最新記事

国際政治

東南アジアの独裁者たちをトランプが暴走させている証拠

Dictator Envy

2018年8月10日(金)17時00分
レノックス・サミュエルズ

オバマと違って、トランプは会談中にドゥテルテが報道陣をスパイ呼ばわりするとクスクス笑う始末。だが、これは笑いごとではない。米NGO「ジャーナリスト保護委員会」によると、フィリピンでは86年以降、少なくとも177人の報道関係者が殺されている。ドゥテルテも「くそったれ」のジャーナリストなら「殺したっていい」と言い放った。

ドゥテルテは昨年2月、麻薬戦争批判の急先鋒であるレイラ・デリマ上院議員を麻薬密売の容疑で逮捕させた。フィリピンの警察は、米麻薬取締局(DEA)がデリマを麻薬密売組織の頭目と特定したと主張している。今も収監されているデリマは米大使館に無実を訴える嘆願書を送ったが、「いまだに公式な返事はない」と、本誌に語った。「米政府は私の状況など気にも留めていないようだ」

カンボジアのフン・セン首相は85年の就任以来、徐々に独裁色を強めてきた。昨年は独立系英字紙カンボジア・デイリーを閉鎖に追い込こみ、今年5月には独立系英字紙のプノンペン・ポストも自分の息がかかった人物に買収させた。国際人権擁護団体アムネスティ・インターナショナルは「カンボジアの報道の自由が失われた」と嘆いた。

フン・センが次に取り掛かったのは野党つぶしだ。カンボジアの最高裁判所は昨年11月、外国の勢力と共謀して国家転覆を企てたとして、最大野党のカンボジア救国党に解散を命じた。7月末に実施される総選挙では、フン・セン率いる与党カンボジア人民党が圧勝する見通しだ。

フン・センはトランプの就任前から弾圧を行っていた。しかしトランプがFBIは自分の陣営にスパイを送り込んだとか、ロバート・ムラー特別検察官率いるロシア疑惑の捜査は「魔女狩り」だなどと、根拠のない発言を重ねたため、フン・センの暴走に拍車が掛かったと、カーナバスはみる。「トランプがアメリカの選挙で不正があったと主張しているのに、米政府はカンボジアの選挙プロセスを批判できるだろうか」

実際、フン・センはトランプの言動に注目し、トランプ流に学んでいるようだ。トランプが政権に批判的なメディアに「フェイクニュース賞」を贈ると発言すると、フン・センはすぐさまよいアイデアだとたたえた。

【参考記事】独裁国家カンボジア「もう援助いらない」の背後にあの独裁国家

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

米大統領、対中関税10%下げ表明 レアアース輸出継

ワールド

スペインGDP、第3四半期は前期比0.6%増 9四

ワールド

米中首脳会談、エヌビディア「ブラックウェル」協議せ

ビジネス

FRB、12月は金利据え置き見通し 0.25%利下
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:高市早苗研究
特集:高市早苗研究
2025年11月 4日/2025年11月11日号(10/28発売)

課題だらけの日本の政治・経済・外交を初の女性首相はこう変える

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 3
    女性の後を毎晩つけてくるストーカー...1週間後、雨の夜の急展開に涙
  • 4
    【ウクライナ】要衝ポクロウシクの攻防戦が最終局面…
  • 5
    コレがなければ「進次郎が首相」?...高市早苗を総理…
  • 6
    【話題の写真】自宅の天井に突如現れた「奇妙な塊」…
  • 7
    【クイズ】開館が近づく「大エジプト博物館」...総工…
  • 8
    【クイズ】1位は「蚊」...世界で「2番目に」人間を殺…
  • 9
    リチウムイオンバッテリー火災で国家クラウドが炎上─…
  • 10
    【クイズ】12名が死亡...世界で「最も死者数が多い」…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 3
    中国レアアース輸出規制強化...代替調達先に浮上した国は?
  • 4
    【話題の写真】自宅の天井に突如現れた「奇妙な塊」…
  • 5
    超大物俳優、地下鉄移動も「完璧な溶け込み具合」...…
  • 6
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」は…
  • 7
    熊本、東京、千葉...で相次ぐ懸念 「土地の買収=水…
  • 8
    【クイズ】1位は「蚊」...世界で「2番目に」人間を殺…
  • 9
    庭掃除の直後の「信じられない光景」に、家主は大シ…
  • 10
    報じられなかった中国人の「美談」
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 3
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 4
    かばんの中身を見れば一発でわかる!「認知症になり…
  • 5
    「大谷翔平の唯一の欠点は...」ドジャース・ロバーツ…
  • 6
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号…
  • 7
    増加する「子どもを外注」する親たち...ネオ・ネグレ…
  • 8
    悲しみで8年間「羽をむしり続けた」オウム...新たな…
  • 9
    バフェット指数が異常値──アメリカ株に「数世代で最…
  • 10
    「日本の高齢化率は世界2位」→ダントツの1位は超意外…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中