最新記事

朝鮮半島

在韓米軍の撤退はジレンマだらけ

2018年5月11日(金)16時20分
クリント・ワーク

在韓米軍は今でも、より広い枠組みの一部として位置付けられている。そこでは、日本の防衛と日米同盟関係がとりわけ重視されている。仮に米軍が韓国から撤退し、しかもそれが日本への配慮に欠ける形だった場合には、日本の軍事力増強の姿勢に拍車が掛かるかもしれない。

トランプは、日韓両国が核兵器を開発しても構わないという軽率な発言もしている。仮に日本が軍備を強化すれば、中国の軍事的な野望や国防費の支出にも弾みがつくだろう。

指揮系統をめぐる葛藤

トランプは、バラク・オバマ前米大統領の「アジア回帰」政策を、自らの「自由で開かれたインド太平洋」戦略に塗り替えた。その際トランプの頭にあったのは、覇権を狙う中国の野心だ。在韓米軍は、そんな広域の軍事力バランスの一要素なのだ。

国外の米軍基地として世界最大となる韓国の京畿道平沢のハンフリーズ陸軍駐屯地は、既に完成に近づいている。アメリカに朝鮮半島への関与を解消したいという願望があるとしても、その一方には中国の拡張主義に対抗したいという考えもある。

南北間で平和協定が成立すれば、現在の国連軍、あるいは国連軍が担う休戦協定の維持という責務は消滅する。それでもカーター時代に平和協定締結に反対した勢力が見越していたように、駐留軍を指揮する軍人は国連軍の指揮系統における統制の弱体化や矛盾に直面するだろう。

南北関係が穏やかになり、それに伴って駐留米軍が縮小されれば、韓国軍の指揮系統における責任は拡大する。戦時における自国軍の作戦統制権を取り戻すことになるからだ。

そこでトランプはどう出るのか。完全に米韓同盟を解消するのでもない限り、米軍は韓国軍の作戦統制下に入る可能性がある。その点を議会や国民にどう納得させるのか。

軍隊の作戦準備を整えるには、統一された指揮系統が必要だ。果たしてトランプは、米軍の将軍が韓国軍将校の副官になる構図を受け入れるだろうか。

受け入れないなら、トランプは日本などの同盟国から強い反発を招く。韓国に対して歴史的な調整を要請することにもなる。韓国は独立国でありながら、侵攻されて滅びかけた1年間を例外として、米軍に守られるという状態しか経験していない。

トランプもその他の関係者も、まず平和への努力に傾注するかもしれない。その場合は段階的に、米軍撤退は時間をかけて実現へ向かう。

北朝鮮の指導部は、韓国側と対等の立場で協議することに前向きなようだ。韓国政府の正統性を認めることを拒んだ時期に比べれば、平和な状況だ。

ただこれらは全て、駐留米軍をめぐるジレンマを解決するための時間稼ぎでしかない。答えを出す方向に動くか否かは、あくまでトランプ政権次第だ。

From Foreign Policy Magazine

本誌2018年5月15日号[最新号]掲載

ニューズウィーク日本版 高市早苗研究
※画像をクリックすると
アマゾンに飛びます

2025年11月4日/11日号(10月28日発売)は「高市早苗研究」特集。課題だらけの日本の政治・経済・外交を初の女性首相はこう変える

※バックナンバーが読み放題となる定期購読はこちら



今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

フィリピン、大型台風26号接近で10万人避難 30

ワールド

再送-米連邦航空局、MD-11の運航禁止 UPS機

ワールド

アングル:アマゾン熱帯雨林は生き残れるか、「人工干

ワールド

アングル:欧州最大のギャンブル市場イタリア、税収増
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:高市早苗研究
特集:高市早苗研究
2025年11月 4日/2025年11月11日号(10/28発売)

課題だらけの日本の政治・経済・外交を初の女性首相はこう変える

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 2
    「座席に体が収まらない...」飛行機で嘆く「身長216cmの男性」、前の席の女性が取った「まさかの行動」に称賛の声
  • 3
    『プレデター: バッドランド』は良作?駄作?...批評家たちのレビューは「一方に傾いている」
  • 4
    筋肉を鍛えるのは「食事法」ではなく「規則」だった.…
  • 5
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 6
    「路上でセクハラ」...メキシコ・シェインバウム大統…
  • 7
    クマと遭遇したら何をすべきか――北海道80年の記録が…
  • 8
    「非人間的な人形」...数十回の整形手術を公表し、「…
  • 9
    レイ・ダリオが語る「米国経済の危険な構造」:生産…
  • 10
    【銘柄】元・東芝のキオクシアHD...生成AIで急上昇し…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎の存在」がSNSで話題に、その正体とは?
  • 3
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 4
    9歳女児が行方不明...失踪直前、防犯カメラに映った…
  • 5
    「日本のあの観光地」が世界2位...エクスペディア「…
  • 6
    「遺体は原型をとどめていなかった」 韓国に憧れた2…
  • 7
    虹に「極限まで近づく」とどう見える?...小型機パイ…
  • 8
    「座席に体が収まらない...」飛行機で嘆く「身長216c…
  • 9
    『プレデター: バッドランド』は良作?駄作?...批評…
  • 10
    「路上でセクハラ」...メキシコ・シェインバウム大統…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 3
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 4
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 5
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号…
  • 6
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 7
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 8
    【クイズ】日本でツキノワグマの出没件数が「最も多…
  • 9
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以…
  • 10
    悲しみで8年間「羽をむしり続けた」オウム...新たな…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中