最新記事

イスラム過激派

世界最多のイスラム教徒擁するインドネシアで過激思想が浸透? 温床はモスクと大学

2018年7月12日(木)17時45分
大塚智彦(PanAsiaNews)

テロ計画を準備していたリアウ大学OBの強制捜査を行う対テロ特殊部隊 Antara Foto Agency-REUTERS

<多民族国家のインドネシアは、宗教においても信教の自由が保証されている。だが、過激思想を訴える勢力が密かに国家を蝕みつつあるという>

世界最大のイスラム教徒人口を擁しながらイスラム教を国教とせず、他宗教を認めることで国是でもある「多様性の中の統一」を「寛容」と「共生」で実現しているインドネシア。そのイスラム教でも大半を占める「穏健派」に挑戦するかのように過激思想に基づいた「急進派」がじわじわと勢力を拡大しつつある。その過激思想があろうことかイスラム教の礼拝施設である「モスク」と高等教育の現場である「大学」を「宣教活動拠点」として、静かにしかし確実に浸透していることに穏健イスラム教団体や政府は危機感を強めている。

大学構内でテロ容疑者が爆弾製造の衝撃

2018年6月2日、国家警察対テロ特殊部隊「デンスス88」は、事前に寄せられた情報を基にスマトラ島リアウ州プカンバルにある国立リアウ大学構内に踏み込んだ。そして政治社会学部の学生会館で起爆可能な即製爆弾、高性能爆薬、手榴弾などの武器を押収するとともに同会館で寝泊まりしていた同大学卒業生3人を反テロ法違反容疑で逮捕した。3人のうち1人はインドネシアのイスラムテロ組織「ジェマ・アンシャルット・ダウラ(JAD)」のメンバーとされ、3人は州議会と首都ジャカルタの国会を標的としたテロを計画準備中だったという。

国立大学構内で爆弾が製造され、卒業生がテロ組織のメンバーとして関与していたことはインドネシア教育界に大きな衝撃を与え、政府、高等教育省などは各大学に「キャンパスがテロの温床にならないように」「学生が過激なテロ思想に染まらないように」と各種対策を早急に講じるよう指示したのだった。

ムハンマド・ナシル技術研究・高等教育相はリアウ大学の事案を深刻に受け止め、各国立大学の学長と「キャンパスでの過激思想の浸透防止」に関する協議を順次行っている。


「キャンパスでの過激思想の浸透防止」を訴えるムハンマド・ナシル技術研究・高等教育相 KOMPASTV / YouTube

こうしたなか、ジャワ島中部のスマランにあるディポネゴロ大学の法学部教授がソーシャル・メディア上に非合法化されたイスラム団体「ヒズブット・タフリル・インドネシア(HTI)」を支持する書きこみを行ったことが問題視され、教壇を追放された。

国立大学では「国家情報庁(BIN)と情報交換し、大学生の思想動向、活動を把握したい」(ブラヴィジャヤ大学・マラン)、「学生、教職員のキャンパス内での活動を定期的に調査、監視している」(インドネシア大学・ジャカルタ)など対過激思想で学生や教職員への監視、締め付けが厳しくなっており、「キャンパスの自治」「思想の自由」への制限が強まっているという。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

中国で「南京大虐殺」の追悼式典、習主席は出席せず

ワールド

トランプ氏、次期FRB議長にウォーシュ氏かハセット

ビジネス

アングル:トランプ関税が生んだ新潮流、中国企業がベ

ワールド

アングル:米国などからトップ研究者誘致へ、カナダが
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:ジョン・レノン暗殺の真実
特集:ジョン・レノン暗殺の真実
2025年12月16日号(12/ 9発売)

45年前、「20世紀のアイコン」に銃弾を浴びせた男が日本人ジャーナリストに刑務所で語った動機とは

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    デンマーク国防情報局、初めて米国を「安全保障上の脅威」と明記
  • 2
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出を睨み建設急ピッチ
  • 3
    受け入れ難い和平案、迫られる軍備拡張──ウクライナの選択肢は「一つ」
  • 4
    【クイズ】「100名の最も偉大な英国人」に唯一選ばれ…
  • 5
    「前を閉めてくれ...」F1観戦モデルの「超密着コーデ…
  • 6
    首や手足、胴を切断...ツタンカーメンのミイラ調査開…
  • 7
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 8
    現役・東大院生! 中国出身の芸人「いぜん」は、なぜ…
  • 9
    【揺らぐ中国、攻めの高市】柯隆氏「台湾騒動は高市…
  • 10
    世界最大の都市ランキング...1位だった「東京」が3位…
  • 1
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした「信じられない」光景、海外で大きな話題に
  • 2
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価に与える影響と、サンリオ自社株買いの狙い
  • 3
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だから日本では解決が遠い
  • 4
    兵士の「戦死」で大儲けする女たち...ロシア社会を揺…
  • 5
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出…
  • 6
    健康長寿の鍵は「慢性炎症」にある...「免疫の掃除」…
  • 7
    デンマーク国防情報局、初めて米国を「安全保障上の…
  • 8
    キャサリン妃を睨む「嫉妬の目」の主はメーガン妃...…
  • 9
    ホテルの部屋に残っていた「嫌すぎる行為」の証拠...…
  • 10
    中国軍機の「レーダー照射」は敵対的と、元イタリア…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 3
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸送機「C-130」謎の墜落を捉えた「衝撃映像」が拡散
  • 4
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした…
  • 5
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 6
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 7
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 8
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 9
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 10
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中