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『新潮45』休刊の背景──貧すれば鈍する名門雑誌の最期

2018年9月28日(金)16時00分
古谷経衡(文筆家)

ふつう、固有の戦力の6割が灰燼に帰した場合、その部隊は全滅と判定される。言い換えれば『新潮45』は、ここ10年でその戦力の2/3近くを喪失したのだ。『新潮45』のここ10年の歩みはまさにこのような壮絶な「生きるか死ぬか」の瀬戸際にあったのだ。

注意して欲しいのは、これは印刷部数であって実売部数(実際に書店やネットで売れた数)ではないということだ。冒頭の報道のように該雑誌が実売1万部であるとすれば、この印刷部数に0.6の係数をかけなければならない。だから、実際の部数はもっと低落する。

このような中で、『新潮45』は、「たとえどんなことをやろうとも、たとえどんな手を使ってでも、一部でも多く売る」ことを至上命題にして、炎上覚悟、右傾化路線、ネット右翼迎合路線に突き進んでいった。

全滅寸前でも右傾雑誌になりきれず・・・

しかし前述の『二重構造』が災いして、徹頭徹尾右傾雑誌になることは出来ず、『正論』(産経新聞社)、『WILL』(WAC)、『HANADA』(飛鳥新社)の「自称保守雑誌三巨頭」の読者を根底で奪うところまではいかなかった、といのが私の読みである。

この中途半端な『二重構造』を持つ類似雑誌として、私が真っ先に念頭にあげるのはPHP研究所から出版されている月刊論壇誌『VOICE』である。こちらも前半は過激なネット右翼迎合の政権支持、嫌韓・嫌中、反メディアで構成されながら、後半は穏健な執筆陣による二重構造を持つ典型的な「後発右傾雑誌」である。

『VOICE』は1977年創刊。母体企業であるパナソニックの松下幸之助の意向を受け、穏健論壇誌としてスタートした。一方『新潮45』の創刊は1982年創刊。双方とも40年近くの歴史を持ち、高邁な理想からスタートした品格と気品ある雑誌であり、発行母体が大手出版社、と言う意味でも酷似している。では『新潮45』と『VOICE』の発行部数も比較してみよう。

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