最新記事

米中貿易摩擦

米中首脳会談、習近平の隠れた譲歩と思惑

2018年12月3日(月)13時30分
遠藤誉(東京福祉大学国際交流センター長)

つまり、中国は何としてもクァルコムを中国を中心として事業展開する半導体メーカーに留めておきたかったのに、それが許されなくなった以上、クァルコムがNXPを買収して拡大することなど、容認できないと考えたのだろう。だから独禁法を理由に買収に反対したのだが、習近平はこのたび、「クァルコムが再度買収の意思表示をしたら承認します」と、トランプに直接告げたわけである。これは一種の降参だ。

その埋め合わせは日本を使って

しかし、その埋め合わせを習近平はきちんと計算している。日本に接近し、日本からの半導体を輸入することによって2025年までを持たそうとしているのである。もちろん、日本にはクァルコムに相当したようなハイレベルの半導体を製造するだけの技術はない。その技術を持っているのは中国の民間企業である華為(Hua-wei、ホァーウェイ)専属の子会社ハイシリコンである。しかしハイシリコンはホァーウェイに対してのみ半導体の成果を提供し、絶対に他社には渡さない。

そこで中国は、11月23日のコラム<米中対立における中国の狡さの一考察>で触れたように、清華大学の校営企業から出発した「清華紫光集団」(ユニグループ)が買収したスプレッドトラムや長江ストレージなどに集中的に投資して「紅い半導体」の強化を図ろうとしている。ユニグループは今では中国政府との混合所有制を実施していて、一種の国有と位置付けてもいい存在だ。

ZTEを見放したわけではないが、その代替を「清華紫光集団」に賭け、アメリカからの締め付けによる半導体業界全体の欠損は、日本との交流で埋め合わせる算段なのである。

それも「用済み」となる日は、まもなくやってくる。

日本のメディアでは、安倍首相が米中の橋渡し役を果たしたなどという文言が散見されるが、そんな中国ではない。日本を利用しているだけであることを忘れてはならない。


endo-progile.jpg[執筆者]遠藤 誉
1941年中国生まれ。中国革命戦を経験し1953年に日本帰国。東京福祉大学国際交流センター長、筑波大学名誉教授、理学博士。中国社会科学院社会学研究所客員研究員・教授などを歴任。著書に『「中国製造2025」の衝撃 習近平はいま何を目論んでいるのか』(2018年12月22日出版)、『習近平vs.トランプ 世界を制するのは誰か』、『毛沢東 日本軍と共謀した男』、『卡子(チャーズ) 中国建国の残火』(中英文版も)、『チャイナ・セブン <紅い皇帝>習近平』、『ネット大国中国 言論をめぐる攻防』、『チャイナ・ジャッジ 毛沢東になれなかった男』、『中国動漫新人類 日本のアニメと漫画が中国を動かす』など多数。

※当記事はYahoo!ニュース 個人からの転載です。

この筆者の記事一覧はこちら≫

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

カナダ、ウクライナ支援継続を強調 両首脳が電話会談

ワールド

トランプ米大統領、ハーバード大への補助金打ち切り示

ビジネス

シタデルがSECに規制要望書、24時間取引のリスク

ワールド

クルスク州に少数のウクライナ兵なお潜伏、奪還表明後
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
2025年5月 6日/2025年5月13日号(4/30発売)

「ゼロから分かる」各国・地域情勢の超解説と時事英語

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    タイタニック生存者が残した「不気味な手紙」...何が書かれていた?
  • 2
    マリフアナを合法化した末路とは? 「バラ色の未来が来るはずだったのに...」
  • 3
    日本の未婚男性の「不幸感」は他国と比べて特異的に高く、女性では反対に既婚の方が高い
  • 4
    ポンペイ遺跡で見つかった「浴場」には、テルマエ・…
  • 5
    中国で「ネズミ人間」が増殖中...その驚きの正体とは…
  • 6
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」では…
  • 7
    インド北部の「虐殺」が全面「核戦争」に発展するか…
  • 8
    クルミで「大腸がんリスク」が大幅に下がる可能性...…
  • 9
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 10
    中居正広事件は「ポジティブ」な空気が生んだ...誰も…
  • 1
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 2
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 3
    MRI検査で体内に「有害金属」が残留する可能性【最新研究】
  • 4
    中国で「ネズミ人間」が増殖中...その驚きの正体とは…
  • 5
    ロシア国内エラブガの軍事工場にウクライナが「ドロ…
  • 6
    パニック発作の原因の多くは「ガス」だった...「ビタ…
  • 7
    使うほど脱炭素に貢献?...日建ハウジングシステムが…
  • 8
    私の「舌」を見た医師は、すぐ「癌」を疑った...「口…
  • 9
    健康寿命は延ばせる...認知症「14のリスク要因」とは…
  • 10
    ポンペイ遺跡で見つかった「浴場」には、テルマエ・…
  • 1
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 2
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 3
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 4
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった.…
  • 5
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 6
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜…
  • 7
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止する…
  • 8
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
  • 9
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ…
  • 10
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中