最新記事

北朝鮮情勢

【北朝鮮情勢】トランプ米政権が鼻血作戦を検討──批判した駐韓大使候補は内定取り消し

2018年2月2日(金)16時45分
ジョン・ハルティワンガー

朝鮮半島上陸を想定して行われた米韓合同軍事演習(2016年8月、韓国・南東部の浦項で) Kim Hong-Ji-REUTERS

<北朝鮮に先制パンチを食わせて戦意を阻喪させてやろうという「鼻血作戦」が愚策かどうかをめぐり米政権が真っ二つ? 失敗したら大変なことになると反対派は言う>

ドナルド・トランプ米政権が北朝鮮の核関連施設などをピンポイントで先制攻撃する「ブラッディ・ノーズ(鼻血)」作戦を検討中だと、複数のメディアが報じた。戦争にならない程度の限定攻撃でアメリカの軍事的優位を示し、北朝鮮に核開発を放棄させることを目的にした軍事作戦だ。だが専門家は、全面的な戦争に発展する恐れがあると警告する。

トランプ政権内では作戦の是非をめぐって意見が対立している。米CNNによれば、レックス・ティラーソン米国務長官とジェームズ・マティス米国防長官は軍事力行使に慎重な立場で、トランプにも自制を促してきた。だがH.R.マクマスター大統領補佐官(国家安全保障問題担当)は、この作戦を真剣に検討するようトランプに進言したとされる。

作戦への賛否は、1年以上空席が続く駐韓米大使の人事をも左右した模様だ。有力候補だった北朝鮮専門家、ビクター・チャが1月30日に指名から外されたのも、この作戦に否定的だったため、と複数のメディアが報じた。ジョージ・W・ブッシュ政権下で北朝鮮の核問題をめぐる6カ国協議次席代表を務めたチャは1月31日、米紙ワシントン・ポストに寄稿した論説で作戦に反対した。「日本にいるアメリカ人は米軍のミサイル防衛に守られるかもしれないが、何百万人もの韓国人は言うまでもなく、韓国にいるアメリカ人は犠牲になる。北朝鮮の一斉砲撃に対し(応射するのがせいぜいで、在日米軍が保有するような)防衛システムが韓国にはない」

中規模都市が全滅する

チャはさらにこう続けた。「はっきり言おう。アメリカが軍事力を見せつければ、抑えの利かない狂った独裁者が頭を冷やして服従するなどと大統領が考えるなら、ピッツバーグかシンシナティのような中規模都市の人口に匹敵する在韓アメリカ人が全滅するだろう」

米共和党の元上院議員で、バラク・オバマ米政権下で国防長官を務めたチャック・ヘーゲルも1月31日、米軍情報誌ミリタリー・タイムズのインタビューで、この作戦のせいで数百万の死者が出ると警告し、アメリカは「もっと賢明に」なるべきだと言った。「金正恩が報復しないという前提で北朝鮮を先制攻撃するなど、無謀な賭けだ。私なら乗らない」

【参考記事】ヘーゲル元米国防長官「北朝鮮への先制攻撃は無謀。日本も大惨事を免れない」

米軍の最高機関である米統合参謀本部は昨年11月、北朝鮮が開発する核兵器や関連施設を完全に破壊するには地上侵攻しかない、とする見解を示した。核兵器や通常兵器の保管場所をほとんど把握できていないためだ。鼻血作戦は北朝鮮の非核化どころか核開発を「助長する」恐れがある、とチャは警告する。

【参考記事】【北朝鮮情勢】米軍の地上侵攻はどんな戦争になるか
【参考記事】米朝戦争になったら勝つのはどっち?

北朝鮮が現在保有する核兵器は25~60個と推定されるが、核弾頭を搭載した大陸間弾道ミサイル(ICBM)でアメリカ本土を攻撃する能力はまだ獲得していない。だがマイク・ポンペオ米中央情報局(CIA)長官は1月23日、北朝鮮がその目標を達成するまでの猶予は「ほんの数カ月だろう」と語っている。

【参考記事】ロシア、米中間選挙に影響を及ぼす可能性=CIAポンペオ長官

(翻訳:河原里香)

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

米カンザスシティー連銀総裁「控えめな引き締め維持す

ビジネス

米クリーブランド連銀総裁、「引き締め的な政策」望む

ビジネス

利下げには追加データ待つべきだった、シカゴ連銀総裁

ビジネス

インドCPI、11月は過去最低から+0.71%に加
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:ジョン・レノン暗殺の真実
特集:ジョン・レノン暗殺の真実
2025年12月16日号(12/ 9発売)

45年前、「20世紀のアイコン」に銃弾を浴びせた男が日本人ジャーナリストに刑務所で語った動機とは

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出を睨み建設急ピッチ
  • 2
    デンマーク国防情報局、初めて米国を「安全保障上の脅威」と明記
  • 3
    受け入れ難い和平案、迫られる軍備拡張──ウクライナの選択肢は「一つ」
  • 4
    【クイズ】「100名の最も偉大な英国人」に唯一選ばれ…
  • 5
    【揺らぐ中国、攻めの高市】柯隆氏「台湾騒動は高市…
  • 6
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 7
    首や手足、胴を切断...ツタンカーメンのミイラ調査開…
  • 8
    人手不足で広がり始めた、非正規から正規雇用へのキ…
  • 9
    中国軍機の「レーダー照射」は敵対的と、元イタリア…
  • 10
    「前を閉めてくれ...」F1観戦モデルの「超密着コーデ…
  • 1
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした「信じられない」光景、海外で大きな話題に
  • 2
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価に与える影響と、サンリオ自社株買いの狙い
  • 3
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だから日本では解決が遠い
  • 4
    兵士の「戦死」で大儲けする女たち...ロシア社会を揺…
  • 5
    健康長寿の鍵は「慢性炎症」にある...「免疫の掃除」…
  • 6
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出…
  • 7
    キャサリン妃を睨む「嫉妬の目」の主はメーガン妃...…
  • 8
    デンマーク国防情報局、初めて米国を「安全保障上の…
  • 9
    ホテルの部屋に残っていた「嫌すぎる行為」の証拠...…
  • 10
    中国軍機の「レーダー照射」は敵対的と、元イタリア…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 3
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸送機「C-130」謎の墜落を捉えた「衝撃映像」が拡散
  • 4
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした…
  • 5
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 6
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 7
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 8
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 9
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 10
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中