最新記事

疾病予防

シャワーヘッドのぬめりには肺疾患を引き起こす細菌が含まれる:米研究結果

2018年11月7日(水)17時45分
松岡由希子

シャワーヘッドに付いたぬめりに、肺疾患を引き起こす細菌が含まれている可能性がある Gago-Image

<シャワーヘッドは、真正細菌の一種「マイコバクテリウム属」の温床となりやすく、非結核性抗酸菌(NTM)症といった肺疾患を引き起こすものもあることがわかった>

私たちが日常的に利用する浴室は、水垢やカビなどの汚れがたまりやすい空間ゆえ、こまめな掃除が必要だ。とりわけ、浴室の掃除で見落としがちなシャワーヘッドは、真正細菌の一種「マイコバクテリウム属」の温床となりやすく、これらの細菌の中には、非結核性抗酸菌(NTM)症といった肺疾患を引き起こすものもあるという。

米コロラド大学ボルダー校の研究チームは、米国および欧州13カ国を対象に、一般家庭のシャワーヘッドに付着したヘドロ状のバイオフィルム(生物膜)に含まれるマイコバクテリウム属の細菌を分析し、2018年10月30日、微生物学専門雑誌「エムバイオ」でその研究結果を発表した。

井戸水よりも水道水世帯のほうが細菌が2倍

研究チームは、市民参加型研究プロジェクト「シャワーヘッド・マイクロバイオーム・プロジェクト/」を立ち上げ、家庭のシャワーヘッドのバイオフィルムと水のサンプルを採集してくれる協力者を募り、米国49州から638サンプル、欧州13カ国から53サンプルを集めた。これらのサンプルをもとに、遺伝情報の解析手段である「DNAシーケンシング技術」によってシャワーヘッドのバイオフィルムに生息する細菌の種類を特定し、その量を分析した。

その結果、米国のシャワーヘッドのバイオフィルムに含まれるマイコバクテリウム属の細菌の量は、欧州に比べて平均して2.3倍高かった。また、米国内で採集したサンプルに限ってみてみると、井戸水を利用している世帯よりも、地方自治体の水道水の利用世帯のほうが、細菌が2倍以上繁殖していた。米国の水道水は、井戸水や欧州の水道水に比べて、塩素と鉄濃度が高く、pHと硝酸塩のレベルが低いことから、このような水質の違いがマイコバクテリウム属の細菌の繁殖に影響しているのではないかとみられている。

金属製のシャワーヘッドの細菌量はプラスチック製の2倍

シャワーヘッドの素材によってマイコバクテリウム属の細菌の量が異なることも明らかになっている。この研究結果によると、金属製のシャワーヘッドに含まれるマイコバクテリウム属の細菌の量は、プラスチック製のものに比べて平均2倍高かった。研究チームでは、プラスチック素材から浸出する生分解性炭素によって、シャワーヘッドのバイオフィルムにあるマイコバクテリウム属の細菌を阻害する他の細菌の生成が促されているためではないかと考察している。

F1.large.jpg

肺疾患の流行地域と、シャワーヘッドの細菌の量が多い地域が合致

この研究結果では、カリフォルニア南部やフロリダ、ニューヨークなど、非結核性抗酸菌(NTM)による肺疾患が流行している地域と、シャワーヘッドのバイオフィルムに含まれる細菌の量が多い地域が概ね合致した。シャワーヘッドの細菌が疾病の伝播に重要な役割を果たしている可能性があるとみられている。

F4.large.jpg

アメリカ肺協会によると、米国では非結核性抗酸菌(NTM)症の患者数が8万人を超え、高齢者ほどかかりやすい傾向にあるそうだ。疾病予防の観点においては、シャワーヘッドを清潔に保つことを習慣づけるのはもちろん、水質や水処理システムなどにおいても、改善の余地があるのかもしれない。

今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ワールド

金総書記、プーチン氏に新年メッセージ 朝ロ同盟を称

ワールド

タイとカンボジアが停戦で合意、72時間 紛争再燃に

ワールド

アングル:求人詐欺で戦場へ、ロシアの戦争に駆り出さ

ワールド

ロシアがキーウを大規模攻撃=ウクライナ当局
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:ISSUES 2026
特集:ISSUES 2026
2025年12月30日/2026年1月 6日号(12/23発売)

トランプの黄昏/中国AI/米なきアジア安全保障/核使用の現実味......世界の論点とキーパーソン

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」とは何か...血管の名医がたどり着いた長生きの共通点
  • 2
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 3
    『SHOGUN 将軍』の成功は嬉しいが...岡田准一が目指すのは、真田広之とは「別の道」【独占インタビュー】
  • 4
    中国、インドをWTOに提訴...一体なぜ?
  • 5
    ウクライナ水中ドローンが、ロシア潜水艦を爆破...「…
  • 6
    アベノミクス以降の日本経済は「異常」だった...10年…
  • 7
    「衣装がしょぼすぎ...」ノーラン監督・最新作の予告…
  • 8
    【世界を変える「透視」技術】数学の天才が開発...癌…
  • 9
    中国、米艦攻撃ミサイル能力を強化 米本土と日本が…
  • 10
    海水魚も淡水魚も一緒に飼育でき、水交換も不要...ど…
  • 1
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」とは何か...血管の名医がたどり着いた長生きの共通点
  • 2
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 3
    『SHOGUN 将軍』の成功は嬉しいが...岡田准一が目指すのは、真田広之とは「別の道」【独占インタビュー】
  • 4
    「食べ方の新方式」老化を防ぐなら、食前にキャベツ…
  • 5
    中国、インドをWTOに提訴...一体なぜ?
  • 6
    【過労ルポ】70代の警備員も「日本の日常」...賃金低…
  • 7
    ウクライナ水中ドローンが、ロシア潜水艦を爆破...「…
  • 8
    海水魚も淡水魚も一緒に飼育でき、水交換も不要...ど…
  • 9
    批評家たちが選ぶ「2025年最高の映画」TOP10...満足…
  • 10
    待望の『アバター』3作目は良作?駄作?...人気シリ…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」とは何か...血管の名医がたどり着いた長生きの共通点
  • 3
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 4
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 5
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした…
  • 6
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 7
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 8
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入と…
  • 9
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出…
  • 10
    『SHOGUN 将軍』の成功は嬉しいが...岡田准一が目指…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中