最新記事

銃社会

3Dプリンター銃の「設計図」は公開前から1000回以上ダウンロードされていた

3-D Printed Gun Plans Blocked in Pennsylvania

2018年8月1日(水)16時25分
ジェームズ・ヘザーリントン

いったん世に出れば追跡は不可能なことから「ゴースト・ガン」と呼ばれる3D銃 mailfor/iStock.

<3Dプリンターがあれば誰でも作れる「3D銃」の製造方法が漏れた。それも銃乱射によく使われる「AK-15」の作り方。製造番号なし、購入者の記録なし、金属探知機にもかからないこの銃、止められるのか?>

アメリカで、3Dプリンターがあれば誰でも銃を作れるデータが公開直前になって大きな抵抗に遭っている。ペンシルベニア州では7月29日、3D銃の製造方法を公開しようとしていたウェブサイトに対し、公開の一時差し止めを命じた。同州のジョシュ・シャピロ州司法長官の要請を受けた判断だ。

また6月に公開を認めたドナルド・トランプ米大統領も、公開予定日前日になって「(公開は)理にかなわないようだ」とツイートした。

問題の公開主体は非営利団体「ディフェンス・ディストリビューテッド(DD)」で、銃の製造方法を8月1日に公開する予定だった。だが、ペンシルベニア州司法長官のニュースリリースによると、実際にはこの期日前から情報が漏れており、一時差し止め命令が出た段階ではすでに1000回以上ダウンロードされていたという。

DDが製造方法を公開する予定だった銃は短銃やライフルなど10数種類あるが、情報が漏れたのは、アメリカで繰り返し銃乱射事件で用いられてきた攻撃用ライフル「AR-15」のデータだった。

シャピロは3D銃の情報について、「ペンシルベニア州の住民に、即時かつ不可逆的な悪影響を与える」と懸念を表明した。「(銃の製造方法の公開は)、銃の販売および購入に関する州法を無視した無謀な行為だ」

「製造番号もなく追跡不能なこれらの銃が、ひとたび我々の住む街や学校に出回れば、回収は不可能だ。今日この州では3D銃のファイルをダウンロードをできなくする法的措置をとった。公共の安全と常識の勝利だ」と、シャピロは言った。

DLには身元証明も不要

DDのサイトを利用するにはユーザー登録が必要だが、求められる情報はユーザー名、パスワード、メールアドレスの3つだけ。銃の設計図のダウンロードサービスの利用料は1カ月で5ドル、無期限のアクセスには1000ドルを払う。シャピロによると、同サイトでは年齢を証明するものや、有効な銃所持許可証、銃の携行許可番号などの提示は求められない。

DDの弁護士ジョシュ・ブラックマンはCNNに対し、AR-15の設計図が1000回以上ダウンロードされたことを認めた。それが29日以前のことかどうかについては明言を避けた。「これは銃の問題ではなく、言論の自由の問題だ」と、ブラックマンは言う。

3D銃や自作の武器には製造番号がなく追跡できないことから、「ゴースト・ガン(幽霊銃)」と呼ばれる。プラスチック製なので金属探知機に探知されにくい。

DDを創設したコーディー・ウィルソンは、2013年にも3D銃「ザ・リベレーター(解放者)」の製造方法をネットで公開したことがある人物だ。CNNによると、米国務省は当時ウィルソンに対し、武器国際取引に関する規則(ITAR)に違反するとしてデータの削除を命じている。

(翻訳:ガリレオ)

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

米首都で34年ぶり軍事パレード、トランプ氏誕生日 

ワールド

再送-米ロ首脳、イスラエル・イラン情勢で電話会談 

ワールド

イスラエル、イランガス田にも攻撃 応酬続く 米・イ

ワールド

アングル:「暑さは人を殺す」、エネルギー補助削減で
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:非婚化する世界
特集:非婚化する世界
2025年6月17日号(6/10発売)

非婚化・少子化の波がアメリカもヨーロッパも襲う。世界の経済や社会福祉、医療はどうなる?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    ブラッド・ピット新髪型を「かわいい」「史上最高にかっこいい」とネット絶賛 どんなヘアスタイルに?
  • 2
    右肩の痛みが告げた「ステージ4」からの生還...「生きる力」が生んだ「現代医学の奇跡」とは?
  • 3
    「サイドミラー1つ作れない」レアアース危機・第3波でパニック...中国の輸出規制が直撃する「グローバル自動車産業」
  • 4
    林原めぐみのブログが「排外主義」と言われてしまう…
  • 5
    サイコパスの顔ほど「魅力的に見える」?...騙されず…
  • 6
    構想40年「コッポラの暴走」と話題沸騰...映画『メガ…
  • 7
    逃げて!背後に写り込む「捕食者の目」...可愛いウサ…
  • 8
    「結婚は人生の終着点」...欧米にも広がる非婚化の波…
  • 9
    メーガン妃の「下品なダンス」炎上で「王室イメージ…
  • 10
    4年間SNSをやめて気づいた「心を失う人」と「回復で…
  • 1
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の瞬間...「信じられない行動」にネット驚愕
  • 2
    大阪万博は特に外国人の評判が最悪...「デジタル化未満」の残念ジャパンの見本市だ
  • 3
    「セレブのショーはもう終わり」...環境活動家グレタらが乗ったガザ支援船をイスラエルが拿捕
  • 4
    「ママ...!」2カ月ぶりの再会に駆け寄る13歳ラブラ…
  • 5
    ふわふわの「白カビ」に覆われたイチゴを食べても、…
  • 6
    「サイドミラー1つ作れない」レアアース危機・第3波で…
  • 7
    ブラッド・ピット新髪型を「かわいい」「史上最高に…
  • 8
    脳も体も若返る! 医師が教える「老後を元気に生きる…
  • 9
    ファスティングをすると、なぜ空腹を感じなくなるの…
  • 10
    アメリカは革命前夜の臨界状態、余剰になった高学歴…
  • 1
    【定年後の仕事】65歳以上の平均年収ランキング、ワースト2位は清掃員、ではワースト1位は?
  • 2
    日本の「プラごみ」で揚げる豆腐が、重大な健康被害と環境汚染を引き起こしている
  • 3
    日本はもう「ゼロパンダ」でいいんじゃない? 和歌山、上野...中国返還のその先
  • 4
    一瞬にして村全体が消えた...スイスのビルヒ氷河崩壊…
  • 5
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の…
  • 6
    大爆発で一瞬にして建物が粉々に...ウクライナ軍「Mi…
  • 7
    「ママ...!」2カ月ぶりの再会に駆け寄る13歳ラブラ…
  • 8
    あなたも当てはまる? 顔に表れるサイコパス・ナルシ…
  • 9
    ドローン百機を一度に発射できる中国の世界初「ドロ…
  • 10
    【クイズ】EVの電池にも使われる「コバルト」...世界…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中