最新記事

事件

29年前の「女子高校生コンクリート詰め殺人事件」の容疑者が再犯 少年法見直しの議論は海外にも 

2018年8月27日(月)15時00分
内村コースケ(フォトジャーナリスト)

一方、死刑制度復活の努力は、現在もドゥテルテ政権の最優先事項として継続中だ。法案は既に下院を通過し、今は上院の審議を待つ状態。ドゥテルテ大統領のスポークスマンは今月始め、フィリピン政府は「引き続き緩やかに前進を目指す」と表明した。同国の死刑制度は、アロヨ大統領時代の2006年に廃止されたが、犯罪(特に麻薬犯罪)の撲滅を目指すドゥテルテ大統領は、犯罪の厳罰化がその特効薬だとして、選挙公約に死刑制度の復活を掲げていた。ただ、フィリピン国民の85%が信仰するカトリック教会が反対を表明。フランシスコ・ローマ法王が死刑反対を公言したのも記憶に新しい。故にこちらも国内外からの圧力は相当に強く、法案が成立するかどうかは微妙だ。

英国では元少年凶悪殺人犯の匿名性解除の動き

「女子高校生コンクリート詰め殺人事件」の犯行グループは、未成年ゆえに実名報道されることはほとんどなかった。少年法第61条の規定により、容疑者本人の類推に資する全ての情報(名前、学校名、地名など)を報道することが禁止されているからだ。ただ、事件直後に発売された『週刊文春』が唯一実名報道に踏み切り、当時大きな議論を呼んだ。記事を書いたコラムニストの勝谷誠彦氏は、今回の湊容疑者の事件を報じた新潮の取材に「"野獣に人権はない"と言って、実名報道に踏み切ったわけです」と答えている。一方で、殺害された少女の方は写真付きで実名報道され、「不良グループの一員であり、被害者にも非があった」といった論調の誤報(実際にはごく普通の真面目な少女だった)もあって、報道による二次被害が発生している。

凶悪少年犯罪の「匿名性」を巡る同様の問題は、イギリスでも起きている。1993年、当時10歳の少年2人が、イングランド北西部のリバプールで当時2歳の幼い男の子を拉致し、執拗な暴行を加えた末に殺害。遺体を線路に遺棄して轢断したというイギリス史上最悪とされる少年犯罪だ。事件発生直後は容疑者が匿名で報じられ、被害者のプライバシーは実名で詳報された。容疑者の元少年たちが出所後、それぞれ麻薬使用容疑と児童ポルノ所持容疑で再犯を犯している点も、「女子高校生コンクリート詰め殺人事件」に似ている。

ただ、被害者の名を取って「ジェームズ・バルガー事件」と呼ばれるこの事件の容疑者たちは、英国法務省が事件の重大性や世論を鑑みて下した決断により、裁判直前になってから実名報道された。しかし、2001年に18歳で出所した後は、国によって新しい身分を与えられ、居住地や職業などを報じてはならないという終身の匿名性が保証されている。これに対し、被害者の父親と叔父が犯人の1人、ジョン・ベナブルズが今年2月に2度目の児童ポルノ所持容疑で逮捕されたのを受け、この匿名性解除を求める訴えを起こした。BBCなどの英メディアの報道によれば、今年12月に公判が始まる。

オウム真理教事件の死刑囚の連続死刑執行を機に、日本の死刑制度への海外からの批判が高まっている中、「犯罪者の人権擁護」という観点からは、少年犯罪を中心にこうした逆の動きも散見される。日本ではまだ、今回の事件の余波はインターネットの世界からは出てきていないようだが、いずれ全社会的な議論に発展するかもしれない。

【訂正】日本の刑事責任年齢につきまして誤りがありました。削除訂正しました。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

中国ファーウェイ、上期は32%減益 多額の研究開発

ワールド

TSMC、企業秘密管理システムを欧米企業に販売へ=

ワールド

ウィッカー米上院議員が訪台、「台湾に自由の権利ある

ワールド

タイ憲法裁、ペートンタン首相の失職認める 倫理規定
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:健康長寿の筋トレ入門
特集:健康長寿の筋トレ入門
2025年9月 2日号(8/26発売)

「何歳から始めても遅すぎることはない」――長寿時代の今こそ筋力の大切さを見直す時

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    東北で大腸がんが多いのはなぜか――秋田県で死亡率が下がった「意外な理由」
  • 2
    25年以内に「がん」を上回る死因に...「スーパーバグ」とは何か? 対策のカギは「航空機のトイレ」に
  • 3
    1日「5分」の習慣が「10年」先のあなたを守る――「動ける体」をつくる、エキセントリック運動【note限定公開記事】
  • 4
    豊かさに溺れ、非生産的で野心のない国へ...「世界が…
  • 5
    信じられない...「洗濯物を干しておいて」夫に頼んだ…
  • 6
    トレーニング継続率は7倍に...運動を「サボりたい」…
  • 7
    50歳を過ぎても運動を続けるためには?...「動ける体…
  • 8
    「ガソリンスタンドに行列」...ウクライナの反撃が「…
  • 9
    「あなた誰?」保育園から帰ってきた3歳の娘が「別人…
  • 10
    米ロ首脳会談の後、プーチンが「尻尾を振る相手」...…
  • 1
    「まさかの真犯人」にネット爆笑...大家から再三「果物泥棒」と疑われた女性が無実を証明した「証拠映像」が話題に
  • 2
    信じられない...「洗濯物を干しておいて」夫に頼んだ女性が目にした光景が「酷すぎる」とSNS震撼、大論争に
  • 3
    プール後の20代女性の素肌に「無数の発疹」...ネット民が「塩素かぶれ」じゃないと見抜いたワケ
  • 4
    皮膚の内側に虫がいるの? 投稿された「奇妙な斑点」…
  • 5
    東北で大腸がんが多いのはなぜか――秋田県で死亡率が…
  • 6
    なぜ筋トレは「自重トレーニング」一択なのか?...筋…
  • 7
    飛行機内で隣の客が「最悪」のマナー違反、「体を密…
  • 8
    25年以内に「がん」を上回る死因に...「スーパーバグ…
  • 9
    「あなた誰?」保育園から帰ってきた3歳の娘が「別人…
  • 10
    脳をハイジャックする「10の超加工食品」とは?...罪…
  • 1
    「週4回が理想です」...老化防止に効くマスターベーション、医師が語る熟年世代のセルフケア
  • 2
    こんな症状が出たら「メンタル赤信号」...心療内科医が伝授、「働くための」心とカラダの守り方とは?
  • 3
    「自律神経を強化し、脂肪燃焼を促進する」子供も大人も大好きな5つの食べ物
  • 4
    デカすぎ...母親の骨盤を砕いて生まれてきた「超巨大…
  • 5
    デンマークの動物園、飼えなくなったペットの寄付を…
  • 6
    「まさかの真犯人」にネット爆笑...大家から再三「果…
  • 7
    信じられない...「洗濯物を干しておいて」夫に頼んだ…
  • 8
    山道で鉢合わせ、超至近距離に3頭...ハイイログマの…
  • 9
    ウォーキングだけでは「寝たきり」は防げない──自宅…
  • 10
    「レプトスピラ症」が大規模流行中...ヒトやペットに…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中