最新記事

米経済

政治も経済も......世界は「中心」なき時代へ

2018年2月1日(木)16時30分
ローレンス・サマーズ(元米財務長官)

株式市場と景気をめぐる不安

とはいえこうした状況がいつまで続くか、判断するのは難しい。加えてレバレッジ取引や、プログラム売買(あらかじめ設定したプログラムによる株の売買)の増加というリスクが存在し、下落傾向になれば大量売りが起こる恐れがある。

87年の株価大暴落の直前でさえ、市場が危険なまでのバブル状態にあるようには見受けられなかった事実は覚えておいたほうがいい。

金融機関の健全性をめぐる疑問もある。大手の自己資本比率や流動性は08年金融危機以前と比べてはるかに高まったように見えるが、市場リスク指標が示唆するところによれば、危険はすっかり去ったわけではない。一見したところ自己資本比率が上昇し、レバレッジ比率が減少していながら、銀行株は(金融理論の予測に反して)変動が大幅に小さくなってはいないようだ。

トランプを含めた多くの人々は、金融市場の現状を「安心材料」に挙げる。しかし金融危機が再来したときには、政治的な破滅が待ち受けるだろう。そうなれば、さらに有害なポピュリズム的でナショナリストの政治家が指導者の座に就くことになりかねず、中心は持ちこたえられない。

景気の行方という疑問もある。喜ばしいことにほぼ世界的に景況感は良好だ。インフレがコントロール不能なまでに加速して緊縮財政・金融政策に舵を切ることを余儀なくされることはなさそうだ。大半の予測筋は、景気後退の短期的リスクは低いとみている。

とはいえ景気後退に関する予測は当たらなくて当たり前だ。アメリカの景気拡大は長期間続いており、トランプ政権の問題だらけの経済手腕を考えれば、政策上のミスを犯す可能性は確実に存在する。私がみるところ、向こう数年間の1年ごとの景気後退確率は20~25%、今後3年間に米経済が後退に陥る確率は50%以上だ。

純粋に経済的な観点から見た場合のリスクは、米金利がいまだ低いなかで景気後退が起きても、フェデラル・ファンド金利(政策金利)の大幅引き下げという伝統的な対策が取れないことだ。さらに、財政拡大の意思または余地があるのかも判然としない。

つまり次の景気後退は前回と同じく長く深刻なものになり、世界規模で大きなダメージを与える可能性がある。先の金融危機の際には、09年にロンドンで開かれた20カ国・地域(G20)首脳会議(金融サミット)で対策が協議・合意されたが、今の世界にはそんな政治的能力も欠けているようだ。

深刻な景気後退が起きたら政治と政策にどんな影響があるか、考えてみるだけで恐ろしい。保護主義やポピュリズム、スケープゴート探しの風潮が再来することはほぼ確実で、そうなればやはり中心は持ちこたえられない。

しかし今後数年における最大のリスクは政治的な破滅のループ、すなわち「政府は私たちのためにまともに働かない」という有権者の思い込みが現実になることだ。恨みや不満に基づいて有権者に選ばれた候補者は政府そのものを損ない、さらなる恨みや不満、より問題のある指導者を生み出し、シニシズム(冷笑主義)が社会を支配する。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

ノボノルディスク、不可欠でない職種で採用凍結 競争

ワールド

ウクライナ南部ガス施設に攻撃、冬に向けロシアがエネ

ワールド

習主席、チベット訪問 就任後2度目 記念行事出席へ

ワールド

パレスチナ国家承認、米国民の過半数が支持=ロイター
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:台湾有事 そのとき世界は、日本は
特集:台湾有事 そのとき世界は、日本は
2025年8月26日号(8/19発売)

中国の圧力とアメリカの「変心」に危機感。東アジア最大のリスクを考える

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「レプトスピラ症」が大規模流行中...ヒトやペットに感染、最悪の場合死亡も
  • 2
    「あなた誰?」保育園から帰ってきた3歳の娘が「別人」だった...母親によるビフォーアフター画像にSNS驚愕
  • 3
    「死ぬほど怖い」「気づかず飛び込んでたら...」家のプールを占拠する「巨大な黒いシルエット」にネット戦慄
  • 4
    【クイズ】2028年に完成予定...「世界で最も高いビル…
  • 5
    頭部から「黒い触手のような角」が生えたウサギ、コ…
  • 6
    中国で「妊娠ロボット」発売か――妊娠期間も含め「自…
  • 7
    広大な駐車場が一面、墓場に...ヨーロッパの山火事、…
  • 8
    「自律神経を強化し、脂肪燃焼を促進する」子供も大…
  • 9
    【クイズ】沖縄にも生息、人を襲うことも...「最恐の…
  • 10
    習近平「失脚説」は本当なのか?──「2つのテスト」で…
  • 1
    「自律神経を強化し、脂肪燃焼を促進する」子供も大人も大好きな5つの食べ物
  • 2
    「レプトスピラ症」が大規模流行中...ヒトやペットに感染、最悪の場合死亡も
  • 3
    将来ADHDを発症する「幼少期の兆候」が明らかに?...「就学前後」に気を付けるべきポイント
  • 4
    「あなた誰?」保育園から帰ってきた3歳の娘が「別人…
  • 5
    頭部から「黒い触手のような角」が生えたウサギ、コ…
  • 6
    「死ぬほど怖い」「気づかず飛び込んでたら...」家の…
  • 7
    「笑い声が止まらん...」証明写真でエイリアン化して…
  • 8
    「長女の苦しみ」は大人になってからも...心理学者が…
  • 9
    「何これ...」歯医者のX線写真で「鼻」に写り込んだ…
  • 10
    【クイズ】次のうち、「海軍の規模」で世界トップ5に…
  • 1
    「週4回が理想です」...老化防止に効くマスターベーション、医師が語る熟年世代のセルフケア
  • 2
    こんな症状が出たら「メンタル赤信号」...心療内科医が伝授、「働くための」心とカラダの守り方とは?
  • 3
    「自律神経を強化し、脂肪燃焼を促進する」子供も大人も大好きな5つの食べ物
  • 4
    デカすぎ...母親の骨盤を砕いて生まれてきた「超巨大…
  • 5
    デンマークの動物園、飼えなくなったペットの寄付を…
  • 6
    ウォーキングだけでは「寝たきり」は防げない──自宅…
  • 7
    山道で鉢合わせ、超至近距離に3頭...ハイイログマの…
  • 8
    「レプトスピラ症」が大規模流行中...ヒトやペットに…
  • 9
    将来ADHDを発症する「幼少期の兆候」が明らかに?...…
  • 10
    イラン人は原爆資料館で大泣きする...日本人が忘れた…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中