最新記事

ベンチャー

The Era of Dataism──データ資本主義の時代

2018年6月25日(月)18時10分
蛯原 健(リブライトパートナーズ代表)

大企業はスタートアップの敵から、最大の支援者となった

一昔前はスタートアップにとって大企業は打ち負かすべき敵であった。AppleにとってIBM、Amazonにとってウォルマートは敵であり、大企業にとってもスタートアップは脅威であった。しかしその戦は今、オープンイノベーションという御旗のもとに終戦を迎えた。むしろ大企業はスタートアップの最大の支援者となった。

ebihara6.jpg

大企業の無尽蔵な資金バックを得て、スタートアップはどんどん肥大化する。肥大化したスタートアップは無尽蔵に大企業の資金を吸収し、燃焼し、ひたすらにトップライン(流通総額、グロス売上)だけを追求する。結果、そのレールに乗った片手に余る一握りの「デカコーン」が全スタートアップ資金調達額の圧倒過半を独り占めする「Few takes almost all」現象が世界中で起きている。格差社会は個人単位のみで起きているのではない。企業単位でも格差は世界に蔓延しているのである。未上場企業も、上場企業も、である。

過剰流動性とスタートアップの共犯性

スタートアップの資金調達額は、株式市場の高低と完全に連動している。

ebihara7.jpg

ウォールストリートが良いときは、西海岸のテックスタートアップも栄える。逆も真。しかしそのアップ・ダウン・サイクルの中、この10年はほぼ一本調子で上げている。理由は何か。

過剰流動性である。

ebihara8.jpg

一目瞭然に、前回の景気の谷からまさに異次元のマネー世の中に大量に放出されている。

そしてこれに連動して、スタートアップの企業価値が急騰している。

ebihara9.jpg

イノベーションや技術進展は、確かに高い価値を世の中にもたらしている。しかしながらそれ以上に、余り過ぎたお金がスタートアップの株式の値段をインフレさせている要因のほうが遥かに大きいのである。

米国はいま、金融引き締めに入った。今のところはそれを吸収して引き続きブル市場であるが「まだはもうなり、もうはまだなり」相場の格言通り、これがいつ反転するかは最も賢い人ですら、誰にもわからない。

たった一つ分かることは、「備えあれば憂いなし」。備えに関してはちょうど10年前の2008年、世界最高峰VCのセコイアキャピタルが全ポートフォリオ企業に宛てたこのレターが、普遍的に有効ではなかろうか。

ebihara10.jpg

Letter from Sequoia Capital to their Portfolio companies in 2008

本記事は2018年6月14日に香港で開催されてたアジア・リーダーズ・サミットにおける講演内容のダイジェストです。講演で使用した全スライドはSlideShareに掲載されています


[執筆者]
蛯原健(リブライトパートナーズ代表)
シンガポールを拠点に、アジアのインターネットスタートアップへのベンチャーキャピタル投資に従事している。
インターネット黎明期の1994年からJAFCOにてベンチャーキャピタルに従事、その後 上場および未上場ベンチャーの経営を経て、現在はアジアでスタートアップ投資に従事。講演依頼は、こちらまで。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

米Tモバイル、USセルラーの携帯事業買収へ 44億

ビジネス

独VW、低価格EV開発へ 中国勢に対抗 2万ユーロ

ワールド

台湾議会、政府を監視する権限強化する法案可決 市民

ワールド

西側兵器でロシア領攻撃なら世界紛争も、プーチン氏が
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:イラン大統領墜落死の衝撃
特集:イラン大統領墜落死の衝撃
2024年6月 4日号(5/28発売)

強硬派・ライシ大統領の突然の死はイスラム神権政治と中東の戦争をこう変える

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    中国海軍「ドローン専用空母」が革命的すぎる...ゲームチェンジャーに?

  • 2

    自爆ドローンが、ロシア兵に「突撃」する瞬間映像をウクライナが公開...シャベルで応戦するも避けきれず

  • 3

    メキシコに巨大な「緑の渦」が出現、その正体は?

  • 4

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受…

  • 5

    汎用AIが特化型モデルを不要に=サム・アルトマン氏…

  • 6

    プーチンの天然ガス戦略が裏目で売り先が枯渇! 欧…

  • 7

    「なぜ彼と結婚したか分かるでしょ?」...メーガン妃…

  • 8

    なぜ「クアッド」はグダグダになってしまったのか?

  • 9

    ロシアの「亀戦車」、次々と地雷を踏んで「連続爆発…

  • 10

    ハイマースに次ぐウクライナ軍の強い味方、長射程で…

  • 1

    ロシアの「亀戦車」、次々と地雷を踏んで「連続爆発」で吹き飛ばされる...ウクライナが動画を公開

  • 2

    自爆ドローンが、ロシア兵に「突撃」する瞬間映像をウクライナが公開...シャベルで応戦するも避けきれず

  • 3

    「なぜ彼と結婚したか分かるでしょ?」...メーガン妃がのろけた「結婚の決め手」とは

  • 4

    ウクライナ悲願のF16がロシアの最新鋭機Su57と対決す…

  • 5

    黒海沿岸、ロシアの大規模製油所から「火柱と黒煙」.…

  • 6

    戦うウクライナという盾がなくなれば第三次大戦は目…

  • 7

    能登群発地震、発生トリガーは大雪? 米MITが解析結…

  • 8

    中国海軍「ドローン専用空母」が革命的すぎる...ゲー…

  • 9

    「天国にいちばん近い島」の暗黒史──なぜニューカレ…

  • 10

    半裸でハマスに連れ去られた女性は骸骨で発見された─…

  • 1

    半裸でハマスに連れ去られた女性は骸骨で発見された──イスラエル人人質

  • 2

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々に明らかになる落とし穴

  • 3

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などできない理由

  • 4

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する…

  • 5

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両…

  • 6

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受…

  • 7

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地…

  • 8

    ロシアの「亀戦車」、次々と地雷を踏んで「連続爆発…

  • 9

    大阪万博でも「同じ過ち」が繰り返された...「太平洋…

  • 10

    どの顔が好き? 「パートナーに求める性格」が分かる…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中