最新記事

医療

お手軽な新生児DNA検査に潜む危険

2018年5月23日(水)15時30分
メリッサ・マシューズ

新生児のDNA検査が病気の早期発見・治療につながるとは限らない Tom & Dee Ann McCarthy-Corbis/GETTY IMAGES

<病気を早期発見できるDNA検査が普及してきたが、対象疾患の数が多過ぎると不要な治療につながる恐れも>

近年、アメリカでは自らの民族的・遺伝的背景を探るのに、家庭でできる比較的安価なDNA検査が浸透しつつある。そんななか、新たに登場して一部で物議を醸しているのがSema4社の新生児向けDNA検査キットだ。

このキットで新生児の遺伝子を調べると193の疾患のリスクが分かり、早期発見・治療につながる場合もあるという。だが、遺伝学者らはこの検査結果が事態を複雑化させることを懸念している。

現在アメリカでは、嚢胞性線維症や鎌状赤血球症などの疾患について全ての新生児にスクリーニング検査が行われている。対象となる疾患の数は州によって31~60と開きがあるが、米国立衛生研究所(NIH)によれば32の疾患を対象としている州が多い。

Sema4は、それをはるかに超える193の疾患に関連する変異の可能性を探る。両親は自らと新生児のサンプルを送付。2週間以内に結果を受け取る。

サラ・ローレンス大学の遺伝カウンセラー、ローラ・ハーチャーは、Sema4の検査が適切なものかは詳細が分からずコメントできないとしつつ、新生児スクリーニング全般については、情報が多いほどより多くの問題を招く可能性があると指摘する。「一部の人々にとっては不必要な治療につながる可能性がある」

コロンビア大学医療センターのエレイン・ペレイラ助教は、子供がてんかんなど特定の疾患にかかりやすいと判明したからといって、それが「100%病気に発展するとは限らない」と言う。

そもそも正確性に疑問

ハーチャーも新生児スクリーニングは必要だと断言する一方、対象を広げ過ぎるべきではないと主張する。標準的な検査では医療現場での理解が進んだ一般的な数十の疾患が対象だが、193の疾患となると、その多くが非常にまれなもの。その上、Sema4の検査は649ドルと高額で保険適用外だ。

一方で、一般的な家庭用DNA検査の正確性に疑問を投げ掛ける研究も登場した。4月にネイチャー誌に掲載された研究によれば、さまざまな企業が提供するこの手の検査で陽性と指摘された疾患の40%が不正確だった可能性がある。

この研究では、アンブリー・ジェネティクス社の研究者が「消費者向け直販」DNA検査を受けた49人を調査し、その結果と、より詳細で高額な遺伝子検査の結果を比較した。すると最初のDNA検査で通知された遺伝子変異のうち、詳細な検査でも確認されたのは60%にとどまったという。

新生児のDNA検査を自宅で手軽に受けられると言われたら、親としては気になるもの。だが、検査の選択は正しいか、検査結果にどう対応するか、そもそも検査を受ける必要があるのか、両親は慎重に判断したほうがいいかもしれない。

[2018年5月22日号掲載]

ニューズウィーク日本版 教養としてのBL入門
※画像をクリックすると
アマゾンに飛びます

2025年12月23日号(12月16日発売)は「教養としてのBL入門」特集。実写ドラマのヒットで高まるBL(ボーイズラブ)人気の歴史と背景をひもとく/日米「男同士の愛」比較/権力と戦う中華BL/まずは入門10作品

※バックナンバーが読み放題となる定期購読はこちら


今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

日中双方と協力可能、バランス取る必要=米国務長官

ビジネス

マスク氏のテスラ巨額報酬復活、デラウェア州最高裁が

ワールド

米、シリアでIS拠点に大規模空爆 米兵士殺害に報復

ワールド

エプスタイン文書公開、クリントン元大統領の写真など
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:教養としてのBL入門
特集:教養としてのBL入門
2025年12月23日号(12/16発売)

実写ドラマのヒットで高まるBL(ボーイズラブ)人気。長きにわたるその歴史と深い背景をひもとく

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「最低だ」「ひど過ぎる」...マクドナルドが公開したAI生成のクリスマス広告に批判殺到
  • 2
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入ともに拡大する「持続可能な」貿易促進へ
  • 3
    懲役10年も覚悟?「中国BL」の裏にある「検閲との戦い」...ドラマ化に漕ぎ着けるための「2つの秘策」とは?
  • 4
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦…
  • 5
    中国最強空母「福建」の台湾海峡通過は、第一列島線…
  • 6
    待望の『アバター』3作目は良作?駄作?...人気シリ…
  • 7
    おこめ券、なぜここまで評判悪い? 「利益誘導」「ム…
  • 8
    ゆっくりと傾いて、崩壊は一瞬...高さ35mの「自由の…
  • 9
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 10
    ロシア、北朝鮮兵への報酬「不払い」疑惑...金正恩が…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入ともに拡大する「持続可能な」貿易促進へ
  • 4
    【実話】学校の管理教育を批判し、生徒のため校則を…
  • 5
    「最低だ」「ひど過ぎる」...マクドナルドが公開した…
  • 6
    ミトコンドリア刷新で細胞が若返る可能性...老化関連…
  • 7
    自国で好き勝手していた「元独裁者」の哀れすぎる末…
  • 8
    【銘柄】資生堂が巨額赤字に転落...その要因と今後の…
  • 9
    香港大火災の本当の原因と、世界が目撃した「アジア…
  • 10
    身に覚えのない妊娠? 10代の少女、みるみる膨らむお…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした「信じられない」光景、海外で大きな話題に
  • 4
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 5
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 6
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 7
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 8
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入と…
  • 9
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸…
  • 10
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中