最新記事

感染症

風邪に「機内で感染」は心配無用?

2018年4月10日(火)18時00分
カシュミラ・ガンダー

2015年に中東呼吸器症候群(MERS)が流行した韓国では感染予防のためにマスクをする搭乗客の姿が Kim Hong-Ji-REUTERS

<同じ機内でも席が離れていれば風邪をうつされにくいという研究結果が出たが>

大勢の乗客と長時間一緒に過ごさなければならない航空機の中は、最も風邪をうつされやすそうな場所の1つ。密室なので、少し離れた席でも咳をしている人がいると気が気ではない。

しかし米国科学アカデミー紀要に発表された新たな研究によれば、平均的な乗客が機内で風邪をうつされる確率は比較的低いという。

米エモリー大学などの研究者らは、飛行時間が3.5~5時間のアメリカ国内線10便で調査を実施。乗客1540人、乗務員41人のフライト中の動向を記録した。さらに機内の空気や内装の表面などから229のサンプルを採取し、18の一般的な呼吸器系ウイルスについて調べた。

その結果、風邪をひいている人の左右それぞれ2座席以内、前後1列以内に座った乗客は、呼吸器系の感染症にかかるリスクが約80%に上った。しかし、それ以外の人の場合は3%未満だった。「5列後ろの人が咳をしていても、心配する必要はない」と、研究を率いた米エモリー大学のビッキー・ヘルツバーグ教授は語った。

とはいえ、安心するのは早い。今回の調査で考慮の対象となったのは、咳やくしゃみで広まるウイルスのみ。また国際線などの長距離フライトでは、乗客や乗務員が動き回る機会も増えるので、さらなる研究が必要だ。

ランカスター大学の講師デレク・ギャザラーは、機内の空気の流れは複雑で、モデル化するのが非常に難しいと指摘する。未解明な部分が多い現状では、離れた席の人が本当に安全かどうかは分からない。

ウイルスで汚染された内装や備品を掃除しなかった場合、次のフライトに乗った人が感染するリスクもあるかもしれない。プラスチック製の表面に付着したウイルスは、24~48時間潜伏する可能性があるという。

できるだけ感染から逃れたいなら、自分の席から極力動かないほうがいいだろう(近くに風邪の人がいる場合は別だが)。具合の悪そうな乗務員から手渡されたものにも、触らないほうが無難かもしれない。

「さらなる自衛策は、除菌シートや除菌ジェルを携帯して、自分が触れる場所をきれいにすること。そして食事の前にはせっけんで手を洗う」と英アングリア・ラスキン大学の講師クリストファー・オケインは言う。

そして、地味だが最強の味方、マスクとうがいも忘れずに。

[2018年4月10日号掲載]

ニューズウィーク日本版 教養としてのBL入門
※画像をクリックすると
アマゾンに飛びます

2025年12月23日号(12月16日発売)は「教養としてのBL入門」特集。実写ドラマのヒットで高まるBL(ボーイズラブ)人気の歴史と背景をひもとく/日米「男同士の愛」比較/権力と戦う中華BL/まずは入門10作品

※バックナンバーが読み放題となる定期購読はこちら


今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

ベネズエラ沖で2隻目の石油タンカー拿捕、米が全面封

ワールド

トランプ氏関連資料、司法省サイトから削除か エプス

ワールド

北朝鮮、日本の核兵器への野心「徹底抑止」すべき=K

ワールド

米、3カ国高官会談を提案 ゼレンスキー氏「成果あれ
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:教養としてのBL入門
特集:教養としてのBL入門
2025年12月23日号(12/16発売)

実写ドラマのヒットで高まるBL(ボーイズラブ)人気。長きにわたるその歴史と深い背景をひもとく

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    懲役10年も覚悟?「中国BL」の裏にある「検閲との戦い」...ドラマ化に漕ぎ着けるための「2つの秘策」とは?
  • 2
    待望の『アバター』3作目は良作?駄作?...人気シリーズが直面した「思いがけない批判」とは?
  • 3
    「食べ方の新方式」老化を防ぐなら、食前にキャベツよりコンビニで買えるコレ
  • 4
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦…
  • 5
    「何度でも見ちゃう...」ビリー・アイリッシュ、自身…
  • 6
    70%の大学生が「孤独」、問題は高齢者より深刻...物…
  • 7
    香港大火災の本当の原因と、世界が目撃した「アジア…
  • 8
    中国最強空母「福建」の台湾海峡通過は、第一列島線…
  • 9
    ロシア、北朝鮮兵への報酬「不払い」疑惑...金正恩が…
  • 10
    ウクライナ軍ドローン、クリミアのロシア空軍基地に…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入ともに拡大する「持続可能な」貿易促進へ
  • 4
    【実話】学校の管理教育を批判し、生徒のため校則を…
  • 5
    「最低だ」「ひど過ぎる」...マクドナルドが公開した…
  • 6
    ミトコンドリア刷新で細胞が若返る可能性...老化関連…
  • 7
    自国で好き勝手していた「元独裁者」の哀れすぎる末…
  • 8
    香港大火災の本当の原因と、世界が目撃した「アジア…
  • 9
    【銘柄】資生堂が巨額赤字に転落...その要因と今後の…
  • 10
    身に覚えのない妊娠? 10代の少女、みるみる膨らむお…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした「信じられない」光景、海外で大きな話題に
  • 4
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 5
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 6
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 7
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入と…
  • 8
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで…
  • 9
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出…
  • 10
    ポルノ依存症になるメカニズムが判明! 絶対やって…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中