最新記事

東南アジア

タイ観光地ピピレイ島、立ち入り禁止延長 環境破壊の生態系回復進まず

2018年10月7日(日)22時20分
大塚智彦(PanAsiaNews)

ピピレイ島にまだ中国人観光客が押し寄せる前のマヤ湾(筆者撮影)

<かつては観光による収入のため自然環境が破壊されることに無頓着だった東南アジア各国も、持続可能な観光収入のために動き出した──>

タイの有名観光地であるアンダマン海に浮かぶ無人島「ピピレイ島」は2018年6月1日から環境保護、生態系回復を目的に6カ月間の観光客全面的立ち入り禁止措置が取られていたが、タイ当局はこのほど禁止期間の無期延長を決めた。

ピピレイ島はタイ南部のリゾート地プーケットやクラビからスピードボートに乗船して約1時間半で訪れることができる観光地で、三方を緑に覆われた石灰岩の山に囲まれ白い砂浜が美しいマヤ湾は世界中の観光客を引きつけてきた。

ところが、近年ピピ諸島の中心となるピピドン島に宿泊施設や飲食店が乱立し、ピピドン島経由でピピレイ島を訪れる観光客も激増、1日に4000人から5000人が狭いピピレイ島マヤ湾のビーチに押し寄せる事態が続いていた。

マヤ湾は入り口が狭く、砂浜にスピードボートが次々と停泊するため、船外機のスクリューや船体が海底の珊瑚礁などを傷つける事例が多く報告されるようになった。

事態を重視したタイ政府、観光当局、自然保護組織などは2018年3月に「生態系の回復を促進するため」として6月1日から9月30日までの「観光客の全面的立ち入り禁止措置」を発表、6月1日からは厳しい監視が続いていた。

映画「ザ・ビーチ」で一躍有名に

ピピレイ島は2000年に公開された米映画「ザ・ビーチ」(主演レオナルド・ディカプリオ)で一躍有名となり、世界中の観光客が押し寄せる一因となった。映画撮影時には砂浜などにあった自然の椰子の木を抜いたり、新たに植えたり、砂浜を造成したりする計画が問題となり、タイ当局との間で撮影後に原状回復を図ることで合意した経緯がある。撮影終了後は映画会社が多額の費用を投じてもともとあった砂浜の環境に戻したことも話題を集めた。

観光当局などによると特に近年は中国人観光客がピピレイ島に殺到し、海底の生態系破壊に加えてゴミ問題、トイレの問題、マナー問題なども浮上、砂浜や後方のジャングルでも深刻な環境問題が発生していたという。

当初の渡航禁止期間である9月30日を前に環境当局などがマヤ湾の生態系を調査したところ、珊瑚礁の破壊は止まったものの回復が予想通りに進んでいないことなどから「禁止期間を延長し、無期延長とする」ことが決まった。今後どのくらい禁止期間が続くのかは明確になっていないが、今後サンゴ礁の回復を見ながら決定していくとしている。

そして観光客の渡航解禁後も1日の訪問客の数を制限し、マヤ湾内のスピードボートの停泊場所も一定の場所に制限する方針という。
ビビドン島は2004年12月のスマトラ島沖地震と津波で巨大な津波の被害を受けて多数の犠牲者を出した。その後急速な復興を遂げて津波被災以前の賑わいを取り戻したものの、ピピレイ島の閉鎖に伴う観光産業への深刻な影響から地元は1日も早い「ピピレイ島への渡航解禁」を要望していたが、タイ当局が自然保護を優先させた形となった。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

利上げの可能性、物価上昇継続なら「非常に高い」=日

ワールド

アングル:ホームレス化の危機にAIが救いの手、米自

ワールド

アングル:印総選挙、LGBTQ活動家は失望 同性婚

ワールド

北朝鮮、黄海でミサイル発射実験=KCNA
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:老人極貧社会 韓国
特集:老人極貧社会 韓国
2024年4月23日号(4/16発売)

地下鉄宅配に古紙回収......繁栄から取り残され、韓国のシニア層は貧困にあえいでいる

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 2

    ハーバード大学で150年以上教えられる作文術「オレオ公式」とは?...順番に当てはめるだけで論理的な文章に

  • 3

    便利なキャッシュレス社会で、忘れられていること

  • 4

    「韓国少子化のなぜ?」失業率2.7%、ジニ係数は0.32…

  • 5

    中国のロシア専門家が「それでも最後はロシアが負け…

  • 6

    「毛むくじゃら乳首ブラ」「縫った女性器パンツ」の…

  • 7

    止まらぬ金価格の史上最高値の裏側に「中国のドル離…

  • 8

    休日に全く食事を取らない(取れない)人が過去25年…

  • 9

    毎日どこで何してる? 首輪のカメラが記録した猫目…

  • 10

    ネット時代の子供の間で広がっている「ポップコーン…

  • 1

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 2

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 3

    攻撃と迎撃の区別もつかない?──イランの数百の無人機やミサイルとイスラエルの「アイアンドーム」が乱れ飛んだ中東の夜間映像

  • 4

    天才・大谷翔平の足を引っ張った、ダメダメ過ぎる「無…

  • 5

    「毛むくじゃら乳首ブラ」「縫った女性器パンツ」の…

  • 6

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 7

    アインシュタインはオッペンハイマーを「愚か者」と…

  • 8

    犬に覚せい剤を打って捨てた飼い主に怒りが広がる...…

  • 9

    ハリー・ポッター原作者ローリング、「許すとは限ら…

  • 10

    価値は疑わしくコストは膨大...偉大なるリニア計画っ…

  • 1

    人から褒められた時、どう返事してますか? ブッダが説いた「どんどん伸びる人の返し文句」

  • 2

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 3

    88歳の現役医師が健康のために「絶対にしない3つのこと」目からうろこの健康法

  • 4

    ロシアの迫撃砲RBU6000「スメルチ2」、爆発・炎上の…

  • 5

    バルチック艦隊、自国の船をミサイル「誤爆」で撃沈…

  • 6

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 7

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 8

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 9

    1500年前の中国の皇帝・武帝の「顔」、DNAから復元に…

  • 10

    浴室で虫を発見、よく見てみると...男性が思わず悲鳴…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中