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東南アジアの独裁者たちをトランプが暴走させている証拠

Dictator Envy

2018年8月10日(金)17時00分
レノックス・サミュエルズ

トランプ節の大合唱

タイのプラユット首相はクーデター後何度も総選挙の実施を先送りしてきた。今は来年2〜5月に実施すると言っているが、この約束も守られる保証はない。昨年10月の訪米時には、プラユットのほうからトランプに民政移管のために選挙を行うと持ち掛けたが、トランプはその問題には関心を示さず、投資と貿易の話をしたがったという。

トランプは意図的に独裁者をあおっているのではなく、米政府が伝統的に重視してきた民主主義と人権をないがしろにすることで、彼らを増長させる結果になっているとの見方もある。「意図的な戦略や政策ではない」と語るのは、オーストラリアのマッコーリー大学のベーツ・ギル教授(専門はアジア太平洋安全保障研究)だ。「トランプの不作為により、悪かった状況がさらに悪化している」

マレーシアのナジブ前首相は昨年の訪米時、政府系ファンドの資金流用疑惑で米司法省の捜査対象になっていた。だがトランプはその問題には触れず、マレーシアがアメリカのインフラ整備事業に多額の投資をすることに感謝した。

汚職疑惑で有権者の信任を失ったナジブは今年5月の総選挙で敗れ、政権の座を追われた。選挙戦中、野党がこの問題を取り上げると、ナジブは「フェイクニュースだ」と叫んで批判を抑え込んだ。さらにはフェイクニュースの発信者に最高6年の役を科す法律までつくった。

タイの首都バンコク在住の元米外交官は匿名を条件に、トランプはアジアの独裁者の「悪いお手本」になっていると指摘した。「今や彼らはこぞってトランプ節をまねている」

[2018年8月14日&21日号掲載]

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