最新記事

生態系

地球温暖化で鳥類「血の抗争」が始まった──敵を殺し脳を食べる行動も

Climate Change Has Sparked a War Among Birds

2019年1月11日(金)16時38分
ハナ・オズボーン

巣の中でマダラヒタキを食べるシジュウカラ 2018 Elsevier Ltd./Current Biology

<渡り鳥が温暖化に適応できず、留鳥との間で不幸な争いが起きている>

地球温暖化の影響で留鳥のシジュウカラと渡り鳥のマダラヒタキが鉢合わせる機会が増え、両者の「抗争」が激化している。研究者らは過去10年分の繁殖データを分析した結果、シジュウカラの巣で殺されるマダラヒタキの個体数が増加したことを発見した。シジュウカラはマダラヒタキの頭を突いてとどめを刺した後、その脳を食べた形跡があった。

シジュウカラは1年中ほぼ同じ地域にとどまる鳥で、ヨーロッパ全域に生息する。繁殖期は短く、通常は3~4月頃に産卵が始まる。一方のマダラヒタキは渡り鳥で、西アフリカで越冬後、オランダに渡って春の繁殖期を過ごす。

繁殖期が重なれば、餌や巣穴の奪い合いになる。小柄で動きの速いマダラヒタキはシジュウカラの巣を奪い取ろうとする。マダラヒタキは、巣作りに励むシジュウカラの周りを飛び回って追い払うことはできる。だが巣に入ろうとすれば、体が大きく強いシジュウカラに殺され、脳を食べられてしまう。

脳を食べれば一石二鳥?

脳を食べる行動を発見したのは、英エディンバラ大学のジェルマー・サンプロニアスだ。2007年のことだ。「われわれが設置した巣箱を開けるとマダラヒタキが死んでいた。持ち帰って解剖・検査したら、後頭部の骨が砕かれ、脳が食べられていた」と、彼は本誌に語った。

「過去に他の研究者も同様の行動を報告している。シジュウカラは時々小さめのコウモリを食べたり、冬に自分より小柄な鳥を食べたりすることが知られている。シジュウカラが脳を食べるのは、それが敵を殺す一番簡単な方法で、栄養補給にもなるからかもしれない」

カレント・バイオロジー誌に発表した論文で、サンプロニアスと同僚の研究者らは、シジュウカラとマダラヒタキの繁殖地で集めた10年分に相当するデータを分析した結果、一定の条件下でマダラヒタキの大量死が起きていたことを突き止めた。シジュウカラがマダラヒタキの雄の9%を殺した年も何度かあった。

「殺されたマダラヒタキの個体数には、年によって大きなばらつきが見られる」とサンプロニアスは言う。「直線的に増えているのではなく、(暖冬の後で)シジュウカラの生息密度が増えた地域や年に限って、殺されるマダラヒタキの数が増えていた。マダラヒタキの渡りの時期がシジュウカラの繁殖期と重なった年(通常は気温の低い春)は、さらに被害がひどかった」

今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ワールド

米ウクライナ首脳、日本時間29日未明に会談 和平巡

ワールド

訂正-カナダ首相、対ウクライナ25億加ドル追加支援

ワールド

ナイジェリア空爆、クリスマスの実行指示とトランプ氏

ビジネス

中国工業部門利益、1年ぶり大幅減 11月13.1%
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:ISSUES 2026
特集:ISSUES 2026
2025年12月30日/2026年1月 6日号(12/23発売)

トランプの黄昏/中国AI/米なきアジア安全保障/核使用の現実味......世界の論点とキーパーソン

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    ウクライナ水中ドローンが、ロシア潜水艦を爆破...「史上初の攻撃成功」の裏に、戦略的な「事前攻撃」
  • 2
    【銘柄】子会社が起訴された東京エレクトロン...それでも株価が下がらない理由と、1月に強い秘密
  • 3
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 4
    マイナ保険証があれば「おくすり手帳は要らない」と…
  • 5
    『SHOGUN 将軍』の成功は嬉しいが...岡田准一が目指…
  • 6
    「アニメである必要があった...」映画『この世界の片…
  • 7
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」と…
  • 8
    海水魚も淡水魚も一緒に飼育でき、水交換も不要...ど…
  • 9
    2026年、トランプは最大の政治的試練に直面する
  • 10
    なぜ筋肉を鍛えても速くならないのか?...スピードの…
  • 1
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」とは何か...血管の名医がたどり着いた長生きの共通点
  • 2
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 3
    ウクライナ水中ドローンが、ロシア潜水艦を爆破...「史上初の攻撃成功」の裏に、戦略的な「事前攻撃」
  • 4
    『SHOGUN 将軍』の成功は嬉しいが...岡田准一が目指…
  • 5
    中国、インドをWTOに提訴...一体なぜ?
  • 6
    「食べ方の新方式」老化を防ぐなら、食前にキャベツ…
  • 7
    【過労ルポ】70代の警備員も「日本の日常」...賃金低…
  • 8
    海水魚も淡水魚も一緒に飼育でき、水交換も不要...ど…
  • 9
    批評家たちが選ぶ「2025年最高の映画」TOP10...満足…
  • 10
    アベノミクス以降の日本経済は「異常」だった...10年…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」とは何か...血管の名医がたどり着いた長生きの共通点
  • 3
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 4
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 5
    ウクライナ水中ドローンが、ロシア潜水艦を爆破...「…
  • 6
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした…
  • 7
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 8
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 9
    『SHOGUN 将軍』の成功は嬉しいが...岡田准一が目指…
  • 10
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入と…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中