最新記事

医療

認知症患者を半減させうるアルツハイマー治療薬に期待

New Alzheimer's Vaccine May Cut Dementia Cases in Half

2018年11月26日(月)16時26分
ベンジャミン・フィアナウ

認知症の発症を5年遅らせられるだけでも、本人や家族には革命的だ oneinchpunch/iStock.

<アメリカの研究者が、認知症治療のブレイクスルーになるかもしれない新型ワクチンの動物実験に成功した>

開発中のアルツハイマー病のワクチンが実用化されれば、認知症を半減させ、症状の開始を5年遅らせることがもうすぐ可能になるかもしれない。

米テキサス州ダラスのテキサス大学サウスウエスタンメディカルセンターの研究者たちは、最近実施した動物実験で新たなワクチンの有効性を確認できたため、次はいよいよ臨床実験(治験)を目指したい、と言った。

動物実験から治験への道のりは長く険しいため、有望視された多くの治療薬が途中で挫折する。だがアルツハイマー病の専門誌「アルツハイマーズ・リサーチ・アンド・セラピー」に11月20日に掲載された研究論文の筆頭著者は、米紙USAトゥデイに対し、もし治験でワクチンの安全性と有効性が証明されれば認知症の患者数の半減につながる可能性がある、と語った。

アルツハイマー病は、認知力が低下して記憶、思考、日常行動に問題を来す認知症の中でも代表的な病気。

このワクチンは、認知症との戦いを大きく前進させるかもしれない。従来のアルツハイマー病のワクチンには脳の炎症といった副作用が出たが、新しいワクチンをサルやウサギに投与してみたところ、体内の抗体が増加して脳内に蓄積したアミロイドβやタウの量を減らす効果があった。アミロイドβとタウは、認知症を患う人に多く見られるたんぱく質だ。

アメリカで第6位の死因

テキサス大学サウスウエスタンメディカルセンターのドリス・ランブレクト・ワシントン教授(神経学、神経療法)はUSAトゥデイに対し、このワクチンは患者の寿命を延ばし、認知症の進行を食い止められる可能性がある、と語った。

「発病を5年遅らせるだけでも、患者や家族にとっては大きな違いだ」と、ワシントンは言う。「認知症の患者数も半減する可能性がある」

アルツハイマー病では脳にプラークとタングルと呼ばれるたんぱく質の病変ができ、神経細胞のはたらきを阻害する。だが新たなワクチンなら、従来のような炎症も引き起こさずに、脳内で異常なたんぱく質が蓄積するのを止められるかもしれない。

米アルツハイマー病協会によれば、アルツハイマー病はアメリカで6番目に多い死因。現在の患者数は約570万人で、2050年までに1400万人に増えると予想されている。2000~2015年の間に、アルツハイマー病が原因の死者数は123%増加した。

英マンチェスター大学、脳科学・実験心理学学科のラス・イツサキ教授は、人が身近に感染し、口唇ヘルペスなどを引き起こすことで知られる単純ヘルペスウィルス1型(HSV-1)が、半数以上のアルツハイマー病の原因となっている可能性がある、と10月に本誌に語った。世界保健機関(WHO)によれば、HSV-1は世界人口のうち50歳未満の約37億人(全体の約67%)の体内に存在する。

(翻訳:河原里香)

ニューズウィーク日本版 ガザの叫びを聞け
※画像をクリックすると
アマゾンに飛びます

2025年12月2日号(11月26日発売)は「ガザの叫びを聞け」特集。「天井なき監獄」を生きる若者たちがつづった10年の記録[PLUS]強硬中国のトリセツ

※バックナンバーが読み放題となる定期購読はこちら


今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ワールド

ウクライナ大統領府長官が辞任、和平交渉を主導 汚職

ビジネス

米株式ファンド、6週ぶり売り越し

ビジネス

独インフレ率、11月は前年比2.6%上昇 2月以来

ワールド

外為・株式先物などの取引が再開、CMEで11時間超
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:ガザの叫びを聞け
特集:ガザの叫びを聞け
2025年12月 2日号(11/26発売)

「天井なき監獄」を生きるパレスチナ自治区ガザの若者たちが世界に向けて発信した10年の記録

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    7歳の息子に何が? 学校で描いた「自画像」が奇妙すぎた...「心配すべき?」と母親がネットで相談
  • 2
    100年以上宇宙最大の謎だった「ダークマター」の正体を東大教授が解明? 「人類が見るのは初めて」
  • 3
    【クイズ】世界遺産が「最も多い国」はどこ?
  • 4
    【寝耳に水】ヘンリー王子&メーガン妃が「大焦り」…
  • 5
    「攻めの一着すぎ?」 国歌パフォーマンスの「強めコ…
  • 6
    【最先端戦闘機】ミラージュ、F16、グリペン、ラファ…
  • 7
    エプスタイン事件をどうしても隠蔽したいトランプを…
  • 8
    子どもより高齢者を優遇する政府...世代間格差は5倍…
  • 9
    メーガン妃の「お尻」に手を伸ばすヘンリー王子、注…
  • 10
    バイデンと同じ「戦犯」扱い...トランプの「バラ色の…
  • 1
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで墜落事故、浮き彫りになるインド空軍の課題
  • 2
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるようになる!筋トレよりもずっと効果的な「たった30秒の体操」〈注目記事〉
  • 3
    マムダニの次は「この男」?...イケメンすぎる「ケネディの孫」の出馬にSNS熱狂、「顔以外も完璧」との声
  • 4
    海外の空港でトイレに入った女性が見た、驚きの「ナ…
  • 5
    ポルノ依存症になるメカニズムが判明! 絶対やって…
  • 6
    【最先端戦闘機】ミラージュ、F16、グリペン、ラファ…
  • 7
    老後資金は「ためる」より「使う」へ──50代からの後…
  • 8
    AIの浸透で「ブルーカラー」の賃金が上がり、「ホワ…
  • 9
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 10
    7歳の息子に何が? 学校で描いた「自画像」が奇妙す…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 3
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 4
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 5
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 6
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸…
  • 7
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 8
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 9
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 10
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中