最新記事

インドネシア

イスラム急進派がLGBTを暴行・脅迫 ムスリムへ敬意を強要される断食月のインドネシア

2018年5月29日(火)19時00分
大塚智彦(PanAsiaNews)

イスラム急進派FPIは断食月を錦の御旗に人権侵害を行っている。Sang Kalatalisator / YouTube

世界最大のイスラム教徒人口を擁するインドネシアは今、5月17日から始まった断食月の真最中で敬虔なイスラム教徒は静かに自らの信仰と向き合っている。

しかし一部のイスラム急進派組織などは「非イスラム教徒も断食中のイスラム教徒に敬意を払え」と主張。同じイスラム教徒に対しても「信仰と正義」を振りかざして人権侵害を犯している。そうした現場には警察官が駆けつけるものの、人権侵害を黙認している様子がネットに流れ、インドネシアの国是である「多様性の中の統一」や「寛容の心」が問われる事態となっている。

女装男性を平手打ちして脅迫

5月28日までにソーシャル・ネットワークの「フェイスブック(FB)」にアップされた動画は、ジャワ島西ジャワ州チアンジュールのチラク地区の民家でイスラム教徒の市民団体やイスラム急進派「イスラム擁護戦線(FPI)」のロゴ入りの帽子を被った男性多数が、女装して化粧をした男性を捕らえ、平手打ちにする様子が映っている(FBの動画はその後削除された)。


イスラム急進派FPIがLGBTの人びとを恫喝している様子。 Sang Kalatalisator / YouTube

民家の中からさらに女装した男性3人が引き出され、小突かれながら家の前に座らされる様子がわかる。画面の隅には制服姿の警察官が映っているが、こうした行為を止める訳でもなく、ただ静観している。

そもそもこの日、FPIのメンバーたちは彼らにとって「聖なるイスラム教の行事である断食(ラマダン)中」の町を巡回、チェックすることが目的だったという。

このために日中から営業している飲食店やアルコール飲料の販売、(夜に使用する)花火の日中の使用などを「点検」して「健全な断食」を確認していた。

彼らの主張は「非イスラム教徒もイスラム教徒も我々の断食に敬意を示すべきだ」で、イスラム教を「錦の御旗」のように掲げて、飲食店の営業を脅したり、警察官のように捜索したりとやりたい放題だった。

そして「女装の男性」を見つけて槍玉に挙げたのだ。
「地獄へ行きたいのか、天国に行きたいのか? 天国に行きたいなら男は男らしくしろ」「イスラム教徒なのか」など言葉で脅迫し、平手打ちにするなどの暴力行為に及んだ。

その後4人はイスラム教の文言を唱えさせられたり、女装を今後しないことを約束させられたりした。さらに化粧を落とすためにと、顔面に水をかけられたという。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

欧州委、内燃エンジン車販売禁止撤回提案へ 独メーカ

ワールド

タイ、カンボジアへの燃料輸出遮断を検討 米仲介後も

ワールド

次期米大統領専用機、納入再び遅延 当初予定から4年

ワールド

米南方軍司令官が退任、「麻薬密輸船」攻撃巡りヘグセ
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:ジョン・レノン暗殺の真実
特集:ジョン・レノン暗殺の真実
2025年12月16日号(12/ 9発売)

45年前、「20世紀のアイコン」に銃弾を浴びせた男が日本人ジャーナリストに刑務所で語った動機とは

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    【銘柄】資生堂が巨額赤字に転落...その要因と今後の展望。本当にトンネルは抜けたのか?
  • 2
    香港大火災の本当の原因と、世界が目撃した「アジアの宝石」の終焉
  • 3
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 4
    南京事件を描いた映画「南京写真館」を皮肉るスラン…
  • 5
    極限の筋力をつくる2つの技術とは?...真の力は「前…
  • 6
    身に覚えのない妊娠? 10代の少女、みるみる膨らむお…
  • 7
    トランプが日中の「喧嘩」に口を挟まないもっともな…
  • 8
    大成功の東京デフリンピックが、日本人をこう変えた
  • 9
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出…
  • 10
    世界最大の都市ランキング...1位だった「東京」が3位…
  • 1
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だから日本では解決が遠い
  • 2
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出を睨み建設急ピッチ
  • 3
    デンマーク国防情報局、初めて米国を「安全保障上の脅威」と明記
  • 4
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 5
    【銘柄】資生堂が巨額赤字に転落...その要因と今後の…
  • 6
    【クイズ】「100名の最も偉大な英国人」に唯一選ばれ…
  • 7
    中国軍機の「レーダー照射」は敵対的と、元イタリア…
  • 8
    人手不足で広がり始めた、非正規から正規雇用へのキ…
  • 9
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」…
  • 10
    首や手足、胴を切断...ツタンカーメンのミイラ調査開…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸送機「C-130」謎の墜落を捉えた「衝撃映像」が拡散
  • 3
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした「信じられない」光景、海外で大きな話題に
  • 4
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 5
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 6
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 7
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 8
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 9
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで…
  • 10
    ポルノ依存症になるメカニズムが判明! 絶対やって…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中