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貿易戦争

米中摩擦でロシアなどに恩恵 黒海周辺の穀物輸出拡大へ

2018年7月18日(水)13時00分

7月10日、米中貿易摩擦はロシアやウクライナ、カザフスタンの黒海周辺国にとって小麦やトウモロコシ、大豆の中国や欧州連合(EU)向け輸出の好機となり、穀物やオイルシードの輸出拡大につながりそうだ。写真はウクライナでの穀物収穫。2013年撮影(2018年 ロイター/Vincent Mundy)

米中貿易摩擦はロシアやウクライナ、カザフスタンの黒海周辺国にとって小麦やトウモロコシ、大豆の中国や欧州連合(EU)向け輸出の好機となり、穀物やオイルシードの輸出拡大につながりそうだ。

黒海周辺国は既にこれまで米国が優勢だったナイジェリアやメキシコ向けの輸出が増えている。

国際穀物理事会によると、世界の小麦市場では2017-18年度に黒海周辺国のシェアが約37%に上昇し、米国とカナダの合計シェアをも上回った。

中国は世界最大の小麦生産国だが、それでも毎年400万トンを輸入している。米政府によると、米国の17-18年度(17年6月─18年5月)の中国向け小麦輸出は90万2400トンで、前年度の156万トンから大幅に減った。

カザフスタンは米中貿易摩擦の勃発以前に、中国の「一帯一路」政策に伴い中国向け小麦輸出が増加しており、貿易摩擦がその流れを一層後押しする格好となった。

中国の小麦取引業者は「カザフ産小麦は今年から買い付けを始めており、まずは数千トンの注文を出した。販売や収益状況がよければ輸入量を増やす。(米中の)貿易摩擦の絡みだ」と説明。「米国産小麦が輸入できないためカザフからの購入を増やすが、購入量が一定の水準に達すれば政府からの支援を受けることができる」と述べた。

一方、別のトレーダーは、ロシアやカザフ産の小麦輸入には、物流や品質の安定を巡り課題がある、と指摘する。黒海周辺国の小麦は品質が異なるため、これまで米国から輸入していた全量を黒海周辺国産に切り替えるわけにはいかず、一部の取引業者はカナダ産を求める見通しだという。

統計によると、主に北アフリカや中東向けに小麦を輸出してきたロシアとウクライナは17-18年度にベトナムやインドネシア、フィリピン、スペイン、チュニジア、タンザニア、スーダン、オマーン、メキシコ、ケニアなどの国への輸出を増やしている。

ロシア産小麦はナイジェリアで米国産からシェアを奪っており、ブラジルも7月に8年ぶりにロシア産小麦を購入した。

ロシア産農産物の専門会社ソラリス幹部のスイサン・スティル氏は「新たな貿易紛争が起きている今は価格が何よりも物言う」と強調。「中国は黒海周辺国からの穀物やオイルシードの輸入、南米からの大豆輸入を増やすだろう。メキシコもロシア産の小麦を購入しており、米国産小麦よりも割安なため今後も輸入を続ける見通しだ」と述べた。

黒海周辺国は小麦以外にもトウモロコシや大豆の輸出が増えそうだ。トムソン・ロイターの黒海農産物市場アナリストは、ロシア当局によると17年7月-18年5月にかけて中国への大豆輸出は85万トンと過去最高を記録し、前年同期に比べ倍以上の規模となった、とした。「米国からの供給が落ち込めば、ロシアを中心とした黒海諸国は中国向け大豆輸出をさらに増やすだろう」という。

ウクライナにとっても好機が生まれている。EUは6月に米国産トウモロコシに25%の輸入関税を課しており、ウクライナがEU向け輸出を増やすチャンスだ。別のアナリストによると、中国も米国産トウモロコシの輸入を減らし、ウクライナ産とロシア産の輸入を増やす可能性があるという。

[モスクワ/北京 10日 ロイター]


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