最新記事

景気

寒風吹き付ける欧米ファッション業界 「年がら年中バーゲン」の泥沼に

2018年12月25日(火)09時55分

欧米の消費者は今年、値下げを期待して衣料品の購入を先伸ばししており、クリスマス商戦シーズンを前に小売り各社は寒風に吹かれている。写真は18日、ロンドンで撮影(2018年 ロイター/Toby Melville)

欧米の消費者は今年、値下げを期待して衣料品の購入を先伸ばししており、クリスマス商戦シーズンを前に小売り各社は寒風に吹かれている。

オンライン販売の拡大で消費者が価格を比較しやすくなっていることに加え、季節外れの天候、パリの街頭デモ、英国の欧州連合(EU)離脱を巡る不安などが消費の逆風だ。

厳しい状況は実店舗だけでなく、オンライン企業にも広がっている。英オンラインファッション小売りのASOS(エイソス)が17日、利益見通しを引き下げると、世界的な消費不振への懸念が広がり、米アマゾン・ドット・コムの株価まで下落した。

ASOSのニック・ベイトン最高経営責任者(CEO)はアナリスト説明会で「ファッション業界でこれまで見たことのない規模の値引きが行われている。実店舗かオンラインかは、今は重要な問題ではない。根本的に顧客動向が弱い」と述べた。

英プライマーク、英スーパードライ、伊OVSはいずれも、クリスマス前の重要な時期に販売不振を警告。「ザラ」などのブランドを展開するスペインのインディテックスは値引きに抵抗しているが、売上高は予想を下回った。

OVSのステファノ・ベラルドCEOは先週「顧客行動が日増しに予想し難くなっている」と述べた。

年中セール

この状況に対応し、大半の小売業者はこれまで夏と新年に実施していたセール期間を広げ、1年中行うようになっている。従来は定価で在庫を動かす肝心な時期だったクリスマス前でさえ例外ではない。

デロイトによると、英国ではクリスマス前の値引き率が平均43.6%と過去最大に達しており、クリスマスイブにはさらに記録を更新しそうだ。

デロイトはまた、英小売企業がセールを実施した日が今年は最多で38日間と、2012年より6日多くなると予想する。ミンテルの調査では、英消費者の約半分が値引きを待つために衣料品の購入を遅らせた。

高級ファッションチェーン店を訪れた銀行員の男性(45)は「今では年中セールをやっている」と話し、何でもセールで買うわけではないが、高額品は値引きされるまで待つと説明した。

仏デモの影響

消費者の行動変化に比較的うまく対応している小売企業もある。インディテックスは店舗網とアプリを活用した厳密な在庫管理により、定価販売を可能にしている。

一方でスウェーデンのへネス・アンド・マウリッツ(H&M)は、天候の変化などによる需要の急変動にすばやく対応できず、値下げを余儀なくされた。

この秋はフランスの黄色いベストの政治抗議デモなど、各国特有の問題もあった。フランス小売連盟の推計では、デモのあった4週間で実店舗は少なくとも10億ユーロの損害を被った。

(Sonya Dowsett記者 James Davey記者)

[マドリード/ロンドン ロイター]


トムソンロイター・ジャパン

Copyright (C) 2018トムソンロイター・ジャパン(株)記事の無断転用を禁じます

ニューズウィーク日本版 台湾有事 そのとき世界は、日本は
※画像をクリックすると
アマゾンに飛びます

2025年8月26日号(8月19日発売)は「台湾有事 そのとき世界は、日本は」特集。中国の圧力とアメリカの「変心」に強まる台湾の危機感。東アジア最大のリスクを考える

※バックナンバーが読み放題となる定期購読はこちら


今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ビジネス

FRB、9月利下げ判断にさらなるデータ必要=セント

ワールド

米、シカゴへ州兵数千人9月動員も 国防総省が計画策

ワールド

ロシア・クルスク原発で一時火災、ウクライナ無人機攻

ワールド

米、ウクライナの長距離ミサイル使用を制限 ロシア国
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:台湾有事 そのとき世界は、日本は
特集:台湾有事 そのとき世界は、日本は
2025年8月26日号(8/19発売)

中国の圧力とアメリカの「変心」に危機感。東アジア最大のリスクを考える

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「まさかの真犯人」にネット爆笑...大家から再三「果物泥棒」と疑われた女性が無実を証明した「証拠映像」が話題に
  • 2
    なぜ筋トレは「自重トレーニング」一択なのか?...筋肉は「神経の従者」だった
  • 3
    【写真特集】「世界最大の湖」カスピ海が縮んでいく 砂漠化する地域も 
  • 4
    一体なぜ? 66年前に死んだ「兄の遺体」が南極大陸で…
  • 5
    『ジョン・ウィック』はただのアクション映画ではな…
  • 6
    「あなた誰?」保育園から帰ってきた3歳の娘が「別人…
  • 7
    中国で「妊娠ロボット」発売か――妊娠期間も含め「自…
  • 8
    顔面が「異様な突起」に覆われたリス...「触手の生え…
  • 9
    これぞ「天才の発想」...スーツケース片手に長い階段…
  • 10
    【独占】高橋一生が「台湾有事」題材のドラマ『零日…
  • 1
    「まさかの真犯人」にネット爆笑...大家から再三「果物泥棒」と疑われた女性が無実を証明した「証拠映像」が話題に
  • 2
    「レプトスピラ症」が大規模流行中...ヒトやペットに感染、最悪の場合死亡も
  • 3
    「あなた誰?」保育園から帰ってきた3歳の娘が「別人」だった...母親によるビフォーアフター画像にSNS驚愕
  • 4
    「死ぬほど怖い」「気づかず飛び込んでたら...」家の…
  • 5
    中国で「妊娠ロボット」発売か――妊娠期間も含め「自…
  • 6
    20代で「統合失調症」と診断された女性...「自分は精…
  • 7
    なぜ筋トレは「自重トレーニング」一択なのか?...筋…
  • 8
    頭部から「黒い触手のような角」が生えたウサギ、コ…
  • 9
    「このクマ、絶対爆笑してる」水槽の前に立つ女の子…
  • 10
    3本足の「親友」を優しく見守る姿が泣ける!ラブラ…
  • 1
    「週4回が理想です」...老化防止に効くマスターベーション、医師が語る熟年世代のセルフケア
  • 2
    こんな症状が出たら「メンタル赤信号」...心療内科医が伝授、「働くための」心とカラダの守り方とは?
  • 3
    「自律神経を強化し、脂肪燃焼を促進する」子供も大人も大好きな5つの食べ物
  • 4
    デカすぎ...母親の骨盤を砕いて生まれてきた「超巨大…
  • 5
    デンマークの動物園、飼えなくなったペットの寄付を…
  • 6
    「まさかの真犯人」にネット爆笑...大家から再三「果…
  • 7
    ウォーキングだけでは「寝たきり」は防げない──自宅…
  • 8
    山道で鉢合わせ、超至近距離に3頭...ハイイログマの…
  • 9
    「レプトスピラ症」が大規模流行中...ヒトやペットに…
  • 10
    将来ADHDを発症する「幼少期の兆候」が明らかに?...…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中