南青山の児童相談所反対運動──海外の「意識高い系」は真逆の動き
YIMBY運動が盛んな米カリフォリニア州でも・・
報道で伝えられる南青山のNIMBYたちの主張はこれとは正反対だ。彼らは、児童相談所に来る家庭環境などに問題を抱える子どもたちの存在によって、「南青山ブランド」という「特権」が損なわれる不安を口にする。その言葉の端々に、"高級なエリア"には"貧しい家庭"という異物はふさわしくないという排他的な意思が見え隠れする。
どんな場合でも、既得権を守ろうとするのは人間の本能だとは言えるだろう。「カリフォリニアYIMBY」は今年、住宅建設が禁止されている都心部の公共交通機関ターミナル周辺の住宅開発解禁法案の提出を支援した。
ロサンゼルス、サンフランシスコ、サンディエゴといった同州の大都市では中心市街地の住宅建設規制が厳しいため職住接近の物件が少ない。そのため強いられている郊外からの長時間通勤にうんざりしている一般市民の法案への期待は大きく、地元メディアの注目も高かった。しかし、第一関門の委員会聴聞会で反対され、あえなく廃案になった。政治の中枢では依然としてNIMBYが多数派だということが浮き彫りになった形だ。
これについて、「カリフォリニアYIMBY」のブライアン・ハンロン代表兼CEOは、地元メディアのインタビューに次のように答えている。「カリフォリニア州の住宅政策には、さまざまな利害が絡み合っています。全員をハッピーにすることはできないし、大きな改革には必ず反対する人がいます」。ハンロン氏は同時に、都市開発業者や政治家といった既得権益層の利害に町づくりが左右されてはならないとも力説している。「カリフォリニアYIMBY」は来年、より幅広い層の支持拡大を図り、再び同様の法案提出を支援すると共に、住宅建設の許認可手続きの簡略化を実現する運動なども展開する方針だ。
YIMBYはサイレント・マジョリティの声
ワイドショーなどで繰り返し取り上げられた「南青山の子供たちは習い事や塾に通っていて、レベルが高い。もし、児童相談所に通っている子が同じ小学校に通ったらお金がギリギリでついてこられないし、むしろ可哀想なのでは?」という児相反対派の母親の地元説明会での発言も、典型的なNIMBY的な物言いだと言えよう。
アメリカやオーストラリアでYIMBY運動に携わっているのは、知識層を中心とした彼女の言う「レベルが高い」層が中心だ。彼らは、施設の必要性を認めつつも「Not in my back yard」と拒否するNIMBYの偽善的で回りくどい言い分には、特に批判的だ。例えば、「自分が住む地域の開発計画に対し、一見熱心な、大きな声を挙げる人々は、たいていは反対派です」と、「YIMBYクイーンズランド」のナタリー・レイメント氏は皮肉を込めて言う。
長年続いてきた一部の声の大きな人たちによる一種の"ゴリ押し"に反旗を翻し、心の中で「賛成」の声を上げていたサイレント・マジョリティが表立って意思表示をし始めたのが、近年のYIMBY運動の盛り上がだと言える。オーストラリアでは、「YIMBYクイーンズランド」に続き、今年にかけてニューサウスウェールズ州、ビクトリア州、パースと、YIMBY団体が全土に立て続けに設立された。今年9月には、米ボストンで3回目のYIMBY国際会議も開かれた。