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世界初、ブロックチェーン技術活用で不動産賃貸契約の情報システム

2018年3月9日(金)17時44分

 3月9日、積水ハウスは、ブロックチェーン技術を活用して不動産賃貸契約を実行する新たな「情報システム」を2018年夏以降に首都圏で稼働させる。不動産分野で同技術を駆使したシステムによる本格的なビジネス展開は、世界でも初めてとみられる。写真は都内で2016年9月撮影(2018年 ロイター/Toru Hanai)

積水ハウス<1928.T>は、ブロックチェーン技術を活用して不動産賃貸契約を実行する新たな「情報システム」を2018年夏以降に首都圏で稼働させる。不動産分野で同技術を駆使したシステムによる本格的なビジネス展開は、世界でも初めてとみられる。物件情報収集から入居契約まで手元のアプリで手続きが可能となり、コストや時間を大幅に削減できる。

同社はロイターの取材に対し、今回のシステム導入について、不動産取引の透明性や利便性を高めて市場の活性化を図り、将来的には提携先を拡大しながら、不動産業界における統一ネットワークを目指す方針を明らかにした。

一方、不動産物件の仲介業を行っている既存の業者は、手数料収入の減少などに直面し、位置付けが大幅に低下するリスクに直面しそうだ。

<煩雑な不動産手続き簡素化、市場拡大狙う>

同社では昨年4月からbitFlyerの開発によるブロックチェーン技術を活用し、物件検索から入居手続きまでアプリを通して従来より簡単に済ませることができるシステムを開発してきた。

現在、ほぼ自社の管理する物件情報をブロックチェーンに乗せるところまで進めており、実際の不動産契約における運用面の課題・導入計画などを現在検討中。

18年度中に首都圏でパイロット運用開始し、19年度をめどに順次、規模・エリアとも運用拡大、20年の本格運用を目指したいとしている。

積水ハウスの上田和巳・IT業務部長は、賃貸分野での同技術の活用について「不動産契賃貸契約がホテルを予約するような手軽さでできることを目指し、市場規模の拡大も期待している」と話す。

将来的には保険や銀行などとも連携し、入金や保険契約の手続きまで取り込むことを狙っている。

同社は「ブロックチェーン技術には互換性があり、グループ別に構築されても、相互連携は技術的には可能。最終的には、他業界や政府系も含め、複数のネットワークが連携しながら運用拡大するイメージを持っている」(広報)と説明する。

同社が、このシステム開発を計画した背景には、少子高齢化に伴う不動産需要も縮小がある。

すでに空き家の有効活用も大きな課題となっている中で、不動産流通市場の活性化は急務だ。現状の煩雑な契約慣行、不透明な土地建物取引の履歴のままでは、市場活性化は望めそうにない。

情報の更新が遅れがちなことや、書類の改変・紛失、物件の過去履歴の改ざんなどのリスクの存在もある。ブロックチェーンの活用は、それらの「短所」を修正するプラス面をもたらす。

<不動産取引に活用したシステム稼働、世界に先行>

ブロックチェーン推進協会の平野洋一郎・代表理事は「不動産取引へのブロックチェーンとスマートコントラクトの適用は注目分野の1つ。世界各国で実証実験やモデルケースが報告されているが、実稼働している事例は現時点では聞いたことがない」と述べ、積水のシステムが本格稼働すれば世界で初めてになるとの認識を示した。

ウクライナでは、ブロックチェーン技術を使って海外資金を呼び込み、代金支払いから登記まで不動産取引に人手をかけないシステムを構築。いわゆる「スマートコントラクト」が実現したと報道されたが、大量の取引実績はないとみられている。

国内の賃貸分野では、2017年夏にLIFULLがカイカとテックビューロの技術を活用し、散らばって存在している不動産情報をブロックチェーン上で接続・共有し、その有用性を検証する実証実験を開始すると発表した。

政府の規制改革会議でも、ブロックチェーンの活用が議論されおり、ばらばらな公的な土地情報システムの一元化や、民間システムとの連携が実現すれば、効率的な土地活用が進むとの提言がなされている。

ただ、登記簿の正確性や所有者不明の不動産の存在など、不動産取引のスマートコントラクト実現には、クリアすべきハードルが数多く存在する。

このため国土交通省や法務省など不動産取引を所管する官庁サイドでは、システム統合や法改正などへの取り組みは始まっていない。

<不動産仲介業に縮小リスク>

他方、積水の開発したシステムの利用が広がると、不動産仲介業の役割縮小を背景に、同業界の再編も視野に入ってきそうだ。

ブロックチェーン推進協会の平野代表理事によると、ブロックチェーンを活用したシステムが浸透すると、不動産取引に関連した「連絡」「文書処理」「非効率な手続き」などは自動化される。

同氏は「仲介業が実施する作業は大幅に削減され、結果として位置付けは大きく低下・縮小していく」と予想する。

積水ハウスでは、入居契約における不動産代理店や「街の不動産屋」の役割はかなり縮小しても、入居者や物件管理の役割は残り、その存在が全く不要となるということではないとしている。

とはいえ、実際に宅地建物取引士の指導・研修を手掛ける全日本不動産協会では「現状では実用化されておらず何とも言えないものの、実際に(システム稼働によって)仲介行為が出てきたら、仲介業者としては警戒感が出てくるはず」と見ている。

IT化により失われる職業の論文を執筆した英国のマイケル.A.オズボーン教授は、702の職業のうち不動産仲介業を10年後になくなる可能性が高い職業の上位3番目のカテゴリーに入れている。

新システムの稼働は、現在の社会の大きな変動につながる可能性がありそうだ。

(中川泉 編集:田巻一彦)



[東京 9日 ロイター]


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