナリストに刑務所で語った動機とは

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    デンマーク国防情報局、初めて米国を「安全保障上の脅威」と明記
  • 2
    【銘柄】資生堂が巨額赤字に転落...その要因と今後の展望。本当にトンネルは抜けたのか?
  • 3
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 4
    「前を閉めてくれ...」F1観戦モデルの「超密着コーデ…
  • 5
    現役・東大院生! 中国出身の芸人「いぜん」は、なぜ…
  • 6
    世界最大の都市ランキング...1位だった「東京」が3位…
  • 7
    首や手足、胴を切断...ツタンカーメンのミイラ調査開…
  • 8
    身に覚えのない妊娠? 10代の少女、みるみる膨らむお…
  • 9
    「体が資本」を企業文化に──100年企業・尾崎建設が挑…
  • 10
    トランプが日中の「喧嘩」に口を挟まないもっともな…
  • 1
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だから日本では解決が遠い
  • 2
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価に与える影響と、サンリオ自社株買いの狙い
  • 3
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出を睨み建設急ピッチ
  • 4
    デンマーク国防情報局、初めて米国を「安全保障上の…
  • 5
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした…
  • 6
    キャサリン妃を睨む「嫉妬の目」の主はメーガン妃...…
  • 7
    【クイズ】「100名の最も偉大な英国人」に唯一選ばれ…
  • 8
    中国軍機の「レーダー照射」は敵対的と、元イタリア…
  • 9
    健康長寿の鍵は「慢性炎症」にある...「免疫の掃除」…
  • 10
    人手不足で広がり始めた、非正規から正規雇用へのキ…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸送機「C-130」謎の墜落を捉えた「衝撃映像」が拡散
  • 3
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした「信じられない」光景、海外で大きな話題に
  • 4
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 5
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 6
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 7
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 8
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 9
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで…
  • 10
    ポルノ依存症になるメカニズムが判明! 絶対やって…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中