最新記事

北極

北極海をロシアから守れ イギリス軍が部隊を派遣

British Troops Going to Arctic to Counter the Russians

2018年10月2日(火)14時11分
ブレンダン・コール

北極海のロシア軍が脅威になっていると言うウィリアムソン英国防相(左) Janis Laizans-REUTERS

<旧ソ連時代に北極海に建設した軍事基地を復活させるなど北極の軍事拠点化を進めるロシアに対抗するためノルウェーと協力して防衛力を強化>

イギリスのギャビン・ウィリアムソン国防相は9月30日、ロシアの脅威に対抗するために北極に800人の部隊を派遣すると発表した。

同日から始まった与党・保守党の党大会に先立ち、ウィリアムソンは英海軍と陸軍が今後10年にわたって、冬の期間中、ノルウェーに特殊部隊を配備するという新たな北極戦略を明らかにした。

北極については複数の国が領有権を主張しているが、ロシアはお構いなく、旧ソ連時代に北極海に建設した軍事基地を復活させ軍隊を常駐させている。

イギリスから派遣される特殊部隊はノルウェー軍のほか、アメリカとオランダの海軍とも協力して、ロシアの動きに対抗する構えだ。イギリスは、北大西洋でのロシア潜水艦の活動は「冷戦終結以降で最も活発になっている」との危機感を示す。

「氷が解けて新たな航路が出現するのに伴い、北極地方の重要性も増す」と、ウィリアムソンはバーミンガムの党大会で語った。「ロシアは北極海の氷の下でますます多くの潜水艦を活動させ、北極に100を超える施設を建設するという野望を掲げ、北極地域の領有権を主張し、軍事拠点化を進めている。こうした脅威に対処するための備えが必要だ」

ロシアの「拡張主義」を警戒

ウィリアムソンはまた、インターネット網をサイバー攻撃から守るために2000人の要員を訓練し、政府通信本部の情報収集拠点に配備するとも発表。さらに予算削減のために廃棄される可能性が懸念されていた英海軍の空母ブルワークと揚陸艦アルビオンについては、今後も維持する方針を明らかにした。

政府の防衛問題小委員会が発表した報告書は、ロシアが影響力の拡大を模索していると警告。イギリスは北極地方におけるロシアの目的について警戒すべきだとしている。

「ロシアは北極圏での政治的優位性を確保するために、軍事力を使用する備えがあることを示している。そして北極圏をめぐる数多くの国際的な法規は、ロシアに悪用されやすい」と報告書は警告している。

2007年7月には、ロシアの科学者によるチームが北極点の海底にロシア国旗を立てた。ロシアの拡張主義を示す何よりの証拠だと受け止められた。

しかしロシア政府は、同国の北極戦略が好戦的だという指摘を否定。北極地域で軍事力の強化を図っているのは、むしろNATO(北大西洋条約機構)の方だと主張している。ノルウェーでは10月、NATO加盟諸国が参加して、2015年以降で最大規模となる軍事演習「トライデント・ジャンクチャー」が実施される予定だ。

(翻訳:森美歩)

【お知らせ】ニューズウィーク日本版メルマガのご登録を!
気になる北朝鮮問題の動向から英国ロイヤルファミリーの話題まで、世界の動きを
ウイークデーの朝にお届けします。
ご登録(無料)はこちらから=>>

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

独経済団体、半数が26年の人員削減を予想 経済危機

ワールド

中国軍、台湾周辺で実弾射撃伴う演習開始 港湾など封

ビジネス

韓国クーパン、顧客情報大量流出で11.8億ドルの補

ワールド

尹前大統領の妻、金品見返りに国政介入 韓国特別検が
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:ISSUES 2026
特集:ISSUES 2026
2025年12月30日/2026年1月 6日号(12/23発売)

トランプの黄昏/中国AI/米なきアジア安全保障/核使用の現実味......世界の論点とキーパーソン

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    ウクライナ水中ドローンが、ロシア潜水艦を爆破...「史上初の攻撃成功」の裏に、戦略的な「事前攻撃」
  • 2
    マイナ保険証があれば「おくすり手帳は要らない」と考える人が知らない事実
  • 3
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 4
    【銘柄】子会社が起訴された東京エレクトロン...それ…
  • 5
    『SHOGUN 将軍』の成功は嬉しいが...岡田准一が目指…
  • 6
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」と…
  • 7
    海水魚も淡水魚も一緒に飼育でき、水交換も不要...ど…
  • 8
    「アニメである必要があった...」映画『この世界の片…
  • 9
    2026年、トランプは最大の政治的試練に直面する
  • 10
    なぜ筋肉を鍛えても速くならないのか?...スピードの…
  • 1
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」とは何か...血管の名医がたどり着いた長生きの共通点
  • 2
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 3
    ウクライナ水中ドローンが、ロシア潜水艦を爆破...「史上初の攻撃成功」の裏に、戦略的な「事前攻撃」
  • 4
    『SHOGUN 将軍』の成功は嬉しいが...岡田准一が目指…
  • 5
    中国、インドをWTOに提訴...一体なぜ?
  • 6
    「食べ方の新方式」老化を防ぐなら、食前にキャベツ…
  • 7
    海水魚も淡水魚も一緒に飼育でき、水交換も不要...ど…
  • 8
    【過労ルポ】70代の警備員も「日本の日常」...賃金低…
  • 9
    批評家たちが選ぶ「2025年最高の映画」TOP10...満足…
  • 10
    マイナ保険証があれば「おくすり手帳は要らない」と…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」とは何か...血管の名医がたどり着いた長生きの共通点
  • 3
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 4
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 5
    ウクライナ水中ドローンが、ロシア潜水艦を爆破...「…
  • 6
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした…
  • 7
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 8
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 9
    『SHOGUN 将軍』の成功は嬉しいが...岡田准一が目指…
  • 10
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入と…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中