最新記事

ロシア

プーチンがもくろむアフリカ進出作戦

PUTIN'S SAFARI

2018年11月6日(火)15時45分
ジャック・ロシュ(ジャーナリスト)、オーエン・マシューズ(元モスクワ支局長)

putinafrica-map01.png

欧米諸国は、ロシアの動向に警戒心を強めている。現地の欧米諸国の高官たちが本誌に語ったところによれば、ロシア政府は武器・弾薬の無償提供だけでなく、最前線のパトロールや輸送活動も引き受け始めたらしい。民間軍事会社の傭兵部隊を送り込んでいる疑いも持たれている。そればかりか、トゥアデラは自らの警護チームにロシア人を加えているとされ、ロシア人の治安顧問が政府中枢と緊密にやりとりしているとも言われる。

アメリカ政府はこれに対抗するために、中央アフリカ政府の警察官に訓練を行い、政府軍への軍事車両の無償提供も始めた。

しかし、ロシア軍は既にこの国に深く入り込んでいる。国連中央アフリカ多面的統合安定化ミッション(MINUSCA)のケネス・グラック事務次長によれば、コンゴ(旧ザイール)との国境に近い無法地帯の町バンガスに10人ほどのロシア人教官が入り、武装勢力との戦いに向けて政府軍の基地設置と実戦訓練を指導している。

反政府勢力の支配地域に近い要衝の中都シビューにも、ロシア軍関係者が入っていると言われる。今年7月には、この町に向かう3人のロシア人ジャーナリストが殺害される事件が起きた。ジャーナリストたちは、ロシアの傭兵部隊がこの一帯で活動している可能性について取材を進めていた。

ロシアがこの国で関わっている相手は、トゥアデラ政権だけではない。報道によると、ロシア軍関係者は北部地域で反政府勢力のリーダーたちとも接触している。

こうした戦略は、軍需産業を足掛かりに国際政治におけるキープレーヤーの座を取り戻すというロシア政府の大きな目標とも合致する。ロシアはアメリカに次ぐ世界第2位の武器輸出国であり、ロシア製の武器が使われている紛争地帯は、未来の買い手に向けた武器のショールームだ。「シリア内戦でロシアの武器輸出業は活気を取り戻した。ロシア製武器の信頼性が戦場で証明されたからだ」と、英王立国際問題研究所のニコライ・コザノフは言う。

中央アフリカを懐柔したことは、近隣のチャドやカメルーン、コンゴ、スーダン、南スーダンといった国々との契約を増やす結果につながるかもしれない。いずれの国も紛争を抱え、為政者たちは喉から手が出るほど武器を欲している。プーチンにとっては、武器の売り上げ増は自らの支配力の強化、そして政権の重要な後ろ盾である軍産複合体の強化につながる。

だが政情不安定な貧しい国々に大量の武器を送り込めば悲惨な結果を引き起こしかねない。17年3月に救援団体オックスファムが公表した報告書によれば、アフリカには推計1億個の軽火器類が無統制な状態で存在し(その多くが中国またはロシア製)、紛争の長期化や貧困の深刻化の要因となっているという。

中央アフリカも例外ではない。今年7月に国連の専門家パネルは、中央アフリカの治安部隊がロシア製武器の供給を受けたことを受け、反政府勢力が武器調達に走っていると警告した。

アフリカに対する影響力が最も強かったのは冷戦時代だ。当時も旧ソ連の情報機関KGBの工作員がアフリカ大陸各地に飛び、共産ゲリラに武器を渡していた。だがソ連崩壊後の90年代には影響力も低下。今も経済の停滞から使える金は限られており、売り込むようなイデオロギーもロシアにはない。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

アングル:カジノ産業に賭けるスリランカ、統合型リゾ

ワールド

米、パレスチナ指導者アッバス議長にビザ発給せず 国

ワールド

トランプ関税の大半違法、米控訴裁が判断 「完全な災

ビジネス

アングル:中国、高齢者市場に活路 「シルバー経済」
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:健康長寿の筋トレ入門
特集:健康長寿の筋トレ入門
2025年9月 2日号(8/26発売)

「何歳から始めても遅すぎることはない」――長寿時代の今こそ筋力の大切さを見直す時

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    1日「5分」の習慣が「10年」先のあなたを守る――「動ける体」をつくる、エキセントリック運動【note限定公開記事】
  • 2
    東北で大腸がんが多いのはなぜか――秋田県で死亡率が下がった「意外な理由」
  • 3
    50歳を過ぎても運動を続けるためには?...「動ける体」をつくる4つの食事ポイント
  • 4
    日本の「プラごみ」で揚げる豆腐が、重大な健康被害…
  • 5
    「人類初のパンデミック」の謎がついに解明...1500年…
  • 6
    25年以内に「がん」を上回る死因に...「スーパーバグ…
  • 7
    豊かさに溺れ、非生産的で野心のない国へ...「世界が…
  • 8
    「体を動かすと頭が冴える」は気のせいじゃなかった⋯…
  • 9
    信じられない...「洗濯物を干しておいて」夫に頼んだ…
  • 10
    首を制する者が、筋トレを制す...見た目もパフォーマ…
  • 1
    信じられない...「洗濯物を干しておいて」夫に頼んだ女性が目にした光景が「酷すぎる」とSNS震撼、大論争に
  • 2
    プール後の20代女性の素肌に「無数の発疹」...ネット民が「塩素かぶれ」じゃないと見抜いたワケ
  • 3
    東北で大腸がんが多いのはなぜか――秋田県で死亡率が下がった「意外な理由」
  • 4
    皮膚の内側に虫がいるの? 投稿された「奇妙な斑点」…
  • 5
    1日「5分」の習慣が「10年」先のあなたを守る――「動…
  • 6
    飛行機内で隣の客が「最悪」のマナー違反、「体を密…
  • 7
    25年以内に「がん」を上回る死因に...「スーパーバグ…
  • 8
    なぜ筋トレは「自重トレーニング」一択なのか?...筋…
  • 9
    豊かさに溺れ、非生産的で野心のない国へ...「世界が…
  • 10
    脳をハイジャックする「10の超加工食品」とは?...罪…
  • 1
    「週4回が理想です」...老化防止に効くマスターベーション、医師が語る熟年世代のセルフケア
  • 2
    こんな症状が出たら「メンタル赤信号」...心療内科医が伝授、「働くための」心とカラダの守り方とは?
  • 3
    「自律神経を強化し、脂肪燃焼を促進する」子供も大人も大好きな5つの食べ物
  • 4
    デカすぎ...母親の骨盤を砕いて生まれてきた「超巨大…
  • 5
    デンマークの動物園、飼えなくなったペットの寄付を…
  • 6
    「まさかの真犯人」にネット爆笑...大家から再三「果…
  • 7
    信じられない...「洗濯物を干しておいて」夫に頼んだ…
  • 8
    山道で鉢合わせ、超至近距離に3頭...ハイイログマの…
  • 9
    「レプトスピラ症」が大規模流行中...ヒトやペットに…
  • 10
    「あなた誰?」保育園から帰ってきた3歳の娘が「別人…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中