最新記事

ロシアW杯

ロシアW杯をプロパガンダに利用するプーチン

2018年6月19日(火)16時00分
マーク・ベネッツ(ジャーナリスト)

人権団体は、ウクライナ人70人近くが政治犯として、ロシアや占領下のクリミアで監禁されていると訴えているが、ロシア政府は否定している。W杯開催1カ月前の5月14日には、獄中のセンツォフが「ロシア領内で拘束されているウクライナ人政治犯全員の釈放」を求めてハンガーストライキを始めた。

他の活動家も活発に動いている。5月には14の人権団体がFIFA宛ての公開書簡に署名し、人権擁護団体「メモリアル」のチェチェン支部長オユブ・ティティエフを解放するよう、ロシアに圧力をかけてほしいと呼び掛けた。

なおチェチェンでの試合は組まれていないが、首都グロズヌイではエジプト代表チームがキャンプを張っていた。

来賓はいなくてもいい

60歳のティティエフは今年1月、大麻約170グラムを所持した容疑でチェチェン警察に逮捕された。彼の支持者によれば、これはチェチェン共和国のラムザン・カディロフ首長によるでっち上げだ。チェチェンのアプティ・アラウディノフ副内相はこれまでも、同様の手法で警察を動かし、カディロフの「敵」を何人も陥れてきた。

メモリアルは旧ソ連の反体制派が1989年に設立した団体で、ソ連時代の弾圧だけでなくプーチン時代の権力乱用も暴き、国際的に高く評価されている。

チェチェンにおける最近の弾圧は、昨年12月にカディロフのインスタグラムのアカウントが閉鎖されたことがきっかけとされる。「アカウントの閉鎖は、カディロフのイメージを損ねるものだ」と、メモリアルの創設者オレク・オルロフは言う。「カディロフは自分の邪魔をする者は抹殺せずにおかない」

17年に新たな人権ポリシーを採択したFIFAはティティエフの逮捕を気に掛けているとしたものの、エジプト代表の拠点をグロズヌイから移せという要求は拒否した。

メモリアルは、ティティエフが国際的に注目されることによって、プーチンがチェチェン当局に彼の釈放を命じざるを得なくなることを願っている。メモリアルのチェチェン支部を運営していたカティヤ・ソキリアンスキアは、「W杯の成功はロシア政府にとって非常に重要だから」と言う。「国際機関、特にFIFAがティティエフの事件を大きく取り上げてくれれば、プーチンが介入して彼を解放するかもしれない」

ロシアの反政府勢力の一部がワールドカップを利用して抗議の声を上げる一方、国際的なボイコットを呼び掛けて、プーチンのもくろみを台無しにしたい反体制勢力もある。

だが代表チームの派遣を拒否した国はない。3月に起きた元二重スパイの在英ロシア人セルゲイ・スクリパリの暗殺未遂事件でロシアを非難しているイギリスも、ワールドカップに出場するチャンスを失うことには二の足を踏んだ。イングランド代表が大会をボイコットする代わりに、イギリスは公式代表団の派遣を拒否。王室も今回の大会には顔を見せない。

しかし、プーチンはそんなことは気にしない。「彼は西側との険悪な関係に慣れている。来賓はいなくても構わない。重要なのはサッカー選手が来ることだ」と、カーネギー国際平和財団のコレスニコフは言う。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

ドバイの米オラクル施設に迎撃破片が落下、負傷者なし

ワールド

トランプ政権による大学への人種データ開示命令を仮差

ビジネス

アングル:トランプ関税で変わる米国のメニュー、国産

ワールド

米戦闘機2機、イランが撃墜 乗員2人救助・1人不明
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:日本企業に迫る サステナビリティ新基準
特集:日本企業に迫る サステナビリティ新基準
2026年4月 7日号(3/31発売)

国際基準の情報開示や多様な認証制度──本当の「持続可能性」が問われる時代へ

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    イラン戦争の現実...アメリカとイスラエル、見え始めた限界
  • 2
    「考えの浅い親」が子どもに言ってしまっている口ぐせ・ワースト1
  • 3
    攻撃開始日も知っていた?──イラン戦争を巡る巨額取引、インサイダー疑惑が市場に波紋
  • 4
    【銘柄】「三菱商事」の株価に高まる期待...ホルムズ…
  • 5
    「根底にあるのは怒り」...日本の「3Dプリンター住宅…
  • 6
    なぜイスラエルは対イラン戦争を支持するのか...「イ…
  • 7
    血圧やコレステロール値より重要?死亡リスクを予測…
  • 8
    中国は「アカデミズムの支配」を狙っている? 学術誌…
  • 9
    イラン戦争は「ハルマゲドンの前兆」か? トランプ…
  • 10
    60年前に根絶した「肉食バエ」が再びアメリカに迫る.…
  • 1
    「根底にあるのは怒り」...日本の「3Dプリンター住宅」企業が救う、ウクライナの未来
  • 2
    「水に流す」日本と「記憶する」韓国...気候と地理が育んだ「国民意識の違い」とは?
  • 3
    攻撃開始日も知っていた?──イラン戦争を巡る巨額取引、インサイダー疑惑が市場に波紋
  • 4
    記憶を定着させるのに年齢は関係ない...記憶の定着度…
  • 5
    なぜイスラエルは対イラン戦争を支持するのか...「イ…
  • 6
    ロシア経済を支える重要な港、ウクライナのものと思…
  • 7
    イラン戦争の現実...アメリカとイスラエル、見え始め…
  • 8
    オランウータンに「15分間ロックオン」された女性のS…
  • 9
    映画『8番出口』はアメリカでどう受け止められた?..…
  • 10
    ヘンリー・メーガン夫妻の豪州訪問に3万6000人超の反…
  • 1
    温暖化で増えた? サンマやサケ減少の裏で激増する「安価で栄養価の高い魚」の正体
  • 2
    ロシア政府、痛恨のミス...プーチンの「健康不安説」を裏付けるような動画を公式に投稿してしまう
  • 3
    「根底にあるのは怒り」...日本の「3Dプリンター住宅」企業が救う、ウクライナの未来
  • 4
    メーガン妃、娘リリベット王女との新ショット公開...…
  • 5
    「ノーと言えるスペイン」の背景に国防意識...次期ス…
  • 6
    キャサリン皇太子妃、ナイジェリア大統領夫妻出迎え…
  • 7
    数時間以内に死に至ることも...若者の間で集団感染が…
  • 8
    「日本より、自分の国(フランス)を心配すれば?」…
  • 9
    米軍も防ぎきれないイランのドローン攻撃──イラン製…
  • 10
    メーガン妃、娘リリベット王女との「お手伝い姿」公…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中