最新記事

貿易戦争

米欧の報復関税合戦で中国が得る「漁夫の利」

2018年6月11日(月)11時35分
キース・ジョンソン

ムニューシン米財務長官(左端)ほかトランプ政権の経済政策を担う閣僚たち Leeah Millis-REUTERS

<EUなどへの追加関税措置の決定で、アメリカは貿易戦争のうえで逆に不利になる>

トランプ米政権は5月末、「貿易上の不正行為」是正のため、カナダやメキシコ、EUから輸入する鉄鋼とアルミニウムに高関税を課すことを決めた。

3月にトランプ米大統領が中国などに対して追加関税を発表したが、この3カ国・地域は一時的に適用を除外されていた。それ以来、ぎりぎりの交渉が続いていたが、そのかいなく鉄鋼に25%、アルミに10%の追加関税が適用されることになった。

そもそも、この関税措置の狙いは世界的な鉄鋼の過剰生産解消にあった。供給がだぶついて安価になった輸入鉄鋼がアメリカなど先進国を席巻する問題が生じていたからだ。その意味で今回の懲罰的関税は、世界の鉄鋼生産の半分を占め、供給過剰を招いた張本人である中国に打撃を与えないという、的外れな措置だ。カナダなど3カ国・地域の生産量は合わせても12%余りにすぎない。

それどころか中国は追加関税が適用される4月になっても、鉄鋼生産を前年比5%近く増加。トランプ政権の保護主義政策が市場に逼迫感を与えたのか、中国の鉄鋼輸出も増えている。この状況を放置したまま、アメリカの緊密な貿易相手国であるカナダなどに強硬な措置を取るようでは、国際協調が欠かせない供給過剰対策が難しくなる。

しかもアメリカの強硬姿勢はEUなどに中国との経済関係強化へと促す可能性があると、ミッキー・カンター元米通商代表は言う。「アメリカが強硬になり制裁まで行うようになれば、アメリカの主要貿易国は中国に近づくしか手がなくなる」

特にEUとの外交関係が困難になるかもしれない。例えば、アメリカのイラン制裁再開にEUは猛反発している。関税問題で米欧関係がさらに悪化すれば、核問題について共通の利益を見いだすのはなおさら難しくなる。

予測不可能から大混乱へ

トランプ政権は「不公正貿易」への対抗策として、冷戦時代の古い法律を持ち出した。国家安全保障の脅威と見なされる輸入品に高関税を課すという法律だ。だが米鉄鋼業界が壊滅したわけではないし、国防に必要な生産量なら自国で十分賄える。それでもあえて関税措置を発動し、同じく安全保障上の脅威を理由として輸入車にさえ高関税を検討しているという。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

欧州・ウクライナの米提案修正、和平の可能性高めず=

ワールド

ウクライナ協議は「生産的」、ウィットコフ米特使が評

ビジネス

米クリーブランド連銀総裁、今後数カ月の金利据え置き

ビジネス

再送-〔アングル〕日銀、追加利上げへ慎重に時機探る
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:教養としてのBL入門
特集:教養としてのBL入門
2025年12月23日号(12/16発売)

実写ドラマのヒットで高まるBL(ボーイズラブ)人気。長きにわたるその歴史と深い背景をひもとく

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「食べ方の新方式」老化を防ぐなら、食前にキャベツよりコンビニで買えるコレ
  • 2
    【過労ルポ】70代の警備員も「日本の日常」...賃金低く、健康不安もあるのに働く高齢者たち
  • 3
    待望の『アバター』3作目は良作?駄作?...人気シリーズが直面した「思いがけない批判」とは?
  • 4
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦…
  • 5
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出…
  • 6
    懲役10年も覚悟?「中国BL」の裏にある「検閲との戦…
  • 7
    米空軍、嘉手納基地からロシア極東と朝鮮半島に特殊…
  • 8
    週に一度のブリッジで腰痛を回避できる...椎間板を蘇…
  • 9
    【実話】学校の管理教育を批判し、生徒のため校則を…
  • 10
    【銘柄】資生堂が巨額赤字に転落...その要因と今後の…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入ともに拡大する「持続可能な」貿易促進へ
  • 4
    【実話】学校の管理教育を批判し、生徒のため校則を…
  • 5
    「最低だ」「ひど過ぎる」...マクドナルドが公開した…
  • 6
    ミトコンドリア刷新で細胞が若返る可能性...老化関連…
  • 7
    自国で好き勝手していた「元独裁者」の哀れすぎる末…
  • 8
    「食べ方の新方式」老化を防ぐなら、食前にキャベツ…
  • 9
    空中でバラバラに...ロシア軍の大型輸送機「An-22」…
  • 10
    身に覚えのない妊娠? 10代の少女、みるみる膨らむお…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした「信じられない」光景、海外で大きな話題に
  • 4
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 5
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 6
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入と…
  • 7
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで…
  • 8
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出…
  • 9
    健康長寿の鍵は「慢性炎症」にある...「免疫の掃除」…
  • 10
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中