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北朝鮮、中朝共同戦線で戦う──「紅い団結」が必要なのは誰か?

2018年4月12日(木)12時00分
遠藤誉(東京福祉大学国際交流センター長)

2012年11月の第18回党大会で胡錦濤前総書記も、新しく選ばれた習近平総書記も、口を揃えて「腐敗を撲滅しなければ党が滅び、国が滅ぶ」と叫んだ。二人ともその危機感を強く抱いていたのだ。

だからこそ胡錦濤は全ての権力を習近平に移譲して習近平政権が強固な地盤を持ち、腐敗撲滅運動を断行できるように協力した。その結果、「ハエも虎も同時に叩く」というスローガンの下に激しい反腐敗運動を習近平は展開してきた。しかし腐敗の蔓延度は底なしで、このままでは中国共産党は一党支配を維持することはできない。

そのため習近平は国家主席の任期制限を撤廃し、絶大な権力を手にして、「社会主義思想」を、まるで1949年の新中国誕生時のように真っ赤に燃え上がらせたのである。これができるのは「紅い血」を引いた習近平以外に今ではいない。習近平の父親、習仲勲(しゅう・ちゅうくん)は延安で毛沢東と共に戦った革命第一世代。

この「紅さ」を強めるには、元共産主義国家の牙城であった旧ソ連が崩壊して新たに誕生したロシアと親密になり、北朝鮮という、未だに社会主義思想を堅持している国家を味方に付けておかなければならない。ロシアのプーチンは「紅い国家」の独裁的遺伝子をそこはかとなくまとっており、長期政権を狙っている。その意味で中国もロシアも北朝鮮も、「紅い」あるいは「紅みがかった」独裁的な長期政権の国家だ。

「習近平新時代の中国の特色ある社会主義思想」を党規約に盛り込んだ習近平には今、この「紅い団結」が何としても必要なのである。だから、これまで中国を「1000年の宿敵」などと罵倒する無礼の極みを続けてきた「若造」(金正恩)に百歩譲歩した。

習近平の手の上ではしゃぐ金正恩

北朝鮮と中国の首脳が会談を行なわなくなったのは、中国が北朝鮮にとっての最大の敵国であるアメリカと新型大国関係などを築こうとしていたからだ。しかし北朝鮮も、そのアメリカと首脳会談を行なう方向に動こうとしているのだから、中国としては北朝鮮を手なずけやすくなってきた。

「社会主義思想」の政党間の絆を堅固にさせていくことによって、習近平思想を強化し、中国共産党による一党支配体制を、より盤石にしたい。

それが、習近平が最も高いレベルに位置付けている目標であり、戦略なのである。

その目的を果たすために、金正恩に「中朝共同戦線」を張らせた。

習近平にとって金正恩は、一党支配体制を維持するためのコマの一つなのだ。金正恩ははしゃいでいるが、習近平の手の上で踊っているに過ぎないのではないだろうか。


endo-progile.jpg[執筆者]遠藤 誉
1941年中国生まれ。中国革命戦を経験し1953年に日本帰国。東京福祉大学国際交流センター長、筑波大学名誉教授、理学博士。中国社会科学院社会科学研究所客員研究員・教授などを歴任。著書に『習近平vs.トランプ 世界を制するのは誰か』(飛鳥新社)『毛沢東 日本軍と共謀した男』(中文版も)『チャイナ・セブン <紅い皇帝>習近平』『チャイナ・ナイン 中国を動かす9人の男たち』『ネット大国中国 言論をめぐる攻防』など多数。

※当記事はYahoo!ニュース 個人からの転載です。

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