最新記事

北朝鮮情勢

トランプの米朝蜜月戦略は対中牽制──金正恩は最強のカード

2018年6月19日(火)10時51分
遠藤誉(東京福祉大学国際交流センター長)

米朝蜜月を演じる米朝首脳(6月12日、シンガポールで) Anthony Wallace/Reuters

米朝首脳会談の共同声明に関して、トランプが金正恩に譲歩し過ぎだというバッシングが絶えないが、トランプは金正恩の対米傾斜を加速させ、対中牽制を強化しようとしている。金正恩は唯一最強の対中牽制カードだ。

本当は険悪な中朝関係の真相を正視すべき

中朝が本当はどれだけ仲が悪いかに関して、日本はあまりに知らな過ぎる。だからトランプ大統領がシンガポールにおける米朝首脳会談で金正恩委員長に大幅に譲歩したと批判し、北朝鮮の勝利だと書き立てる傾向にある。

しかし、中朝関係の真相を知れば、トランプはあくまでも金正恩をカードとして使い、実は中国を牽制しようという強烈な戦略に基づいていることが見えてくる。

アメリカはもとより、日本にとっても真の脅威は中国だ。

金正恩が電撃訪中をして習近平国家主席と熱い握手を交わした後、あたかも中朝が「揺るがぬ同盟」に復帰したように勘違いしている人が多いが、しかしもしそうなら、なぜ3月26日に6年ぶりの中朝首脳会談を開きながら、その1ヵ月後の板門店宣言では、朝鮮戦争の終戦協定締結に当たって、「3者(韓朝米)あるいは4者(韓朝米中)」による協議と謳ったのか。3者として「中国外し」をしたのは金正恩だと暗示する情報を、韓国大統領府はリークし、韓国の政府系メディアに書かせている。

その詳細に関しては、5月2日付のコラム<「中国排除」を主張したのは金正恩?――北の「三面相」外交>や5月7日付のコラム<中国、対日微笑外交の裏――中国は早くから北の「中国外し」を知っていた>に書いた。

なぜ北朝鮮は中国を嫌っているのか?

これも、これまで何度も書いてきたのでくり返しになり申し訳ないが、ここでもう一度「なぜ北朝鮮は中国を嫌っているのか」をまとめておきたい。

1.朝鮮半島に国家というものが誕生して以来、長いこと中国に対する朝貢外交を強いられていたので、「もうこれ以上は中国のコントロール下にいたくない」という抵抗がある。

2.1950年6月に朝鮮戦争が始まり、北朝鮮が形勢不利になった同年10月になって、中国人民志願軍が北朝鮮人民軍を支援するために参戦した時に、中朝連合軍の最高司令官だった彭徳懐元帥が朝鮮労働党延安派を重用し、北朝鮮を建国した金日成(キム・イルソン)(北朝鮮人民軍の最高司令官)を脇役にした。朝鮮戦争が終わると金日成は延安派を徹底して粛清しただけでなく、朝鮮戦争における中国の貢献を無視もしくは軽視しようとした。

3.2012年8月、金正恩の叔父の張成沢(チャン・ソンテク)が中国の当時の胡錦濤国家主席との密談で、「金正日(キム・ジョンイル)の後継者は金正恩よりも金正男(キム・ジョンナム)の方がいい」と胡錦濤に告げたことを、当時のチャイナ・ナイン(中共中央政治局常務委員9人)の中の一人だった周永康が盗聴収録し、それを金正恩に密告した。胡錦濤は承諾したわけではないが、中国が、親中の張成沢と結託しているという印象を与える構図に(2017年2月、金正男、暗殺される)。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

ウクライナ大統領府長官が辞任、和平交渉を主導 汚職

ビジネス

米株式ファンド、6週ぶり売り越し

ビジネス

独インフレ率、11月は前年比2.6%上昇 2月以来

ワールド

外為・株式先物などの取引が再開、CMEで11時間超
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:ガザの叫びを聞け
特集:ガザの叫びを聞け
2025年12月 2日号(11/26発売)

「天井なき監獄」を生きるパレスチナ自治区ガザの若者たちが世界に向けて発信した10年の記録

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    7歳の息子に何が? 学校で描いた「自画像」が奇妙すぎた...「心配すべき?」と母親がネットで相談
  • 2
    100年以上宇宙最大の謎だった「ダークマター」の正体を東大教授が解明? 「人類が見るのは初めて」
  • 3
    【クイズ】世界遺産が「最も多い国」はどこ?
  • 4
    【寝耳に水】ヘンリー王子&メーガン妃が「大焦り」…
  • 5
    「攻めの一着すぎ?」 国歌パフォーマンスの「強めコ…
  • 6
    【最先端戦闘機】ミラージュ、F16、グリペン、ラファ…
  • 7
    エプスタイン事件をどうしても隠蔽したいトランプを…
  • 8
    子どもより高齢者を優遇する政府...世代間格差は5倍…
  • 9
    メーガン妃の「お尻」に手を伸ばすヘンリー王子、注…
  • 10
    バイデンと同じ「戦犯」扱い...トランプの「バラ色の…
  • 1
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで墜落事故、浮き彫りになるインド空軍の課題
  • 2
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるようになる!筋トレよりもずっと効果的な「たった30秒の体操」〈注目記事〉
  • 3
    マムダニの次は「この男」?...イケメンすぎる「ケネディの孫」の出馬にSNS熱狂、「顔以外も完璧」との声
  • 4
    海外の空港でトイレに入った女性が見た、驚きの「ナ…
  • 5
    ポルノ依存症になるメカニズムが判明! 絶対やって…
  • 6
    【最先端戦闘機】ミラージュ、F16、グリペン、ラファ…
  • 7
    老後資金は「ためる」より「使う」へ──50代からの後…
  • 8
    AIの浸透で「ブルーカラー」の賃金が上がり、「ホワ…
  • 9
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 10
    7歳の息子に何が? 学校で描いた「自画像」が奇妙す…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 3
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 4
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 5
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 6
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸…
  • 7
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 8
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 9
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 10
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中