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南青山の児童相談所反対運動──海外の「意識高い系」は真逆の動き

2018年12月25日(火)16時40分
内村コースケ

国土の広いアメリカ特有の事情も

土地が狭い日本では、南青山の例を見るまでもなくNIMBY 的な反対運動は古くから各地で起きているが、YIMBY運動はまだ上陸していない。ここで注意しなければならないのは、アメリカやオーストラリアのYIMBY運動は、広い国土に恵まれているが故に起きている問題に対処している側面もあり、そのまま日本に当てはめることはできないという点だ。

例えば、カリフォリニアのYIMBYの主眼は、住宅の供給不足と、連動する住宅建設費・家賃の高騰を緩和することにある。その背景には、日本に比べて土地に余裕があるために、都市機能を分散させてきた歴史がある。ダウンタウンと呼ばれる中心市街地は商業施設やオフィスビルに限定され、住宅の建設を禁止されている地区が多い。

また、広い一軒家が並ぶ郊外の中高級住宅地では、集合住宅や高層建築の建設が厳しく制限されている場合が多い。鉄道駅周辺といった公共交通機関の便が良いエリアは住宅地として開発するには規制が多く、日本のような「駅近」のタワーマンションなどの建設は相当にハードルが高いようだ。

こうした厳しい法規制により、カリフォリニアでは高層アパートやコンドミニアムなどの比較的安価な住宅の建設が進まず、慢性的な住宅不足になっている。特に低所得者層向けの住宅不足は深刻だという。住宅開発には煩雑な許認可手続きが伴うことから、時間と予算が嵩むことも問題になっている。また、駅近物件が少ないため、必然的に車社会になり職住接近も叶わない。州が定める温室効果ガス削減目標の達成もこのままでは不可能だとYIMBYたちは嘆く。

児相が来る南青山は理想的なYIMBYの街?

「労働者が往復3時間の車通勤を強いられる」のが、平均的なカリフォリニアの暮らしだと「カリフォリニアYIMBY」のブライアン・ハンロン氏は言う。その点では、一極集中による都市部の過密が問題になっている日本とは状況が異なる。

そうしたアメリカ的な都市の現状を法改正などによって変えようというのが、YIMBY運動だ。そんな彼らにとっては、地下鉄駅が徒歩圏内にいくつもあり、大小の商業施設・娯楽施設が立ち並び、学校は公立・私立と複数のオプションがあって、住宅も高級マンション、古くからの一戸建て、リーズナブルな社宅や都営住宅まで選択肢が豊富、死者を弔う墓地や大きな公園までもあり、職住接近でそのうえ児童相談所という公共福祉施設も新たに建設されるという南青山周辺の住環境は、理想的に映るのではないだろうか。

別の言い方をすれば、"Yes In My Backyard"を積み重ねてきた現在進行形の歴史こそが、真の「南青山ブランド」だとも言えよう。

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