最新記事

北朝鮮

金正恩「厳戒」訪中の理由...周辺で過去に起きた「暗殺計画」

2018年3月28日(水)10時50分
高英起(デイリーNKジャパン編集長/ジャーナリスト) ※デイリーNKジャパンより転載

金正恩訪中を報じた中国中央電視台のニュース画像 CCTV-REUTERS

北朝鮮の金正恩党委員長が26日から専用列車で北京を訪問し、27日までに複数の中国共産党の指導者と会談したことが各メディアの取材で明らかになった。韓国のデイリーNKは25日までに、北朝鮮と国境を接する遼寧省丹東市の鉄道駅での異変を察知し、翌日にはいち早くこの動きを報じた。

また、続いて北京でも中国当局が厳戒態勢を敷いていることが明らかになり、いよいよ金正恩氏訪中の可能性が濃厚となった。

鉄道で「大爆発」事故

こうした動きを追う上で、参考になったのが中国版ツイッターの微博(ウェイボー)で出回っていた現地情報だ。とくに中国の鉄道各駅が微博で発信する遅延情報は、中朝国境から北京へ向かう特別列車の動線を浮き彫りにした。

しかしそれも、間もなく発信されなくなり、過去の情報も削除された。理由は言うまでもなく、金正恩氏の身の安全を図るためだ。

金正恩氏は、北朝鮮における独裁権力を盤石なものにしたように見える。しかし過去には、彼の身の周りで不可解な出来事も起きている。これは、父親の金正日総書記も同じだった。

2004年春、やはり特別列車で中国を訪問した金正日氏の帰路上の駅で、半径数百メートル以内にある8千棟の建物が吹き飛び、包括的核実験禁止条約機構の地震波データが小型原爆並みの衝撃を感知するほどの大爆発が起きた。この出来事はいまもって、「暗殺計画」の可能性をはらむミステリーとして語られている。

参考記事:1500人死傷に8千棟が吹き飛ぶ...北朝鮮「謎の大爆発」事故

また、金正恩氏の時代になってからは2015年10月初め、北朝鮮の葛麻(カルマ)飛行場で、同氏の視察前日に大量の爆薬が見つかったと米政府系のラジオ・フリー・アジアが報じている。建物の天井裏から発見されたのは、TNT火薬20キロ。手榴弾なら130個分以上になり、通りがかった人の「爆殺」を狙うのに十分な量に思える。

さらに東京新聞は2017年4月2日付の朝刊で、北朝鮮で金正恩党委員長の暗殺が計画され、未遂に終わったと報じている。

同紙によれば、北朝鮮で36年ぶりに朝鮮労働党大会が開催された昨年5月、秘密警察・国家安全保衛部(現・国家保衛省)の地方組織が実施した一部住民に対する講演で、正恩氏の専用列車の爆破計画が党大会前にあり、未遂に終わったと報告していた。事件の具体的な時期、容疑者の氏名は明らかにされていないという。

最近ではあまり語られることがなくなったが、北朝鮮でも何度かクーデター未遂が起きている。1992年には、軍のソ連留学組のエリートが中心となり、金日成・正日親子の暗殺を計画。1994年には朝鮮人民軍第6軍団が蜂起を計画したが、いずれも実行前に抑え込まれている。

世界最悪の監視国家である北朝鮮で、クーデターや指導者の暗殺計画を実行に移すのは簡単ではないし、成功する可能性も高くない。

しかし、金正恩氏がそれを警戒しているのは確かであり、相当なストレスの中で生きていくことを宿命づけられていると言える。

参考記事:金正恩氏が一般人と同じトイレを使えない訳

[筆者]
高英起(デイリーNKジャパン編集長/ジャーナリスト)
北朝鮮情報専門サイト「デイリーNKジャパン」編集長。関西大学経済学部卒業。98年から99年まで中国吉林省延辺大学に留学し、北朝鮮難民「脱北者」の現状や、北朝鮮内部情報を発信するが、北朝鮮当局の逆鱗に触れ、二度の指名手配を受ける。雑誌、週刊誌への執筆、テレビやラジオのコメンテーターも務める。主な著作に『コチェビよ、脱北の河を渡れ―中朝国境滞在記―』(新潮社)、『金正恩 核を持つお坊ちゃまくん、その素顔』(宝島社)、『北朝鮮ポップスの世界』(共著、花伝社)など。近著に『脱北者が明かす北朝鮮』(宝島社)。

※当記事は「デイリーNKジャパン」からの転載記事です。
dailynklogo150.jpg

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

韓国GDP、第1四半期は前期比+1.3%で予想上回

ビジネス

日経平均は反落で寄り付く、米金利高止まりを警戒

ワールド

メキシコ大統領選、与党シェインバウム氏が支持リード

ワールド

ウクライナ、国外在住男性のパスポート申請制限 兵員
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 2

    医学博士で管理栄養士『100年栄養』の著者が警鐘を鳴らす「おばけタンパク質」の正体とは?

  • 3

    「誹謗中傷のビジネス化」に歯止めをかけた、北村紗衣氏への名誉棄損に対する賠償命令

  • 4

    心を穏やかに保つ禅の教え 「世界が尊敬する日本人100…

  • 5

    マイナス金利の解除でも、円安が止まらない「当然」…

  • 6

    NewJeans日本デビュー目前に赤信号 所属事務所に親…

  • 7

    ワニが16歳少年を襲い殺害...遺体発見の「おぞましい…

  • 8

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 9

    ケイティ・ペリーの「尻がまる見え」ドレスに批判殺…

  • 10

    イランのイスラエル攻撃でアラブ諸国がまさかのイス…

  • 1

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 2

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価」されていると言える理由

  • 3

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた「身体改造」の実態...出土した「遺骨」で初の発見

  • 4

    「世界中の全機が要注意」...ボーイング内部告発者の…

  • 5

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士…

  • 6

    ハーバード大学で150年以上教えられる作文術「オレオ…

  • 7

    医学博士で管理栄養士『100年栄養』の著者が警鐘を鳴…

  • 8

    NewJeans日本デビュー目前に赤信号 所属事務所に親…

  • 9

    「たった1日で1年分」の異常豪雨...「砂漠の地」ドバ…

  • 10

    「毛むくじゃら乳首ブラ」「縫った女性器パンツ」の…

  • 1

    人から褒められた時、どう返事してますか? ブッダが説いた「どんどん伸びる人の返し文句」

  • 2

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 3

    88歳の現役医師が健康のために「絶対にしない3つのこと」目からうろこの健康法

  • 4

    ロシアの迫撃砲RBU6000「スメルチ2」、爆発・炎上の…

  • 5

    バルチック艦隊、自国の船をミサイル「誤爆」で撃沈…

  • 6

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 7

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 8

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 9

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 10

    1500年前の中国の皇帝・武帝の「顔」、DNAから復元に…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中