最新記事

先住民

米宣教師を殺したセンチネルは地球最後の「石器人」

American Missionary Body Still on Remote Island: Police

2018年11月27日(火)16時30分
デービッド・ブレナン

地球上で最後の石器時代を生きるといわれるセンチネル族 BBC News

<接近が厳しく制限されているインドの離島で殺害された米国人の遺体は先住民保護のため収容断念となる可能性も>

インドの北センチネル島で先住民に殺害された米国人宣教師ジョン・アレン・チャウの遺体は、今も収容できていない。最古の推定では6万年も前からこの島で暮らしてきたといわれる「貴重な」先住民、センチネル族を傷つけかねないからだ。

AP通信によれば、11月21日にチャウが殺害されたとの見解を発表したインド当局は、アンダマン・ニコバル諸島に属するこの離島に船舶を派遣。同島で暮らす先住民、センチネル族と衝突することなく、チャウの遺体を収容する計画を作ろうとした。

今も石器時代の暮らしを続ける地球上で最後のコミュニティーとされるこの先住民は、外部との接触に強い抵抗を示している。遺体収容のためとはいえ不用意に近づけば、互いにさらなる犠牲者が出かねないことをインド当局は懸念している。

アンダマン・ニコバル諸島を管轄する警察のトップであるデペンドラ・パタックは、センチネル族は「宝だ」として「島に乗り込んで我々のやり方を押しつけることはできない」と説明した。「彼らに害を及ぼすようなことはしたくない」

チャウは11月半ば、地元の漁師にカネを払って手助けして貰い、上陸が禁止されている同島を訪れて殺害された。彼が最後に書いた複数の手紙には、島の住民にキリスト教を布教したいという思いと、地元漁師の船を拠点にして複数回、島に上陸したことが記されていた。

遺体が埋められるのを漁師が目撃

またこれらの手紙には、センチネル族との緊迫したやりとりがあったことも書かれていた。ある時はセンチネル族の若者がチャウに向けて放った矢が、彼が持っていた聖書を射抜いたという。

それでもチャウは11月16日に再び北センチネル島に接近し、漁師たちに「船には戻らない」と告げて島に上陸した。翌朝、漁師たちは先住民がチャウの遺体を引きずって運び、海岸に埋めるところを見たという。その後、チャウが島に接近するのを手引きした罪で7人の漁師が逮捕された。

1127north.jpg

11月23日と24日には警察や当局者がボートで同島に接近し、双眼鏡でセンチネル族の様子を観察。パタックによれば、彼らは弓矢で武装していたものの、過去に接触が試みられた際のように火をつけた弓矢を放ってくることはなかったという。「我々は離れた場所から彼らを観察し、彼らも我々を観察していた」とパタックは説明した。

当局者たちは今もチャウの遺体の収容を諦めていないが、センチネル族は過去にも島を訪れた外部の人間を殺害しており、それらの遺体はいまだに収容されていない。

2006年には、船で眠っていた2人の漁師が北センチネル島に漂着。センチネル族はこの2人を殺害し、その遺体を海岸に埋めた。遺体収容のためにヘリコプターで接近したが、弓矢で追い払われたという。

今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ワールド

石破首相「双方の利益になるよう最大限努力」、G7で

ワールド

米中貿易枠組み合意、軍事用レアアース問題が未解決=

ワールド

独仏英、イランに核開発巡る協議を提案 中東の緊張緩

ワールド

イスラエルとイランの応酬続く、トランプ氏「紛争終結
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:非婚化する世界
特集:非婚化する世界
2025年6月17日号(6/10発売)

非婚化・少子化の波がアメリカもヨーロッパも襲う。世界の経済や社会福祉、医療はどうなる?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「タンパク質」より「食物繊維」がなぜ重要なのか?...「がん」「栄養」との関係性を管理栄養士が語る
  • 2
    ブラッド・ピット新髪型を「かわいい」「史上最高にかっこいい」とネット絶賛 どんなヘアスタイルに?
  • 3
    「サイドミラー1つ作れない」レアアース危機・第3波でパニック...中国の輸出規制が直撃する「グローバル自動車産業」
  • 4
    サイコパスの顔ほど「魅力的に見える」?...騙されず…
  • 5
    林原めぐみのブログが「排外主義」と言われてしまう…
  • 6
    メーガン妃とキャサリン妃は「2人で泣き崩れていた」…
  • 7
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の…
  • 8
    さらばグレタよ...ガザ支援船の活動家、ガザに辿り着…
  • 9
    4年間SNSをやめて気づいた「心を失う人」と「回復で…
  • 10
    ハルキウに「ドローン」「ミサイル」「爆弾」の一斉…
  • 1
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の瞬間...「信じられない行動」にネット驚愕
  • 2
    大阪万博は特に外国人の評判が最悪...「デジタル化未満」の残念ジャパンの見本市だ
  • 3
    「セレブのショーはもう終わり」...環境活動家グレタらが乗ったガザ支援船をイスラエルが拿捕
  • 4
    「サイドミラー1つ作れない」レアアース危機・第3波で…
  • 5
    ブラッド・ピット新髪型を「かわいい」「史上最高に…
  • 6
    ファスティングをすると、なぜ空腹を感じなくなるの…
  • 7
    今こそ「古典的な」ディズニープリンセスに戻るべき…
  • 8
    アメリカは革命前夜の臨界状態、余剰になった高学歴…
  • 9
    右肩の痛みが告げた「ステージ4」からの生還...「生…
  • 10
    脳も体も若返る! 医師が教える「老後を元気に生きる…
  • 1
    日本の「プラごみ」で揚げる豆腐が、重大な健康被害と環境汚染を引き起こしている
  • 2
    【定年後の仕事】65歳以上の平均年収ランキング、ワースト2位は清掃員、ではワースト1位は?
  • 3
    日本はもう「ゼロパンダ」でいいんじゃない? 和歌山、上野...中国返還のその先
  • 4
    一瞬にして村全体が消えた...スイスのビルヒ氷河崩壊…
  • 5
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の…
  • 6
    大爆発で一瞬にして建物が粉々に...ウクライナ軍「Mi…
  • 7
    「ママ...!」2カ月ぶりの再会に駆け寄る13歳ラブラ…
  • 8
    あなたも当てはまる? 顔に表れるサイコパス・ナルシ…
  • 9
    ドローン百機を一度に発射できる中国の世界初「ドロ…
  • 10
    【クイズ】EVの電池にも使われる「コバルト」...世界…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中