最新記事

日朝関係

日本が追求するべきは日朝会談の実現か、「名誉ある孤立」か

2018年7月27日(金)16時40分
辰巳由紀(米スティムソン・センター東アジア共同部長、キャノングローバル戦略研究所主任研究員)

拉致被害者の家族の要望を聞く安倍首相(3月) Toru Hanai-REUTERS

<首脳会談をめぐる原則と実利のジレンマ――日本にとっては「日中韓ロ会談」で意思疎通を図るのが現実的だ>

6月12日にトランプ米大統領と金正恩(キム・ジョンウン)朝鮮労働党委員長が史上初の米朝首脳会談に臨んでから1カ月が経過した。非核化の協議に目立った進展が見られないことから、ワシントンでは会談直後に漂った楽観的ムードは早くも跡形もない。

このようななか、9月11~13日にロシアのウラジオストクで開催される東方経済フォーラムに金正恩が出席するのではないかという観測が出ている。開催国のロシアに加え中国、韓国、日本、北朝鮮と、核問題の当事者である6カ国中5カ国の首脳が一堂に会する可能性もある。

日朝首脳会談に意欲を見せているといわれる安倍晋三首相だが、「拉致、核、ミサイル」それぞれの問題で何らかの進展につながる会談でなければ意味がない、という姿勢は崩していない。北朝鮮の非核化では長期的に必ず日本の経済・技術支援が必要になる局面が出てくるから、原則を曲げて会談を追求する必要はないという指摘も当然ある。

02年の日朝首脳会談の時に比べると、日本を取り巻く情勢は大きく変化している。例えば、当時は日本の経済力が中国より上だった。しかし、今や中国は世界第2位の経済大国となり、日本は世界各地での投資や開発援助の規模で中国に後れを取っている。しかも06年以降、種々の経済制裁が追加的に科され、日朝間の経済関係はほぼゼロに等しい状態になっている。このような状況で日本が北朝鮮に対して行使できる「てこ」は、そもそもほとんどない。

さらに当時と大きく異なるのは、日本と関係各国の関係である。小泉純一郎首相の靖国神社参拝で中韓との関係は緊張しつつあったが、韓国とはサッカー・ワールドカップを共同開催した余韻がまだ残っていた。中国とも東シナ海をめぐる緊張は今ほど高まっていなかった。

何より、北朝鮮の日朝会談に対する姿勢が現在とは全く異なっていた。当時の北朝鮮はジョージ・W・ブッシュ米大統領に「悪の枢軸」というレッテルを貼られた後、6者協議で非核化に関して5カ国に共同戦線をつくられている状態で、日本との関係改善でこの多国間連携にくさびを打つ効果が期待できた。

しかし、金正恩は現職のアメリカ大統領との2国間会談という祖父も父親も達成できなかった偉業を成し遂げ、中国やロシア、韓国を含め世界各国からの外交攻勢に遭っている。そんななか、「拉致問題は解決済み」という立場を公式には崩していない北朝鮮が、この問題が議題に上ることが分かり切っている日本との首脳会談に臨むインセンティブは極めて低い。

中国の動きを利用できる

会談が実現したとしても、そこで北朝鮮がどのような態度に出るのか、また日朝間で何らかの合意が成立した場合、その着実な履行をどのように担保するのか――などのジレンマに日本が直面するリスクは極めて高い。かといって原則論を貫き対話を拒み続ければ、日本は朝鮮半島の将来をめぐる議論で蚊帳の外に置かれたまま、コストだけ負担させられる可能性が高くなる。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

FRBに「レジーム・チェンジ」必要、ウォーシュ氏が

ワールド

マクロン仏大統領、国防費の増額表明 3年前倒しで倍

ワールド

EUとインドネシア、包括的経済連携協定の締結へ政治

ワールド

エヌビディアCEOに訪中巡り警告、米与野党上院議員
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:大森元貴「言葉の力」
特集:大森元貴「言葉の力」
2025年7月15日号(7/ 8発売)

時代を映すアーティスト・大森元貴の「言葉の力」の源泉にロングインタビューで迫る

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「お腹が空いていたんだね...」 野良の子ネコの「首」に予想外のものが...救出劇が話題
  • 2
    「ベンチプレス信者は損している」...プッシュアップを極めれば、筋トレは「ほぼ完成」する
  • 3
    千葉県の元市長、「年収3倍」等に惹かれ、国政に打って出たときの顛末
  • 4
    どの学部の卒業生が「最も稼いでいる」のか? 学位別…
  • 5
    エリザベス女王が「うまくいっていない」と心配して…
  • 6
    イギリスの鉄道、東京メトロが運営したらどうなる?
  • 7
    主人公の女性サムライをKōki,が熱演!ハリウッド映画…
  • 8
    ただのニキビと「見分けるポイント」が...顔に「皮膚…
  • 9
    完璧な「節約ディズニーランド」...3歳の娘の夢を「…
  • 10
    都議選千代田区選挙区を制した「ユーチューバー」佐…
  • 1
    「ベンチプレス信者は損している」...プッシュアップを極めれば、筋トレは「ほぼ完成」する
  • 2
    「弟ができた!」ゴールデンレトリバーの初対面に、ネットが感動の渦
  • 3
    「お腹が空いていたんだね...」 野良の子ネコの「首」に予想外のものが...救出劇が話題
  • 4
    日本企業の「夢の電池」技術を中国スパイが流出...AP…
  • 5
    千葉県の元市長、「年収3倍」等に惹かれ、国政に打っ…
  • 6
    シャーロット王女の「ロイヤル・ボス」ぶりが話題に..…
  • 7
    どの学部の卒業生が「最も稼いでいる」のか? 学位別…
  • 8
    イギリスの鉄道、東京メトロが運営したらどうなる?
  • 9
    完璧な「節約ディズニーランド」...3歳の娘の夢を「…
  • 10
    トランプ関税と財政の無茶ぶりに投資家もうんざり、…
  • 1
    「コーヒーを吹き出すかと...」ディズニーランドの朝食が「高額すぎる」とSNSで大炎上、その「衝撃の値段」とは?
  • 2
    「あまりに愚か...」国立公園で注意を無視して「予測不能な大型動物」に近づく幼児連れ 「ショッキング」と映像が話題に
  • 3
    10歳少女がサメに襲われ、手をほぼ食いちぎられる事故...「緊迫の救護シーン」を警官が記録
  • 4
    JA・卸売業者が黒幕説は「完全な誤解」...進次郎の「…
  • 5
    ディズニー・クルーズラインで「子供が海に転落」...…
  • 6
    気温40℃、空港の「暑さ」も原因に?...元パイロット…
  • 7
    燃え盛るロシアの「黒海艦隊」...ウクライナの攻撃で…
  • 8
    「小麦はもう利益を生まない」アメリカで農家が次々…
  • 9
    イランを奇襲した米B2ステルス機の謎...搭乗した専門…
  • 10
    「うちの赤ちゃんは一人じゃない」母親がカメラ越し…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中