最新記事

温暖化を加速させるホットハウス現象

アオコの異常発生で水道水が汚染される

Don’t Drink the Pond Scum

2018年9月21日(金)17時00分
エマ・ペンロッド

湖沼の水温上昇でアオコの発生が頻発。藻類の毒が水道水に混入する恐れがある HeikeKampe/iStock.

<今年オレゴン州ではじめて水道水から毒素を検出>

オレゴン州の湖で釣りやカヤックを楽しむ人たちは、水を緑色に染める「アオコ」を見たことがあるだろう。微細藻類の異常発生によるこの現象は、近年とみに頻発している。だがアオコの発生で水道水が飲めなくなる事態は、州当局も想定外だった。

デトロイト湖は州都セーレム近郊の貯水湖。ここに蓄えられた水は、ノースサンティアム川を経由してセーレムの上水道に利用される。

水道施設内でアオコが確認された数日後の今年5月31日、水道水から藻類が生む毒素が検出された。市当局は緊急警報を発令。6歳未満の子供や肝臓・腎臓障害の患者、妊婦、授乳中の母親、高齢者、ペットに水道水を飲ませないよう呼び掛けた。

オレゴン州で水道水から毒素が検出されたのはこれが初めてだ。「頭を殴られた思いだった。飲料水として利用する上水道に藻類の毒素が侵入するとは」と、オレゴン州公衆衛生局の広報担当ジョナサン・モディは言う。

データが不十分なため、温暖化に伴って有毒藻類の異常発生が増えているとは断言できない。だが水温が上がれば藻類の成長が促され異常発生が多発すること、それにより水質汚染の危険性が高まることは確かだ。

大半の藻類は無害だが、藍藻(らんそう、シアノバクテリア)の仲間の一部は強力な有毒物質をつくる。ヒトを含む大型哺乳類も摂取すれば死ぬことがある。

アメリカでは、上水道に利用される川や湖沼の90%以上がアオコの発生しやすい状態になっているとの報告もある。さらに気になるのは、藻類の毒素に関して明確な水質基準が設定されていないこと。米環境保護局(EPA)は今年初めて、試験的な基準を発表したばかりだ。

多数の死者が出た事例も

藻類の毒素を除去するにはオゾン消毒など特殊な処理が必要だが、水道施設の多くはまだそうした処理システムを導入していない。そのため水源が汚染されたら、住民に水道水の利用を控えてもらうしかなく、利用禁止が数週間に及ぶこともある。

今のところアメリカでは藻類の毒素による死者は出ていないが、いつ出てもおかしくない。毒素の1種ミクロシスチンは基準量を超えて摂取すれば、肝臓と腎臓の障害を引き起こす恐れがあると、オレゴン州公衆衛生局は警告する。ブラジルでは96年にミクロシスチンで汚染された貯水池の水を人工透析に使ったために、透析患者52人が死亡する事故が起きた。

カンザス州ノートン郡では今年6月、水源のセベリウス湖で神経毒のアナトキシンを産生する藻類の異常発生が確認され、大騒ぎになった。この毒素を摂取すると、筋肉が麻痺するなどして死に至ることがある。幸い水道水からは毒素は検出されなかったが、もしも汚染されていたら当局は頭を抱えただろう。

濾過装置では毒素は除去できない。シアノバクテリアは塩素などの消毒剤で殺せるが、バクテリアは死滅するときに毒素を大放出するため、かえって汚染がひどくなる場合がある。毒素は熱にも強いため、汚染された水は沸騰させても有毒だ。

毒素の除去は困難なため、多くの州はアオコの発生を減らそうと窒素やリンを多く含む農業排水などの流入を制限し、水源の富栄養化を防ごうとしている。

一方、オレゴン州では毒素を確実に除去しようと、各地で最新式の浄水施設の建設が進んでいる。毒素の除去は州内の水道施設の「ニューノーマルになったようだ」と、モディは言う。

<本誌2018年9月18日号「特集:温暖化を加速させるホットハウス現象」より転載>

ニューズウィーク日本版 日本人と参政党
※画像をクリックすると
アマゾンに飛びます

2025年10月21日号(10月15日発売)は「日本人と参政党」特集。怒れる日本が生んだ参政党現象の源泉にルポで迫る。[PLUS]神谷宗弊インタビュー

※バックナンバーが読み放題となる定期購読はこちら


今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

EUの「ドローンの壁」構想、欧州全域に拡大へ=関係

ビジネス

ロシアの石油輸出収入、9月も減少 無人機攻撃で処理

ワールド

イスラエル軍がガザで発砲、少なくとも6人死亡

ビジネス

日銀、ETFの売却開始へ信託銀を公募 11月に入札
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:中国EVと未来戦争
特集:中国EVと未来戦争
2025年10月14日号(10/ 7発売)

バッテリーやセンサーなど電気自動車の技術で今や世界をリードする中国が、戦争でもアメリカに勝つ日

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以外の「2つの隠れた要因」が代謝を狂わせていた
  • 2
    中国人が便利な「調理済み食品」を嫌うトホホな理由とは?
  • 3
    メーガン妃の動画が「無神経」すぎる...ダイアナ妃をめぐる大論争に発展
  • 4
    車道を一人「さまよう男児」、発見した運転手の「勇…
  • 5
    かばんの中身を見れば一発でわかる!「認知症になり…
  • 6
    フィリピンで相次ぐ大地震...日本ではあまり報道され…
  • 7
    筋肉が目覚める「6つの動作」とは?...スピードを制…
  • 8
    連立離脱の公明党が高市自民党に感じた「かつてない…
  • 9
    あなたの言葉遣い、「AI語」になっていませんか?...…
  • 10
    1歳の息子の様子が「何かおかしい...」 母親が動画を…
  • 1
    かばんの中身を見れば一発でわかる!「認知症になりやすい人」が持ち歩く5つのアイテム
  • 2
    悲しみで8年間「羽をむしり続けた」オウム...新たな飼い主との「イケイケなダンス」姿に涙と感動の声
  • 3
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以外の「2つの隠れた要因」が代謝を狂わせていた
  • 4
    【クイズ】日本人が唯一「受賞していない」ノーベル…
  • 5
    中国人が便利な「調理済み食品」を嫌うトホホな理由…
  • 6
    ロシア「影の船団」が動く──拿捕されたタンカーが示…
  • 7
    ベゾス妻 vs C・ロナウド婚約者、バチバチ「指輪対決…
  • 8
    時代に逆行するトランプのエネルギー政策が、アメリ…
  • 9
    ウクライナの英雄、ロシアの難敵──アゾフ旅団はなぜ…
  • 10
    トイレ練習中の2歳の娘が「被疑者」に...検察官の女…
  • 1
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影...目覚めた時の「信じがたい光景」に驚きの声
  • 2
    かばんの中身を見れば一発でわかる!「認知症になりやすい人」が持ち歩く5つのアイテム
  • 3
    「大谷翔平の唯一の欠点は...」ドジャース・ロバーツ監督が明かすプレーオフ戦略、監督の意外な「日本的な一面」とは?
  • 4
    カミラ王妃のキャサリン妃への「いら立ち」が話題に.…
  • 5
    増加する「子どもを外注」する親たち...ネオ・ネグレ…
  • 6
    悲しみで8年間「羽をむしり続けた」オウム...新たな…
  • 7
    バフェット指数が異常値──アメリカ株に「数世代で最…
  • 8
    「日本の高齢化率は世界2位」→ダントツの1位は超意外…
  • 9
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以…
  • 10
    数千円で買った中古PCが「宝箱」だった...起動して分…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中