最新記事

北朝鮮情勢

トランプみごと!──金正恩がんじがらめ、習近平タジタジ

2018年5月29日(火)18時00分
遠藤誉(東京福祉大学国際交流センター長)

こうして金正恩をまず、「がんじがらめにする」ことに、トランプは成功した。

習近平をも身動きできないようにしたトランプの「すご腕」!

こうなると、習近平としては、もう何もできない。自ら積極的に「さあ、北京にいらっしゃい」とは言えないのである。

「中国のせい」ではないことを知りながら、あえて「中国のせい」にしたトランプ!

ただ者ではない。

おまけに5月26日の今年に入ってから第2回目の南北首脳会談のあと、文在寅大統領は米朝首脳会談のあと「南北米」で朝鮮戦争の終戦協定に入ってもいいと27日に言った。

となると、朝鮮戦争で最も多くの兵士を参戦させ、また多くの犠牲者を出した中国は、その終戦協定という平和体制への移行に発言力を持てなくなってしまう。

しかし「米朝は対話のテーブルに着け」と言い続けてきたのは中国だ。

今まさにそのテーブルに着こうとしているのだから、中国としては文句が言える筋合いではない。

こうしてトランプは、習近平の口をも閉ざさせてしまったのである。

これが十分に練り上げた戦略として編み出されたものか、あるいはトランプのビジネスマンとしての「勘」が、結果的にここまで行ってしまったのかは、わからない。いずれにしても、トランプの圧勝だ。

金正恩がアメリカを選ぶ可能性

もしトランプが北朝鮮の「完全な非核化の程度」に満足して莫大な経済支援をしたとすれば、金正恩なら、「習近平からトランプに乗り換える」くらいのことは、やるかもしれない。

北朝鮮にとって中国は「1000年の宿敵」だ。

どんなに中朝軍事同盟があり、中朝蜜月を演じたとしても、それはアメリカへの威嚇であって、その威嚇が必要となくなれば、中国は「いざという時の後ろ盾」程度の位置づけになり、存在感を失うだろう。

北朝鮮は「中国の覇権」を抑え込む駒

こうして、「中国の覇権」を抑え込むために、トランプは十分に金正恩という駒を駆使しているのかもしれない。

『習近平vs.トランプ  世界を制するのは誰か』――。

筆者はこの視点で北朝鮮問題を追いかけてきたが、ここに来て、「トランプの圧勝」に気が付き、圧倒されている。


endo-progile.jpg[執筆者]遠藤 誉
1941年中国生まれ。中国革命戦を経験し1953年に日本帰国。東京福祉大学国際交流センター長、筑波大学名誉教授、理学博士。中国社会科学院社会科学研究所客員研究員・教授などを歴任。著書に『習近平vs.トランプ 世界を制するのは誰か』(飛鳥新社)『毛沢東 日本軍と共謀した男』(中文版も)『チャイナ・セブン <紅い皇帝>習近平』『チャイナ・ナイン 中国を動かす9人の男たち』『ネット大国中国 言論をめぐる攻防』など多数。

※当記事はYahoo!ニュース 個人からの転載です。

この筆者の記事一覧はこちら≫

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

中国人民銀、一部銀行の債券投資調査 利益やリスクに

ワールド

香港大規模火災、死者159人・不明31人 修繕住宅

ビジネス

ECB、イタリアに金準備巡る予算修正案の再考を要請

ビジネス

トルコCPI、11月は前年比+31.07% 予想下
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:日本時代劇の挑戦
特集:日本時代劇の挑戦
2025年12月 9日号(12/ 2発売)

『七人の侍』『座頭市』『SHOGUN』......世界が愛した名作とメイド・イン・ジャパンの新時代劇『イクサガミ』の大志

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    人生の忙しさの9割はムダ...ひろゆきが語る「休む勇気」
  • 2
    大気質指数200超え!テヘランのスモッグは「殺人レベル」、最悪の環境危機の原因とは?
  • 3
    トランプ支持率がさらに低迷、保守地盤でも民主党が猛追
  • 4
    日本酒の蔵元として初の快挙...スコッチの改革に寄与…
  • 5
    イスラエル軍幹部が人生を賭けた内部告発...沈黙させ…
  • 6
    7歳の息子に何が? 学校で描いた「自画像」が奇妙す…
  • 7
    コンセントが足りない!...パナソニックが「四隅配置…
  • 8
    【クイズ】日本で2番目に「ホタテの漁獲量」が多い県…
  • 9
    若者から中高年まで ── 韓国を襲う「自殺の連鎖」が止…
  • 10
    海底ケーブルを守れ──NATOが導入する新型水中ドロー…
  • 1
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで墜落事故、浮き彫りになるインド空軍の課題
  • 2
    7歳の息子に何が? 学校で描いた「自画像」が奇妙すぎた...「心配すべき?」と母親がネットで相談
  • 3
    【最先端戦闘機】ミラージュ、F16、グリペン、ラファール勢ぞろい ウクライナ空軍は戦闘機の「見本市」状態
  • 4
    100年以上宇宙最大の謎だった「ダークマター」の正体…
  • 5
    【クイズ】次のうち、マウスウォッシュと同じ効果の…
  • 6
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 7
    128人死亡、200人以上行方不明...香港最悪の火災現場…
  • 8
    【寝耳に水】ヘンリー王子&メーガン妃が「大焦り」…
  • 9
    【クイズ】世界遺産が「最も多い国」はどこ?
  • 10
    【銘柄】関電工、きんでんが上昇トレンド一直線...業…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 3
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎の存在」がSNSで話題に、その正体とは?
  • 4
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」は…
  • 5
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 6
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸…
  • 7
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 8
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 9
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 10
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中