最新記事

核廃棄

史上初の米朝首脳会談、北朝鮮の悲願は米政権のリスクに

2018年3月17日(土)13時43分

北朝鮮への褒美

北朝鮮はこれまで、国際的な正当性を確保するために米国指導者との首脳会談を求めてきており、米政権側は、それが一因で、この要望を拒否してきたと、専門家は指摘する。

「首脳会談は、北朝鮮にとってはご褒美だ」と、韓国・釜山大のロバート・ケリー教授は指摘する。「世界最強かつ民主主義陣営を主導する国家元首と会うという栄誉を彼らに与えることになる。だからこそ、北朝鮮が意味ある譲歩をしない限り、実現されるべきではない。これまでの大統領たちが応じてこなかったのはそのためだ」

北朝鮮が核兵器を保有し、トランプ氏がこの撤去のために軍事攻撃が必要になる可能性に言及している今となっては、首脳会談が失敗した場合の代償はこれまでより大きくなると、専門家はみている。

金正恩氏は、「非核化にコミット」し、核とミサイルの実験を凍結すると話したと、韓国特使として訪米した鄭義溶・大統領府国家安全保障室長は8日、ホワイトハウスで記者団に明らかにした。だが北朝鮮は、まだ詳細を明らかにしていない。

「これまで米朝首脳会談が行われたことは一度もない。北朝鮮がすでに核兵器を手に入れた後で会談を行うことは、基本的にはそれを前提に米国は北朝鮮と交渉に臨む用意があるというシグナルを送ることになる」と、カーネギー清華グローバル政策センターの北朝鮮専門家、趙通氏は言う。

「たとえ首脳会談で何ら進展がなくても、北朝鮮は1つ目の目的を果たしたことになる」

米政府高官は、トランプ氏はこれまでの大統領とは違うアプローチを取ることを期待されて当選したと話す。

それには、過去に失敗したような実務レベルでの交渉を避け、「過去の長年の足踏み状態を繰り返す代わりに、決断できる人物である」金氏と会うことも含まれていると、この高官は言う。

2000年に北朝鮮の趙明禄(チョ・ミョンロク)国防委員会第一副委員長がホワイトハウスを訪問し、当時のクリントン大統領と面会した、北朝鮮初で最高位の高官となった。

その直後に、オルブライト国務長官(当時)が平壌を訪問。クリントン氏の訪朝の地ならしのため、金正恩氏の父の故金正日(キム・ジョンイル)総書記と会談した。だが、クリントン氏の訪朝は、在任中に実現しなかった。

オバマ米政権時代にも、北朝鮮高官らは米国との突破口を探ったが、米国側が外交的な譲歩を何も示さなかったため失望していたと、クラッパー元米国家情報長官は話している。

トランプ氏の強硬姿勢が首脳会談の機運を作ったと評価する専門家の中にも、今回は異なる結果を生むか注視していると話す人がいる。

「北朝鮮は、過去にもこういう発言をしている。金正日氏は、クリントン大統領に会いたがっていた」と、米シンクタンク「民主主義防衛基金」のマーク・デュボビッツ会長は言う。

「北朝鮮は、非核化に真剣にならなければいけない。一方で、トランプ政権は、5月の首脳会談に向けて厳しい制裁措置を続け、圧力を最大の状態に維持しておく必要がある」と、同氏は話した。

(翻訳:山口香子、編集:下郡美紀)

Josh Smith and David Brunnstrom

[ソウル/ワシントン 9日 ロイター]


120x28 Reuters.gif

Copyright (C) 2018トムソンロイター・ジャパン(株)記事の無断転用を禁じます

ニューズウィーク日本版 ハーバードが学ぶ日本企業
※画像をクリックすると
アマゾンに飛びます

2025年9月30日号(9月24日発売)は「ハーバードが学ぶ日本企業」特集。トヨタ、楽天、総合商社、虎屋……名門経営大学院が日本企業を重視する理由

※バックナンバーが読み放題となる定期購読はこちら



今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

日経平均は3日続伸、終値ベースの最高値更新 円安な

ビジネス

キリンビール、「東南アジア地域本社」設立 35年に

ビジネス

午後3時のドルは148円後半、3週間ぶり高値圏で戻

ワールド

台湾、超大型台風の死者数を14人に修正 行方不明3
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:ハーバードが学ぶ日本企業
特集:ハーバードが学ぶ日本企業
2025年9月30日号(9/24発売)

トヨタ、楽天、総合商社、虎屋......名門経営大学院が日本企業を重視する理由

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本の小説が世界で爆売れし、英米の文学賞を席巻...「文学界の異変」が起きた本当の理由
  • 2
    1年で1000万人が死亡の可能性...迫る「スーパーバグ」感染爆発に対抗できる「100年前に忘れられた」治療法とは?
  • 3
    コーチとグッチで明暗 Z世代が変える高級ブランド市場、売上を伸ばす老舗ブランドの戦略は?
  • 4
    【クイズ】ハーバード大学ではない...アメリカの「大…
  • 5
    クールジャパン戦略は破綻したのか
  • 6
    週にたった1回の「抹茶」で入院することに...米女性…
  • 7
    カミラ王妃のキャサリン妃への「いら立ち」が話題に.…
  • 8
    トランプの支持率さらに低下──関税が最大の足かせ、…
  • 9
    筋肉はマシンでは育たない...器械に頼らぬ者だけがた…
  • 10
    9月23日に大量の隕石が地球に接近していた...NASAは…
  • 1
    カミラ王妃のキャサリン妃への「いら立ち」が話題に...「少々、お控えくださって?」
  • 2
    数千円で買った中古PCが「宝箱」だった...起動して分かった驚きの中身
  • 3
    1年で1000万人が死亡の可能性...迫る「スーパーバグ」感染爆発に対抗できる「100年前に忘れられた」治療法とは?
  • 4
    「何だこれは...」クルーズ船の客室に出現した「謎の…
  • 5
    筋肉はマシンでは育たない...器械に頼らぬ者だけがた…
  • 6
    【動画あり】トランプがチャールズ英国王の目の前で…
  • 7
    日本の小説が世界で爆売れし、英米の文学賞を席巻...…
  • 8
    燃え上がる「ロシア最大級の製油所」...ウクライナ軍…
  • 9
    コーチとグッチで明暗 Z世代が変える高級ブランド市…
  • 10
    「ミイラはエジプト」はもう古い?...「世界最古のミ…
  • 1
    「4針ですかね、縫いました」日本の若者を食い物にする「豪ワーホリのリアル」...アジア出身者を意図的にターゲットに
  • 2
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?
  • 3
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影...目覚めた時の「信じがたい光景」に驚きの声
  • 4
    信じられない...「洗濯物を干しておいて」夫に頼んだ…
  • 5
    「中野サンプラザ再開発」の計画断念、「考えてみれ…
  • 6
    カミラ王妃のキャサリン妃への「いら立ち」が話題に.…
  • 7
    「我々は嘘をつかれている...」UFOらしき物体にミサ…
  • 8
    【クイズ】次のうち、飲むと「蚊に刺されやすくなる…
  • 9
    「怖すぎる」「速く走って!」夜中に一人ランニング…
  • 10
    東北で大腸がんが多いのはなぜか――秋田県で死亡率が…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中