最新記事

国際会議

誕生から10年、G20の存在意義はどこにある?

Globalization’s Government Turns 10

2018年12月5日(水)17時20分
アダム・トゥーズ(コロンビア大学歴史学教授)

新興経済諸国が世界のGDPに占める割合は欧米加盟国を上回る見通しも Fabian Bimmer-REUTERS

<国連と違う「金持ち(と予備軍)」クラブ――孤立主義が幅を利かせる時代にグローバルな協調組織が果たすべき役割>

今から10年前、2008年11月のことだ。世界に急拡大する金融危機に対処するため、当時の米ブッシュ政権が極めて異例な国際会議の開催を呼び掛け、今まで一度も一堂に会したことのない20カ国・地域の首脳が首都ワシントンに集まった。G20サミット(20カ国・地域首脳会議)の誕生である(今年は11月30日にアルゼンチンで開催)。

G20サミットは国際的な集まりなのに国連を正式メンバーに含まず、いかにも排他的なクラブという印象だ。しかし経済のグローバル化を象徴する存在なのは確かで、だからこそ開催地では毎回のように反グローバリズムの激しい抗議行動が繰り広げられてきた。それでも現在の世界経済の構造を思うと、G20に代わる意思決定の場は想像し難い。それは今日の世界にふさわしい地球規模のガバナンスの形と言える。

始まりは90年代末のアジア金融危機を受けての財相会合にあった。各国経済の破綻を避けるため、当時の米財務長官ローレンス・サマーズが音頭を取って各地域の主要国に呼び掛け、国連よりも迅速かつ柔軟な意思決定の場を設けることになった。

その際の参加国の選定では人口とGDPが基準になった。結果、フランスや南アフリカは加わり、ナイジェリアやスペインは除外された。中核には先進7カ国(G7)とBRICSの5カ国(ブラジル、ロシア、インド、中国、南アフリカ)がいて、これにサウジアラビアやインドネシア、アルゼンチン、メキシコ、トルコなどが加わった。

首脳会議に格上げされる前のG20は、各国の財務官僚が定期的に集まる地味な会合だった。カナダなどは最初から首脳レベルの会合を求めていたが、中国と直接的な「G2外交」を志向するブッシュ政権が難色を示したらしい。皮肉なもので、首脳級に格上げされた08年11月のG20サミットはブッシュ流の「一国主義」が終わり、オバマ次期政権の多国間主義が始動する予兆となった。

新興国の急成長を反映

あの頃の世界経済は、いわば金融の「心臓発作」に襲われていた。欧米の主要な金融機関が存続の危機に立たされ、各国政府は自国の金融機関の救済に躍起になっていた。しかし各国の対応はバラバラで、足並みがそろわない。このままだと1930年代の大恐慌の再来だという危機感が高まり、国際協調に向けた政治的メッセージを打ち出す必要に迫られていた。

とはいえ各国の国益を損なわずに収拾を図るためには、露骨に政治的な機関はふさわしくない。現にフランスや日本は、自国の主張を通しやすい似た者同士の連携を望んでいた。アメリカにも、国連に主導権を握られ、金融危機の元凶はアメリカだと非難される事態を避けたいという事情があった。結果、財相会合だったG20の枠組みを格上げし、そこにIMFを関与させた(IMFでは出資額に応じて投票権が割り振られる)。

当然のことながら、G20に入れなかった国々は反発した。ノルウェーの外相は19世紀のウィーン会議に例えて、「列強が国境線を書き換える」時代に逆戻りする気かと非難した。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

米国務長官、サウジ到着 ムハンマド皇太子とガザ情勢

ワールド

米、ウクライナ戦争終結へ何が可能か判断 18日外相

ワールド

ロシア副首相、OPECプラスの減産縮小延期を否定=

ビジネス

FRB、利下げにはインフレ低下の確信強まる必要=ボ
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:ウクライナが停戦する日
特集:ウクライナが停戦する日
2025年2月25日号(2/18発売)

ゼレンスキーとプーチンがトランプの圧力で妥協? 20万人以上が死んだ戦争が終わる条件は

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    朝1杯の「バターコーヒー」が老化を遅らせる...細胞が浄化される「オートファジー」とは何か?
  • 2
    7年後に迫る「小惑星の衝突を防げ」、中国が「地球防衛隊」を創設...地球にぶつかる確率は?
  • 3
    「トランプ相互関税」の範囲が広すぎて滅茶苦茶...VATも標的に
  • 4
    戦場に「北朝鮮兵はもういない」とロシア国営テレビ.…
  • 5
    墜落して爆発、巨大な炎と黒煙が立ち上る衝撃シーン.…
  • 6
    「健康寿命」を延ばすのは「少食」と「皮下脂肪」だ…
  • 7
    イスラム×パンク──社会派コメディ『絶叫パンクス レ…
  • 8
    ロシアの戦車不足いよいよ深刻...「独ソ戦」時代のT-…
  • 9
    ドイツ国防「問題だらけ、解決策皆無」「ドローンは…
  • 10
    動かないのに筋力アップ? 88歳医大名誉教授が語る「…
  • 1
    「健康寿命」を延ばすのは「少食」と「皮下脂肪」だった...スーパーエイジャーに学ぶ「長寿体質」
  • 2
    戦場に「北朝鮮兵はもういない」とロシア国営テレビ...犠牲者急増で、増援部隊が到着予定と発言
  • 3
    墜落して爆発、巨大な炎と黒煙が立ち上る衝撃シーン...ロシア攻撃機「Su-25」の最期を捉えた映像をウクライナ軍が公開
  • 4
    2025年2月12日は獅子座の満月「スノームーン」...観…
  • 5
    【徹底解説】米国際開発庁(USAID)とは? 設立背景…
  • 6
    イスラム×パンク──社会派コメディ『絶叫パンクス レ…
  • 7
    週に75分の「早歩き」で寿命は2年延びる...スーパー…
  • 8
    朝1杯の「バターコーヒー」が老化を遅らせる...細胞…
  • 9
    iPhoneで初めてポルノアプリが利用可能に...アップル…
  • 10
    【クイズ】今日は満月...2月の満月が「スノームーン…
  • 1
    週刊文春は「訂正」を出す必要などなかった
  • 2
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 3
    【一発アウト】税務署が「怪しい!」と思う通帳とは?
  • 4
    有害なティーバッグをどう見分けるか?...研究者のア…
  • 5
    「健康寿命」を延ばすのは「少食」と「皮下脂肪」だ…
  • 6
    1日大さじ1杯でOK!「細胞の老化」や「体重の増加」…
  • 7
    戦場に「北朝鮮兵はもういない」とロシア国営テレビ.…
  • 8
    世界初の研究:コーヒーは「飲む時間帯」で健康効果…
  • 9
    失礼すぎる!「1人ディズニー」を楽しむ男性に、女性…
  • 10
    戦場に「杖をつく兵士」を送り込むロシア軍...負傷兵…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中