最新記事

カンボジア

独裁国家カンボジア「もう援助いらない」の背後にあの独裁国家

2018年8月9日(木)16時20分
フィリップ・ハイマンス

フン・セン首相が中国から得た資金援助の恩恵は庶民に届いていない PRING SAMRANG-REUTERS

<野党やメディアを弾圧するフン・セン首相が総選挙で圧勝したが、本当の勝者は中国だ>

7月29日にカンボジアで行われた下院総選挙は、与党・カンボジア人民党(CPP)がほぼ全ての議席を獲得する圧勝に終わった。30年以上にわたって実権を握ってきたフン・セン首相の独裁体制が、さらに5年続くことになる。

フン・セン陣営の勝利はシナリオどおりだ。彼らは選挙前に最大野党のカンボジア救国党(CNRP)を解党に追い込んだばかりか、巨大な経済力を持つ中国から全面的な支援を受けているのだから。

カンボジアはフン・セン体制下で中国から巨額の投資を受け、世界有数の急速な経済発展を遂げてきた。中国はカンボジアの最大の貿易相手国で、2017年の両国間の貿易は前年比22%増の58億ドルに達した。

中国との関係が深まるにつれて、フン・センは西側諸国に対して「もう資金援助は必要ない」と露骨に伝えるようになったと、人権団体グローバル・ウィットネスのアリス・ハリソンは指摘する。「中国から莫大な資金を得て、フン・センはカンボジア経済が安全な水準に達したと感じている」

ただし、その恩恵は一般庶民にはほとんど届いていない。ダムや道路などのインフラ工事を請け負った中国企業は、現地のカンボジア人ではなく自前で連れてきた労働者を使う。国民の家計債務は過去最高の30億ドル規模に達している。

欧米は選挙協力を停止

南シナ海における中国とASEAN諸国の領有権争いでも、フン・センはASEAN諸国と一線を画し、中国を公然と支持している。

それも当然だろう。カンボジアでは内戦終結後の1993年、国連の指導下で初の民主選挙が行われた。だがそれ以前から現在に至るまで首相の座に座り続けるフン・センは、国連が目指した民主主義から離れて独裁体制にシフト。権力の一極集中が進むなか、中国からの投資も増え続けてきた。

独裁が加速した引き金は、13年の総選挙で野党のCNRPが躍進し、選挙の不正を訴える暴力的なデモが吹き荒れたことだった。フン・センは政権に批判的なメディアを次々に閉鎖。昨年にはCNRPのケム・ソカ党首を国家反逆罪で投獄し、CNRPを解体に追い込んだ。残った野党指導者らは国外脱出を余儀なくされた。

こうした弾圧を非難するEUは、武器以外の全ての品目を関税なしでEUに輸出できる優遇措置の見直しを示唆。アメリカもEUと共に、7月の総選挙向けの資金支援を停止した。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

トランプ氏「大規模」関税続くとインドに警告、ロ産原

ビジネス

KKRなど、従業員との成果共有を加速 支援団体が日

ビジネス

中国新築住宅価格、9月は11カ月ぶり大幅下落 前月

ワールド

自民・維新が20日午後6時に連立政権成立で合意へ、
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:日本人と参政党
特集:日本人と参政党
2025年10月21日号(10/15発売)

怒れる日本が生んだ「日本人ファースト」と参政党現象。その源泉にルポと神谷代表インタビューで迫る

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号返上を表明」も消えない生々しすぎる「罪状」
  • 2
    【クイズ】日本でツキノワグマの出没件数が「最も多い県」はどこ?
  • 3
    本当は「不健康な朝食」だった...専門家が警告する「実は避けるべき」一品とは?
  • 4
    ニッポン停滞の証か...トヨタの賭ける「未来」が関心…
  • 5
    今年、記録的な数の「中国の飲食店」が進出した国
  • 6
    ギザギザした「不思議な形の耳」をした男性...「みん…
  • 7
    自重筋トレの王者「マッスルアップ」とは?...瞬発力…
  • 8
    「認知のゆがみ」とは何なのか...あなたはどのタイプ…
  • 9
    「中国は危険」から「中国かっこいい」へ──ベトナム…
  • 10
    【インタビュー】参政党・神谷代表が「必ず起こる」…
  • 1
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号返上を表明」も消えない生々しすぎる「罪状」
  • 2
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以外の「2つの隠れた要因」が代謝を狂わせていた
  • 3
    【クイズ】日本でツキノワグマの出没件数が「最も多い県」はどこ?
  • 4
    まるで『トップガン』...わずか10mの至近戦、東シナ…
  • 5
    フィリピンで相次ぐ大地震...日本ではあまり報道され…
  • 6
    中国人が便利な「調理済み食品」を嫌うトホホな理由…
  • 7
    日本で外国人から生まれた子どもが過去最多に──人口…
  • 8
    「心の知能指数(EQ)」とは何か...「EQが高い人」に…
  • 9
    本当は「不健康な朝食」だった...専門家が警告する「…
  • 10
    「欧州最大の企業」がデンマークで生まれたワケ...奇…
  • 1
    かばんの中身を見れば一発でわかる!「認知症になりやすい人」が持ち歩く5つのアイテム
  • 2
    「大谷翔平の唯一の欠点は...」ドジャース・ロバーツ監督が明かすプレーオフ戦略、監督の意外な「日本的な一面」とは?
  • 3
    カミラ王妃のキャサリン妃への「いら立ち」が話題に...「少々、お控えくださって?」
  • 4
    増加する「子どもを外注」する親たち...ネオ・ネグレ…
  • 5
    悲しみで8年間「羽をむしり続けた」オウム...新たな…
  • 6
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号…
  • 7
    バフェット指数が異常値──アメリカ株に「数世代で最…
  • 8
    「日本の高齢化率は世界2位」→ダントツの1位は超意外…
  • 9
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以…
  • 10
    【クイズ】日本人が唯一「受賞していない」ノーベル…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中