最新記事

ロシアW杯

ロシアW杯をプロパガンダに利用するプーチン

2018年6月19日(火)16時00分
マーク・ベネッツ(ジャーナリスト)

magw180619-wcup03.jpg

モスクワで華々しく行われたワールドカップ開会式(6月14日) Maxim Shemetov-REUTERS

ソチ五輪の時とは違う

ボルゴグラードでは昨年11月、ISISに触発された襲撃事件が発生し、警官2人が入院するほどの刺し傷を負った。同市ではイングランド、ナイジェリア、サウジアラビア、日本などの試合が予定されている。また4年前にはイスラム系武装勢力2人による自爆テロで34人が犠牲になった。犯行を主導した武装組織「カフカス首長国」は消滅したが、その残党は今もISISに忠誠を誓っている。

ロシア政府はこのような脅威に備えてテロ対策を強化してきた。FSBのアレクサンドル・ボルトニコフ長官によると、今年1~4月だけでテロの準備をしていたと疑われる189人を検挙した。化学薬品など危険物質を扱う工場の一部は大会期間中の休業を命じられている。

ソチ五輪でテロを封じ込めたのだから今度も大丈夫だと、治安当局は言う。だが当時と今では決定的な違いがある。「ソチ五輪の頃はまだISISがロシア国内で活動していなかった」と、シュベドフは言う。「残念ながら今は、特に北カフカスで極めて活動的になっている」

プラハ国際関係研究所のマーク・ガレオッティは、五輪に比べてW杯では潜在的な標的が格段に多いと指摘する。「ソチの会場は狭い範囲に集まっていたが、W杯の会場は全国に散らばっている。競技場近くのバス停を狙っても大事件になる」

W杯を自己主張の場にしようとする存在はテロリストに限らない。ロシア国内の反体制派も、この機会に世界の注目を集めようとしている。反政府勢力への弾圧や露骨な人権侵害を、世界に訴えたいからだ。

ロシア政府はそうした反体制派のもくろみを恐れているようだ。外国のマスコミの前でデモを発生させないため、ロシア当局は試合が開催される都市での抗議行動を7月25日まで禁止した。また反政府派の訴えが表に出ないように、できる限りの手を尽くしている。

例えば反体制派の指導者アレクセイ・ナワリヌイは5月15日にデモ関連の微罪で逮捕され、1カ月も拘留された。汚職問題を追及する2人の仲間も5月後半に身柄を拘束された。彼らの罪状は、デモについてツイートしたことだった。

「ワールドカップは、プーチン大統領の永遠なる治安帝国の祝典になるだろう」と言うのは、反プーチン派の女性パンクバンド「プッシー・ライオット」のマリア・アリョーヒナだ。「観客たちは、デモの参加者が殴られ、刑務所や警察署で拷問され、政治犯がとても多い国にいることを認識してほしい」

ウクライナの映画監督オレグ・センツォフはそうした政治犯の1人。テロを計画した容疑で15年に軍事裁判で懲役20年の実刑判決を受けたが、センツォフに言わせれば、それは彼がロシアによるクリミア併合に抗議したことへの報復だ。

検察は、センツォフと共同被告のアレクサンドル・コルチェンコが与党・統一ロシアのクリミア支部と共産党事務所の入り口に何度も放火したと告発した。2人とも無罪を主張しており、反政府派は容疑を裏付ける証拠が薄弱だと主張している。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

トランプ氏、豪首相と来週会談の可能性 AUKUS巡

ワールド

イスラエル、ガザ市に地上侵攻 国防相「ガザは燃えて

ビジネス

カナダCPI、8月は前年比1.9%上昇 利下げの見

ビジネス

米企業在庫7月は0.2%増、前月から伸び横ばい 売
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が尊敬する日本の小説36
特集:世界が尊敬する日本の小説36
2025年9月16日/2025年9月23日号(9/ 9発売)

優れた翻訳を味方に人気と評価が急上昇中。21世紀に起きた世界文学の大変化とは

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「二度見した」「小石のよう...」マッチョ俳優ドウェイン・ジョンソンの、あまりの「激やせぶり」にネット騒然
  • 2
    ケージを掃除中の飼い主にジャーマンシェパードがまさかの「お仕置き」!
  • 3
    【クイズ】次のうち、飲むと「蚊に刺されやすくなる」飲み物はどれ?
  • 4
    腹斜筋が「発火する」自重トレーニングとは?...硬く…
  • 5
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影…
  • 6
    観光客によるヒグマへの餌付けで凶暴化...74歳女性が…
  • 7
    「日本を見習え!」米セブンイレブンが刷新を発表、…
  • 8
    「なにこれ...」数カ月ぶりに帰宅した女性、本棚に出…
  • 9
    「この歩き方はおかしい?」幼い娘の様子に違和感...…
  • 10
    「我々は嘘をつかれている...」UFOらしき物体にミサ…
  • 1
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影...目覚めた時の「信じがたい光景」に驚きの声
  • 2
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?
  • 3
    「中野サンプラザ再開発」の計画断念、「考えてみれば当然」の理由...再開発ブーム終焉で起きること
  • 4
    「我々は嘘をつかれている...」UFOらしき物体にミサ…
  • 5
    【クイズ】次のうち、飲むと「蚊に刺されやすくなる…
  • 6
    科学が解き明かす「長寿の謎」...100歳まで生きる人…
  • 7
    「二度見した」「小石のよう...」マッチョ俳優ドウェ…
  • 8
    【クイズ】世界で1番「島の数」が多い国はどこ?
  • 9
    埼玉県川口市で取材した『おどろきの「クルド人問題…
  • 10
    観光客によるヒグマへの餌付けで凶暴化...74歳女性が…
  • 1
    「4針ですかね、縫いました」日本の若者を食い物にする「豪ワーホリのリアル」...アジア出身者を意図的にターゲットに
  • 2
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?
  • 3
    「まさかの真犯人」にネット爆笑...大家から再三「果物泥棒」と疑われた女性が無実を証明した「証拠映像」が話題に
  • 4
    信じられない...「洗濯物を干しておいて」夫に頼んだ…
  • 5
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影…
  • 6
    「レプトスピラ症」が大規模流行中...ヒトやペットに…
  • 7
    「あなた誰?」保育園から帰ってきた3歳の娘が「別人…
  • 8
    「中野サンプラザ再開発」の計画断念、「考えてみれ…
  • 9
    「我々は嘘をつかれている...」UFOらしき物体にミサ…
  • 10
    プール後の20代女性の素肌に「無数の発疹」...ネット…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中