最新記事

ロシア

プーチンがもくろむアフリカ進出作戦

PUTIN'S SAFARI

2018年11月6日(火)15時45分
ジャック・ロシュ(ジャーナリスト)、オーエン・マシューズ(元モスクワ支局長)

アメリカの世界での影響力が下がる一方でロシアの夢は膨らんでいる Alexei Nikolsky/Sputnik/Kremlin/REUTERS

<ロシアを大国として復活させ、市場の拡大を目指すプーチンは、経済協力や軍事支援など様々な手を使ってアフリカ諸国を影響下に置こうとしている>

ジャンベデル・ボカサが中央アフリカ帝国初代皇帝として用いたベレンゴ宮殿には、いま新しい客人たちが滞在している。

66年にクーデターで中央アフリカ共和国の政権を奪取したボカサ参謀総長(当時)は、大統領として独裁政治を行い、76年に帝政への移行を宣言して初代皇帝に即位した。77年には、1年分の開発援助資金をつぎ込んで盛大な戴冠式も挙げた。

しかし79年、ボカサのクーデターを支援した旧宗主国のフランスが再び介入し、新たなクーデターによりボカサ政権を崩壊させた。

それから約40年。いま首都バンギの近郊にあるベレンゴ宮殿に出入りするのは、ロシア兵たちだ。ロシアが中央アフリカ政府と急接近していることに、欧米諸国は神経をとがらせている。

ロシアのウラジーミル・プーチン大統領は、アフリカへの政治的な影響力の拡大と新しい市場の獲得を目的に、さまざまな手段を駆使している。巨額の武器取引や大型建設事業を実行したり、衛星通信システムの整備や石油・天然ガス資源の開発を推進したりするほか、表立った軍事介入もしているし、民間軍事会社を使った水面下の軍事活動も行っている。

「アフリカをめぐる戦いが始まる」と、ロシア科学アカデミー(モスクワ)のロシア・アフリカ関係部門の責任者を務めるエフゲニー・コレンディヤソフは言う。「その戦いは激化していく」

中央アフリカは世界の最貧国の1つだ。豊富な鉱物資源に恵まれているが、内戦と無政府状態が長く続いている。13年、イスラム教徒主導の反政府武装勢力「セレカ」が当時の政府を倒し、国土の大半を制圧。キリスト教勢力がこれに対抗して民兵組織をつくり、両勢力の間で激しい戦闘が続いた。16年3月に大統領選でフォースタンアルシャンジュ・トゥアデラが当選すると、内戦は一時小康状態になったが、程なくセレカの内部対立により、再び戦闘が始まった。

紛争地帯にロシア製武器を

ロシア政府は、このような状況を好機とみている。「ロシアの典型的なやり方だ。チャンスとみて取ると、あまり金をかけずに欧米諸国の勢力圏に影響力を広げ、自国を大国らしく見せようとする」と、プラハ国際関係研究所のマーク・ガレオッティ上級研究員は指摘する。

昨年10月、ロシアのセルゲイ・ラブロフ外相がトゥアデラと会談した。国連は内戦下の中央アフリカへの武器輸出を禁止していたが、ロシア政府は政府軍に武器・弾薬を無償で提供することを例外的に認めさせた。武器の中には、大量の自動小銃、ピストル、ロケットランチャー、機関銃、対空機関砲などが含まれていたという。これに加えて、ロシア外務省によると、ロシアは175人の教官を派遣し、ベレンゴ宮殿で政府軍兵士の訓練を行っている。

中央アフリカ政府は、欧米諸国の経済的援助と国連平和維持活動の支援を受けてきたが、首都の外はほとんど支配できていない。国土の約4分の3が反政府勢力の支配下にある状況で、支配地域を拡大させたい政府はロシアからの支援を歓迎している。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

トランプ氏「ウクライナはモスクワ攻撃すべきでない」

ワールド

米、インドネシアに19%関税 米国製品は無関税=ト

ビジネス

米6月CPI、前年比+2.7%に加速 FRBは9月

ビジネス

アップル、レアアース磁石購入でMPマテリアルズと契
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:AIの6原則
特集:AIの6原則
2025年7月22日号(7/15発売)

加速度的に普及する人工知能に見えた「限界」。仕事・学習で最適化する6つのルールとは?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「二度とやるな!」イタリア旅行中の米女性の「パスタの食べ方」に批判殺到、SNSで動画が大炎上
  • 2
    日本より危険な中国の不動産バブル崩壊...目先の成長だけ追い求め「失われた数百年」到来か?
  • 3
    「飛行機内が臭い...」 原因はまさかの「座席の下」だった...異臭の正体にネット衝撃
  • 4
    真っ赤に染まった夜空...ロシア軍の「ドローン700機…
  • 5
    「このお菓子、子どもに本当に大丈夫?」──食品添加…
  • 6
    「史上最も高価な昼寝」ウィンブルドン屈指の熱戦中…
  • 7
    約3万人のオーディションで抜擢...ドラマ版『ハリー…
  • 8
    「オーバーツーリズムは存在しない」──星野リゾート…
  • 9
    「巨大なヘラジカ」が車と衝突し死亡、側溝に「遺さ…
  • 10
    歴史的転換?ドイツはもうイスラエルのジェノサイド…
  • 1
    「ベンチプレス信者は損している」...プッシュアップを極めれば、筋トレは「ほぼ完成」する
  • 2
    「弟ができた!」ゴールデンレトリバーの初対面に、ネットが感動の渦
  • 3
    「お腹が空いていたんだね...」 野良の子ネコの「首」に予想外のものが...救出劇が話題
  • 4
    千葉県の元市長、「年収3倍」等に惹かれ、国政に打っ…
  • 5
    日本企業の「夢の電池」技術を中国スパイが流出...AP…
  • 6
    どの学部の卒業生が「最も稼いでいる」のか? 学位別…
  • 7
    イギリスの鉄道、東京メトロが運営したらどうなる?
  • 8
    完璧な「節約ディズニーランド」...3歳の娘の夢を「…
  • 9
    エリザベス女王が「うまくいっていない」と心配して…
  • 10
    「二度とやるな!」イタリア旅行中の米女性の「パス…
  • 1
    「コーヒーを吹き出すかと...」ディズニーランドの朝食が「高額すぎる」とSNSで大炎上、その「衝撃の値段」とは?
  • 2
    「あまりに愚か...」国立公園で注意を無視して「予測不能な大型動物」に近づく幼児連れ 「ショッキング」と映像が話題に
  • 3
    10歳少女がサメに襲われ、手をほぼ食いちぎられる事故...「緊迫の救護シーン」を警官が記録
  • 4
    JA・卸売業者が黒幕説は「完全な誤解」...進次郎の「…
  • 5
    ディズニー・クルーズラインで「子供が海に転落」...…
  • 6
    気温40℃、空港の「暑さ」も原因に?...元パイロット…
  • 7
    燃え盛るロシアの「黒海艦隊」...ウクライナの攻撃で…
  • 8
    「小麦はもう利益を生まない」アメリカで農家が次々…
  • 9
    イランを奇襲した米B2ステルス機の謎...搭乗した専門…
  • 10
    「うちの赤ちゃんは一人じゃない」母親がカメラ越し…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中