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アジア大会で存在感アピールした「ジョコウィ」 現職の強みで2019年大統領選に臨む

2018年9月3日(月)20時57分
大塚智彦(PanAsiaNews)

現職の強みを発揮、反対派を封じ込め

アジア大会のあらゆる場面でジョコ・ウィドド大統領がマスコミに取り上げられるのは現職大統領としての立場からやむを得ないことであるが、2019年の大統領選を控えた身からすれば格好の自己PRの場でもあり、それは現職の強みといえる。

大統領選には対抗馬として野党グリンドラ党の最高顧問で1998年までの32年間長期独裁政権を担った「開発の父」と称されるスハルト元大統領の女婿、プラボウォ・スビアント氏が立候補している。

8月26日、ジャワ島東部スラバヤ市内で反大統領派の「ガンティ・プレジデント(大統領交代)」集会が治安当局により強制的に中止に追い込まれる事件が起きた。会場周辺で大統領支持派と反大統領派による小競り合いが起き、集会を開けば混乱に拍車がかかるとの警察の判断という。

大統領反対派が掲げる「ガンティ・プレジデント」は現職のジョコ・ウィドド大統領の交代を求めており、交代するのは大統領選に合法的に立候補している対抗馬のプラボウォ氏ということになる。つまり反大統領派とは実は「プラボウォ支持派」ということである。

「大統領交代」運動には著名な歌手や元女優も参加しているが、スラバヤでの集会に参加する予定だった歌手が滞在するホテルが大統領支持派に取り囲まれたり、スマトラ島リアウ州での同派集会に参加しようとした元女優が、到着したリアウ空港で大統領支持派に追い返されたりする事案も起きている。

さらにこの元女優がリアウ空港からジャカルタ空港に戻る時に搭乗機の機内マイクを使用したことが問題となった。元女優は「私のせいで出発が遅れたお詫びを他の乗客に言いたかっただけ」としているが、航空当局、治安当局は「機内マイクの私的利用は航空法違反の疑いがある」と調査に乗り出している。

このように反大統領派つまりプラボウォ氏支持派には硬軟両用で治安当局による「介入」や「中止」が起きる事態が続いており、今後選挙運動が本格化するにつれてさらにこうした事案は激化するものとみられている。

大統領選のライバル二人が抱擁!?


大統領選のライバルであるウィドド大統領、プラボウォ氏が、インドネシア国旗を挟んで抱擁したかのような映像  Liputan6.com / YouTube

開会式に次ぐアジア大会中のジョコ・ウィドド大統領に関する最も大きなニュースと言えば、8月29日にジャヤカルタ南郊タマンミニにある競技会場で行われていたインドネシアの伝統武術「プンチャックシラット」の決勝戦観戦だった。

独立の父スカルノ大統領の娘でもあるメガワティ元大統領、ユスフ・カラ副大統領と一緒にジョコ・ウィドド大統領が観戦に現れ、会場内は歓声に包まれた。大統領を出迎え、VIP席で隣に座ったのがライバル候補のプラボウォ氏で、インドネシア・プンチャックシラット協会会長という立場での同席だった。

クラスC男子の部決勝でインドネシアのハニファ・クスマ選手は勝利すると国旗を掲げてVIP席に駆け上がり、ジョコ・ウィドド大統領、プラボウォ会長らと個別に握手し、抱擁。その後クスマ選手は左に大統領、右に会長をそれぞれ抱く形で3人が抱擁した。これが写真撮影の角度の関係でクスマ選手が国旗に隠れて大統領候補2人が抱き合うように見えたことから、翌日の新聞、テレビは「対立候補の関係にある2人が熱く抱擁」と大きく報道したのだった。

プラボウォ氏にすればほとんど唯一アジア大会関連で大きく報道された自身に関するニュースの瞬間だった。ジョコ・ウィドド大統領と国旗を挟んで抱き合う姿は「選挙は選挙、団結する時は団結、インドネシアは一つ」という印象を与え、大きなインパクトを与えた。

大会期間中約4万人の国軍兵士、警察官を配備してテロ対策や路上犯罪などの治安維持にあたった結果、大きな事件も混乱もなく大会は閉幕を迎え、アジア大会は成功裡に終了したと言えそうだ。これは国を挙げて大会準備、運営を進めてきたジョコ・ウィドド大統領とその政府による大きな成果であるとともに、選手団の「予想外のうれしい活躍」で国家としての団結心、愛国心を高揚することができた。

ジョコ・ウィドド大統領にしてみれば、アジア大会を通じてその存在感を最大限に高めることに成功し、この勢いで9月からの選挙戦に突入することの効果は計り知れなく大きいと言えるだろう。


otsuka-profile.jpg[執筆者]
大塚智彦(ジャーナリスト)
PanAsiaNews所属 1957年東京生まれ。国学院大学文学部史学科卒、米ジョージワシントン大学大学院宗教学科中退。1984年毎日新聞社入社、長野支局、東京外信部防衛庁担当などを経てジャカルタ支局長。2000年産経新聞社入社、シンガポール支局長、社会部防衛省担当などを歴任。2014年からPan Asia News所属のフリーランス記者として東南アジアをフィールドに取材活動を続ける。著書に「アジアの中の自衛隊」(東洋経済新報社)、「民主国家への道、ジャカルタ報道2000日」(小学館)など

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