最新記事

フィリピン

ランボルギーニなど高級車をペチャンコに! ドゥテルテ大統領、密輸対策で驚愕のショー

2018年8月11日(土)19時00分
大塚智彦(PanAsiaNews)


麻薬撲滅に次いで密輸撲滅もフィリピンの重要課題のひとつだ。 RTVMalacanang / YouTube

競売方式から破壊に転換

フィリピン政府は昨年まで押収した高級車やオートバイなどは少しでも財政に寄与するとの方針で競売(オークション)にかけてその売り上げを国庫に入れていた。

しかし高級車を競り落とす業者や個人の中には、犯罪組織幹部や麻薬に関係する富裕層が含まれていることがあるため、オークションという処分方法に疑問の声が出ていた。

このためドゥテルテ大統領は2018年から高級車のオークションを取り止めて、ブルドーザーなどで破壊する方針に切り替えた。

「密輸入車といういわば犯罪に関わった高級車をオークションという形とはいえ売却してその利益を得ることは、犯罪から利益を得ることにもなる」としてドゥテルテ大統領は「破壊方針」を打ち出した。

麻薬対策と汚職撲滅が最大の政権課題

ドゥテルテ大統領は大統領在任中の大きな課題として麻薬対策と同時に汚職、特に公務員の汚職の撲滅を掲げており、密輸高級車などの密輸取り締まりはその一つの柱となっている。

これまでは密輸品は税関当局や港湾関係者に賄賂を支払うことで見逃してもらうケースが多く、高級車と並んで麻薬や武器、弾薬、保護動植物、偽ブランド品などもフィリピンに不法に流入していたといわれている。そして公務員が収賄することで汚職が蔓延し、有効な法執行が難しいケースがあった。

ドゥテルテ大統領はこうした悪弊に終止符を打つべく、麻薬対策では超法規的殺人と国際社会から指弾されている強硬策での対応を指示。これまでに数千人が麻薬関連容疑者として射殺されたといわれている。

こうした「殺される可能性が高い」強硬策の影響でこれまでに密売人や麻薬常習者130万人が自首し、21万5000人がリハビリ施設で更生の道を歩んでいるという。

公務員の汚職に関しては2018年3月に国際NGO「トランスペアレンシー・インターナショナル」が発表した世界180カ国の汚職度腐敗度を示す順位で、フィリピンは東南アジア10カ国の中で7位(全体の111位)と下位に位置付けられ、依然として汚職、腐敗が蔓延していることが国際的に認知されている。(フィリピンより汚職度腐敗度が酷いのは東南アジアではカンボジア、ミャンマー、ラオスの3カ国だけ)。

2016年6月30日の大統領就任から、その歯に衣着せぬ発言や不規則発言などで一時は「フィリピンのトランプ」などと酷評されていたドゥテルテ大統領。確かにその発言が物議を醸すことも多いが、麻薬対策や汚職撲滅では方法・手段には賛否があるものの、確実に成果を目に見える形で残しており、それが依然として各種世論調査で80%近い国民の支持を獲得する一因となっている。

今回の密輸高級車のブルドーザーによる破壊というパフォーマンスは、日々の生活に必死の国民の目には「よくぞやったり」と溜飲を下げるものになっており、ドゥテルテ大統領の思惑通りの展開となっており、ドゥテルテ人気はさらに高まっているという。


otsuka-profile.jpg[執筆者]
大塚智彦(ジャーナリスト)
PanAsiaNews所属 1957年東京生まれ。国学院大学文学部史学科卒、米ジョージワシントン大学大学院宗教学科中退。1984年毎日新聞社入社、長野支局、東京外信部防衛庁担当などを経てジャカルタ支局長。2000年産経新聞社入社、シンガポール支局長、社会部防衛省担当などを歴任。2014年からPan Asia News所属のフリーランス記者として東南アジアをフィールドに取材活動を続ける。著書に「アジアの中の自衛隊」(東洋経済新報社)、「民主国家への道、ジャカルタ報道2000日」(小学館)など

ニューズウィーク日本版 トランプvsイラン
※画像をクリックすると
アマゾンに飛びます

2025年7月8日号(7月1日発売)は「トランプvsイラン」特集。「平和主義者」の大統領がなぜ? イラン核施設への攻撃で中東と世界はこう変わる

※バックナンバーが読み放題となる定期購読はこちら


今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

イスラエル首相、来週訪米 トランプ氏や高官と会談へ

ビジネス

1.20ドルまでのユーロ高見過ごせる、それ以上は複

ビジネス

関税とユーロ高、「10%」が輸出への影響の目安=ラ

ビジネス

アングル:アフリカに賭ける中国自動車メーカー、欧米
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:トランプvsイラン
特集:トランプvsイラン
2025年7月 8日号(7/ 1発売)

「平和主義者」のはずの大統領がなぜ? 核施設への電撃攻撃で中東と世界はこう変わる

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    ワニに襲われた男性の「最期の姿」...捜索隊が捉えた発見の瞬間とは
  • 2
    普通に頼んだのに...マクドナルドから渡された「とんでもないモノ」に仰天
  • 3
    ワニに襲われ女性が死亡...カヌー転覆後に水中へ引きずり込まれる
  • 4
    仕事ができる人の話の聞き方。3位は「メモをとる」。…
  • 5
    砂浜で見かけても、絶対に触らないで! 覚えておくべ…
  • 6
    突然ワニに襲われ、水中へ...男性が突いた「ワニの急…
  • 7
    「パイロットとCAが...」暴露動画が示した「機内での…
  • 8
    燃え盛るロシアの「黒海艦隊」...ウクライナの攻撃で…
  • 9
    イランを奇襲した米B2ステルス機の謎...搭乗した専門…
  • 10
    飛行機のトイレに入った女性に、乗客みんなが「一斉…
  • 1
    「コーヒーを吹き出すかと...」ディズニーランドの朝食が「高額すぎる」とSNSで大炎上、その「衝撃の値段」とは?
  • 2
    燃え盛るロシアの「黒海艦隊」...ウクライナの攻撃で大爆発「沈みゆく姿」を捉えた映像が話題に
  • 3
    イランを奇襲した米B2ステルス機の謎...搭乗した専門家が語る戦略爆撃機の「内側」と「実力」
  • 4
    ワニに襲われた男性の「最期の姿」...捜索隊が捉えた…
  • 5
    「小麦はもう利益を生まない」アメリカで農家が次々…
  • 6
    定年後に「やらなくていいこと」5選──お金・人間関係…
  • 7
    突然ワニに襲われ、水中へ...男性が突いた「ワニの急…
  • 8
    夜道を「ニワトリが歩いている?」近付いて撮影して…
  • 9
    仕事ができる人の話の聞き方。3位は「メモをとる」。…
  • 10
    サブリナ・カーペンター、扇情的な衣装で「男性に奉…
  • 1
    日本の「プラごみ」で揚げる豆腐が、重大な健康被害と環境汚染を引き起こしている
  • 2
    「コーヒーを吹き出すかと...」ディズニーランドの朝食が「高額すぎる」とSNSで大炎上、その「衝撃の値段」とは?
  • 3
    「あまりに愚か...」国立公園で注意を無視して「予測不能な大型動物」に近づく幼児連れ 「ショッキング」と映像が話題に
  • 4
    一瞬にして村全体が消えた...スイスのビルヒ氷河崩壊…
  • 5
    妊娠8カ月の女性を襲ったワニ...妊婦が消えた川辺の…
  • 6
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の…
  • 7
    10歳少女がサメに襲われ、手をほぼ食いちぎられる事…
  • 8
    JA・卸売業者が黒幕説は「完全な誤解」...進次郎の「…
  • 9
    「ママ...!」2カ月ぶりの再会に駆け寄る13歳ラブラ…
  • 10
    気温40℃、空港の「暑さ」も原因に?...元パイロット…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中