最新記事

ベネズエラ

ベネズエラで止まらない危機の連鎖──首都カラカスの断水で病院の手術ができない

Venezuela’s Capital Is Running Out of Water

2018年8月16日(木)15時40分
デービッド・ブレナン

首都カラカスの病院には「水はありません」の張り紙が Marco Bello-REUTERS

<ドローン爆発による暗殺をまぬがれたマドゥロ大統領は「米政府の支援を受けた」反政府勢力にすべての責任をなすりつけるが>

ハイパーインフレ、不足する医療物資、スーパーの棚は空っぽ――国民の苦難が続くベネズエラの首都カラカスで、水不足がさらに追い討ちをかけている。

ロイター通信によると、医療器具が洗えない病院では手術を延期せざるを得ない、と伝えた。

断続的に水が出ることはあるが、しょっちゅう汚い水が出る。ただでさえワクチンや抗生物質が不足し、十分な医療が提供できないのが現状で、病院はリスクを承知で汚れた水を使うしかない。

ベネズエラ中央大学病院では、手術待ちの患者が増える一方だ。「手術の前に手を洗う必要があるが、蛇口を開けても水が一滴も出てこない」と、婦人科医のリナ・フィグエリアは嘆く。

5年前から経済危機に苦しむベネズエラ。2015年の原油価格の大暴落で、事態はさらに悪化した。財政破綻寸前に追い込まれた政府は紙幣を大増刷。この対応がハイパーインフレを招き、通貨ボリバルは紙屑同然になった。

300万人のカラカス市民は、日常的な断水に直面している。カラカスは海抜900メートルの盆地に位置し、低地にある水源からポンプで水を汲み上げているが、予算不足でポンプや配管のメンテナンスができなくなっている。

「長年にわたって設備の老朽化が気付かないうちに進んでいた。今や水の供給システム全体が手の施しようがないほど劣化している」と言うのは、カラカスの上水道を運営している国営の水道会社ヒドロカピタルのホセ・デビアナ元社長だ。

100万%の超インフレ

ベネズエラのNGOの調査によると、カラカス市民のざっと75%は恒常的な水の供給を受けられていない、水の汚染による皮膚炎や胃腸障害を訴える人は約11%にのぼるという。

ホルヘ・ロドリゲス通信情報相は今年7月、水危機の解消を目指す「特別計画」があると発表したが、詳細は明らかにしなかった。ニコラス・マドゥロ大統領率いる現政権は、政権打倒を企む右派テロリストが首都の上水道施設を破壊していると主張。そればかりか大統領とその取り巻きは、米政府の支援を受けた国内の反政府勢力が「経済戦争」を仕掛け、ベネズエラ経済の危機を拡大しようとしていると国民に説明している。

現実には通貨価値の大暴落で輸入がストップし、食料や医薬品、さらには石油大国にもかかわらず燃料まで不足。IMF(国際通貨基金)が7月に発表した予測によると、2018年末までにインフレ率は100万%に達し、「深刻な経済・社会危機」が続く可能性があるという。政府はもはや公式データを発表していないため、正確なインフレ率は算出しにくい。

食料確保も困難な状況で、ベネズエラからコロンビアなど周辺国に脱出する難民は増加の一途をたどる。国連によると、ベネズエラ難民はすでに230万人に上り、引き続き1日に5000人前後が国境を越えていると見られている。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

中国万科の社債権者、返済猶予延長承認し不履行回避 

ビジネス

ロシアの対中ガス輸出、今年は25%増 欧州市場の穴

ビジネス

ECB、必要なら再び行動の用意=スロバキア中銀総裁

ワールド

ロシア、ウクライナ全土掌握の野心否定 米情報機関の
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:教養としてのBL入門
特集:教養としてのBL入門
2025年12月23日号(12/16発売)

実写ドラマのヒットで高まるBL(ボーイズラブ)人気。長きにわたるその歴史と深い背景をひもとく

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「食べ方の新方式」老化を防ぐなら、食前にキャベツよりコンビニで買えるコレ
  • 2
    【過労ルポ】70代の警備員も「日本の日常」...賃金低く、健康不安もあるのに働く高齢者たち
  • 3
    待望の『アバター』3作目は良作?駄作?...人気シリーズが直面した「思いがけない批判」とは?
  • 4
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦…
  • 5
    週に一度のブリッジで腰痛を回避できる...椎間板を蘇…
  • 6
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出…
  • 7
    【外国人材戦略】入国者の3分の2に帰国してもらい、…
  • 8
    懲役10年も覚悟?「中国BL」の裏にある「検閲との戦…
  • 9
    米空軍、嘉手納基地からロシア極東と朝鮮半島に特殊…
  • 10
    「信じられない...」何年間もネグレクトされ、「異様…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入ともに拡大する「持続可能な」貿易促進へ
  • 4
    「食べ方の新方式」老化を防ぐなら、食前にキャベツ…
  • 5
    【実話】学校の管理教育を批判し、生徒のため校則を…
  • 6
    「最低だ」「ひど過ぎる」...マクドナルドが公開した…
  • 7
    ミトコンドリア刷新で細胞が若返る可能性...老化関連…
  • 8
    自国で好き勝手していた「元独裁者」の哀れすぎる末…
  • 9
    【過労ルポ】70代の警備員も「日本の日常」...賃金低…
  • 10
    空中でバラバラに...ロシア軍の大型輸送機「An-22」…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした「信じられない」光景、海外で大きな話題に
  • 4
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 5
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 6
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入と…
  • 7
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで…
  • 8
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出…
  • 9
    健康長寿の鍵は「慢性炎症」にある...「免疫の掃除」…
  • 10
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中